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マンモス狩りに「槍投げ」は使われなかった! ハンターが実践した「本当の倒し方」とは

  • 2024.8.28
Credit: canva

原始時代のマンモス狩りは大抵、狩人が槍を投げる姿で描かれています。

しかし最新研究によると、古代の狩人たちは槍を「投げた」のではなく、「植えた」のかもしれません。

米カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)の考古学研究で、約1万3000年前の北米の狩人たちは、槍を地面に固定した状態で保持し、大型動物たちの突進力を利用して、先端の石器を突き刺していた可能性が見出されたのです。

こうした槍の使い方は「パイク(pike)」と呼ばれており、歴史的に古くから世界各地で実践されていました。

実はパイクを最初に実践したのは1万年以上前の北米人だったのかもしれません。

研究の詳細は2024年8月21日付で科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されています。

目次

  • 槍を投げてもマンモスには刺さらない?
  • パイクは「ハリネズミ戦法」に似ている?
  • 獲物の体内で槍先が折れて「大ダメージ」を与えた可能性

槍を投げてもマンモスには刺さらない?

今から約1万3000年前に北米を中心に栄えた文化を「クローヴィス文化」と呼びます。

その時代の遺跡からは先端が鋭く研磨された独特な石器が何千個も発掘されてきました。

「クローヴィス・ポイント(Clovis point)」です。

クローヴィス・ポイント
クローヴィス・ポイント / Credit: R. Scott Byram et al., PLOS ONE(2024)

クローヴィス・ポイントは大人の親指サイズからiPhone大のサイズまであり、先端はカミソリのように鋭く尖っており、底部には長方形の窪みが見られます。

この窪みに骨か木の棒が取り付けられていました。

中にはマンモスの骨格の中から見つかるケースもあり、当時の狩人たちがクローヴィス・ポイントを使って大型動物を狩猟していたことは間違いありません。

ただ問題は「クローヴィス・ポイントをどのように使って大型動物を倒していたのか」ということです。

昔からよく言われているのは、腕の立つ狩人たちが槍を投げてマンモスに突き刺していたというものでしょう。

皆さんも歴史の教科書や再現VTRなどで、そうした槍投げの姿を散々見せられてきたはずです。

槍は投げても刺さらない?
槍は投げても刺さらない? / Credit: canva/ナゾロジー編集部

しかし研究者らの冷静な見解によると、「人間にはマンモスの分厚い皮を貫くほど十分な速度と勢いで、槍を投げる肩の力がないので、これは極めて非現実的な戦略だったでしょう」と話します。

確実に大型動物を仕留めるには、まったく別の手法に頼らなければなりません。

そこで研究チームが最も可能性の高い戦略として主張するのが「パイク(pike)」です。

パイクは「ハリネズミ戦法」に似ている?

「パイク」という用語は歴史的に見ると、15〜17世紀にかけて、歩兵用の武器として対騎兵・対歩兵に使われた槍の一種のことです。

パイクは一般的に4〜7メートルもの長さがあり、歩兵たちはパイクを持ったまま隙間なく密集あるいは横隊を組んで、相手が突っ込んでくるのを待ち構えて槍先を敵兵に突き刺しました。

いわゆる”ハリネズミ戦法”のようなもので、自ら積極的に槍を投げたり振り回すのではなく、ジッと固定した状態で相手の突進力を利用したのです。

16世紀に描かれたパイク戦術の様子
16世紀に描かれたパイク戦術の様子 / Credit: ja.wikipedia

パイクは相手が突進してくるのを待ち構えるので狙いを外す心配が少ないですし、自分から槍を投げたり、刺しに行くよりも強い力が加わります。

特にパイク戦法は大型動物に有用だったでしょう。

研究主任の一人であるジュン・ウエノ・スンセリ(Jun Ueno Sunseri)氏は「突進してくる動物が生み出すエネルギーは、人間の腕で生み出すエネルギーとは比べ物になりません」と話しています。

