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錦戸亮の芝居に圧倒されたワケ。 父娘の掛け合いが素晴らしい…NHKドラマ『かぞかぞ』第6話考察レビュー

  • 2024.8.29
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第6話 ©NHK

河合優実主演のNHKドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』が地上波にて放送中。岸田奈美のエッセイを元にした本作は、2023年にNHKBSプレミアム・ NHKBS4Kで放送され大反響を呼んだ。今回は、第6話のレビューをお届け。(文・ 明日菜子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:明日菜子】
視聴ドラマは毎クール25本以上のドラマウォッチャー。文春オンライン、Real Sound、マイナビウーマンなどに寄稿。映画ナタリーの座談会企画にも参加。

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第6話 ©NHK
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第6話 ©NHK

【写真】河合優実&錦戸亮の神演技に涙する劇中カット。『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』劇中カット一覧

「信じるって、ときどき呪いみたいにもなりますよね」

第5話でひとみ(坂井真紀)と久しぶりに再会した耕助(錦戸亮)の元部下・由良(早織)のセリフが頭の中でこだまする。「信じる」という真っ直ぐで無垢な想いは、ときに誰かを奮い立たせ、ときに誰かを縛るものにもなり得る。会社を引き継いだ由良も、耕助の無事を信じつづけ、覆されたあの日から、時間が止まった一人なのかもしれない。

耕助の存在が呪いのようになっているのは、娘の七実(河合優実)も同じだ。半生を語ったインタビュー記事につけられた「悲劇だらけでも大丈夫」という文言で、心の傷を自覚してしまった七実は、とうとう会社に行けなくなってしまう。その傷を長年覆い隠していたのは「大丈夫」という言葉。

辛いときには何度も自分に言い聞かせ、大好きな父からの「七実なら“大丈夫”」という言葉に、いつしか締め付けられていた。かわいそうだと思われないように“大丈夫”な自分でいなければ、と。

だが、シャットダウンした七実の扉を開けたのも、耕助が残した言葉だ。

「俺の家族の物語を紡ぎたい。文才はない。誰かに書いてほしい。ひとみのやさしさ、草太のかわいさ、七実のおもしろさ、俺のすごさ。4人合わされば、最強で最高な岸本家のことをいつか誰かに書いてほしい。(それで映画とかドラマになっちゃったりして)」

由良から託された手帳で耕助の夢を知り、七実は草太(吉田葵)と遊園地に行った日のことを書き始める。かつて父が「七実の友達はこのパソコンの向こうにいくらでもおる」と教えてくれたインターネットという“居場所”で。閉じかけていた父との物語を再び開いたとき、七実は初めて亡き父の姿を目にするのだ。

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第5話 ©NHK
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第5話 ©NHK

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(NHK総合)で折り返しを迎える第5話・第6話において、最も印象的なのは、錦戸亮と河合優実による父娘の掛け合いだ。

錦戸は2023年から2024年にかけて、『離婚しようよ』(Netflix、2023)や河合と再共演を果たした『不適切にもほどがある!』(TBS系、2024)『Re:リベンジ-欲望の果てに-』(フジテレビ系、2024)など今作を含めて出演作がつづいたが、当時テレビドラマに出演するのは2019年の『トレース〜科捜研の男〜』(フジテレビ系)以来約4年ぶり。

俳優・錦戸亮の姿を久しぶりに目にしたが、変わらぬ存在感に圧倒された。例えば『離婚しようよ』で演じた恭二で溢れ出ていた色気が、『かぞかぞ』では一転して“儚さ”へと変化する。子どもたちを見つめる温かいまなざしの中に、もう手が届かない場所に行ってしまった“寂しさ”を共存させられる俳優なのだ。

「私は弱くて、なかなかパパのこと思い出せないんよ」
「そうか」
「パパ、死んでまえって言うてごめんなさい」
「大丈夫」

草太の目に映る耕助は、草太と同じ動きをして、同じ言葉を発する。それは草太が自分なりに父の死を受け入れて、亡き父と共に生きているのだと解釈できるだろう。一方、七実の前に現れた父の幻影は、七実の言葉を繰り返すことはしない。

娘が書いた記事に「いいね」と呟き、娘の謝罪を「大丈夫」と受け入れる。つまり父の幻影を通して、七実は初めて自分自身を許せたのではないだろうか。

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第2話 ©NHK
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』第2話 ©NHK

草太のことを綴った「どん底まで落ちたら、弟が光り輝いて見えた」は、瞬く間に大バズりした。独特な切り口から語られる岸本家のエピソードは次々にバズり、編集者・小野寺(林遣都)の目に留まった七実は『Loupe』をやめて、作家業に専念する。

「家族だけで抱え込んでたら“悲劇”って呼ばれることでも、人を笑わせたら“喜劇”にできるかなって思ってん」

七実曰く作家業は「家族を自慢する仕事」だという。それは、亡き耕助が望んだ「まだ誰もしたことがない仕事」であり、七実にとっては、世間が勝手につけた「かわいそう」「悲劇」というレッテルを自ら貼り直す作業でもあるのだろう。家族の物語を自らの言葉で紡ぐことで、七実は亡き父と、そして母と弟と向き合おうとしている。

次回からはいよいよ作家・岸本七実編がスタートする。海の底に沈んでいくような音はもう聴こえてこない。その代わりにあの沖縄の海を思い出すような波のさざめきが、岸本家を優しく包み込んでいた。

(文・明日菜子)

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