これを踏まえてチームは次のような新説を提唱しました。

「クローヴィス文化の狩人たちは槍を地面に固定した状態で保持し、突進してくる動物に突き刺したのではないか」

イメージとしてはこのような感じ
イメージとしてはこのような感じ / Credit: R. Scott Byram et al., PLOS ONE(2024)

チームはパイク戦法が古代から使われていたことを確かめるべく、歴史学や民族誌の文献を広く調査。

その結果、パイク戦法は数千年前から実践されており、古くは古代ギリシャの歴史家クセノフォンが「大きなイノシシを狩るためにパイクを使っていた人々がいる」ことを書き残しています。

19世紀の熊狩りを描いた絵。パイク戦法が使われている
19世紀の熊狩りを描いた絵。パイク戦法が使われている / Credit: R. Scott Byram et al., PLOS ONE(2024)

文字媒体として残っているものでも、2000年以上前にはすでにパイク戦法が使われていたわけですから、もっと以前から狩りの手法として実践されていておかしくありません。

高度な技術力は必要ありませんし、むしろ槍投げを修得するよりも労力は少なく済みます。

そこでチームは最後に、クローヴィス文化の槍でパイク戦法が実践できたかを探るべく、簡単な実験を行いました。

獲物の体内で槍先が折れて「大ダメージ」を与えた可能性

チームはクローヴィス・ポイントを使用した当時の槍のレプリカを作成し、大型動物が突進してきた際の模擬的な力を加えて、槍先にどんな変化が起きるかを検証。

実験では、槍先を地面に静止させた状態で、11.34キロの錘(おもり)を35cm上から自由落下させました。

(実際の使い方は槍のお尻の方を地面に固定して、槍先を程よい角度で獲物の方に向けていた)

クローヴィス文化の槍のレプリカ
クローヴィス文化の槍のレプリカ / Credit: R. Scott Byram et al., PLOS ONE(2024)

ハイスピードカメラで槍先を撮影した結果、クローヴィス・ポイントは獲物の皮膚を貫通し、中で折れて体内に残る可能性が高いことが示されました。

研究者によると、これは「ホローポイント弾の機能に似ている」といいます。

ホローポイント弾とは、中央が空洞(ホロー)になっており、先端(ポイント)が平たくなった銃の弾丸のことです。

これが対象に着弾すると、弾頭が開くように広がることで、弾は貫通せず対象の体内を動き回り内臓を損傷させるという殺傷能力の高さが知られています。

おそらく、クローヴィス・ポイントも獲物の体内に残ることで、槍を投げたりするよりも大ダメージを与えられた可能性が高いといいます。

実際にマンモスの骨格の中からクローヴィス・ポイントが見つかっているのは、パイクが使われていた証拠かもしれません。

ハイスピードカメラで撮影された槍先(体内で中折れする可能性)
ハイスピードカメラで撮影された槍先(体内で中折れする可能性) / Credit: R. Scott Byram et al., PLOS ONE(2024)

以上の結果から、クローヴィス文化の狩人たちが本当にパイク戦法を使っていたと断言することはできませんが、仮説としての説得力は高まりました。

チームは今後数カ月のうちに、マンモスのレプリカを作って、より実際の状況に近いシチュエーションでパイク戦法が実用的だったかを検証する予定です。

もしこの仮説が立証されれば、パイク戦法を最初に発明したのはクローヴィス文化の狩人たちだったということになるでしょう。

参考文献

To kill mammoths in the Ice Age, people used planted pikes, not throwing spears, researchers say
https://news.berkeley.edu/2024/08/21/to-kill-mammoths-in-the-ice-age-people-used-planted-pikes-not-throwing-spears-researchers-say/

These Ingenious Weapons May Have Enabled Ice Age Hunters To Kill Mammoths
https://www.iflscience.com/these-ingenious-weapons-may-have-enabled-ice-age-hunters-to-kill-mammoths-75642

How did prehistoric people hunt mammoths? They didn’t throw their spears
https://www.zmescience.com/science/news-science/how-did-prehistoric-people-hunt-mammoths/

元論文

Clovis points and foreshafts under braced weapon compression: Modeling Pleistocene megafauna encounters with a lithic pike
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0307996

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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