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号泣必至の神回…まひろ(吉高由里子)の心を震わせた父・為時の名言とは? NHK大河ドラマ『光る君へ』第32話考察レビュー

  • 2024.8.28
『光る君へ』第32話より ©NHK

吉高由里子が主演を務める大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)。平安時代中期を舞台に紫式部の生涯を描く。まひろの書いた物語を次第に一条天皇が興味を持ち、いよいよまひろは内裏へ…。今回は、第32話の物語を振り返るレビューをお届けする。【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】(文・苫とり子)
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【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

『光る君へ』第32話より ©NHK

『光る君へ』第32話より ©NHK

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道長(柄本佑)に依頼され、一条天皇(塩野瑛久)に献上するための物語を書いたまひろ(吉高由里子)。道長が語る一条天皇の半生や人となりからインスピレーションを受けた『源氏物語』は本人のお気に召さなかった。だが、まひろは落胆しない。

『光る君へ』第32回「誰がために書く」。一条天皇の手に渡った後も、誰のためでもなく物語を書き続けていたまひろは道長の「それがお前がお前であるための道か」という質問に「左様でございます」と答える。自分が生まれてきた意味をずっと探していたまひろ。それがようやく見つかったかのように、彼女の眼差しには一点に曇りもなかった。

そういえば、ききょう(ファーストサマーウイカ)も「私は私のために生きたい」と言っていたっけ。ききょうもまた定子(高畑充希)の心を慰めるために『枕草子』を書いたが、それは彼女自身のためでもあった。

創作とは本質的に自己満足である。にもかかわらず、時を超えて人の心を捉え続け、千年以上も語り継がれていくのだからすごい。まひろの執筆理由も最初は一条天皇のためだったが、いつしか『源氏物語』を書くことが自分の生まれてきた意味に変わっていった。

だが、一条天皇は物語を読み進めているうちに、作者の博学ぶりに興味を持つようになった。以前も一条天皇は「身分の低いものでも能力次第で官職を得られる仕組みが整えば」と語るまひろに興味を持ったことがある。一条天皇も教養があるため、まひろとはどこかで通ずるものがあるのだろう。

『光る君へ』第32話より ©NHK

『光る君へ』第32話より ©NHK

「その女にまた会ってみたいものだ」という一条天皇の言葉を受け、道長はまひろに娘・彰子(見上愛)の女房として藤壺にあがることを提案する。一条天皇がまひろ目当てで藤壺に足を運ぶようになれば、彰子との仲も深まると考えたのだ。

「おとりでございますか」というまひろの問いに道長は「そうだ」と即答。このやりとりは以前、まひろが「妾になれってこと?」と訊き、道長が「そうだ」と答えたことと重なる。その賢さゆえに相手の目的をすぐ見抜いてしまうまひろと、嘘がつけず打算を正直に打ち明けてしまう道長。本質的なところは、二人とも変わっていない。

政治の道具として扱われることには抵抗感があるまひろだが、以前より家計のためにどこかで女房として働きたいと思っていたのは事実。熟考を重ねた結果、まひろは娘・賢子を実家に預けて、藤壺にあがることを決意する。

賢子は泣き言を言わずとも寂しそうだが、為時(岸谷五朗)は「任せておけ。母を誇りに思う娘に育てるゆえ」とまひろを安心させる。そして旅立ちの日、為時がまひろにかけた言葉に泣かされた。

時折、涙で言葉に詰まりそうになりながらも「お前が…女子で良かった」とまひろに伝えた為時。まひろは幼い頃から為時の影響で文学に親しみ、才もあったが、女性であるというただそれだけの理由で内裏にあがることは叶わない運命だった。それゆえに為時は「お前が男であったら」と悔い、世間の目を気にしてまひろがやりがいを感じてた代筆の仕事を取り上げたこともある。

それでも自分らしくいられる道を模索し続けた結果、まひろは本来望んでいた形とは違うかもしれないが、内裏にあがることが叶った。その苦労を労うかのような父の言葉にまひろの心は震える。

ぶつかり合ったことも多々あれど、同じ目線で互いを鼓舞し合いながら歩んできたまひろと為時。なんて素敵な親子関係なのだろう。

『光る君へ』第32話より ©NHK

『光る君へ』第32話より ©NHK

そして雪がしんしんと降り積もる中で皆と別れ、内裏にあがったまひろ。その少し前、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)がついに世を去った。

自分の死期を察した晴明はその直前、道長に「呪詛も祈祷も、人の心の在り様なのでございますよ。私が何もせずとも、人の心が勝手に震えるのでございます」「何も恐れることはございません。思いの儘におやりなさい」と言葉をかける。

それは彼なりの励ましだったのだろう。道長の父・兼家(段田安則)の時代から政局にも多大な影響を及ぼしてきた陰陽師・安倍晴明は最初から最後まで不思議な存在だった。

兼家との腹の探り合いや駆け引きを心から楽しんでいるように見えた晴明。道長がその兼家とは異なる手段で権力を我が物にしていく過程も興味深く見守っていたのではないだろうか。どこか人ならざる雰囲気があった晴明だが、最期に道長へ声をかけた瞬間だけは人間らしい一面を覗かせた。

その直後、皆既月食が起き、内裏から火の手が上がる。一条天皇は建物から逃げる道すがら、敦康親王を逃すもまだ中にとどまっていた彰子と遭遇し、「そなたは何をしておる」と質問を投げかける。それに対し、「お上はいかがなされたかと思いまして」と遠慮がちに答える彰子。

これまで彼女は道長に言いなりで自分がないように見えていたが、危機に際して誰の命令でもなく自分の意志で一条天皇を案じ、建物内にとどまっていた。

そのことに彰子を敢えて見ないようにしていた一条天皇も心が動いた様子。彰子の手をとり、ともに建物から避難した。彰子が途中で転んでしまった際も、「大事ないか」と優しく身体を起こした一条天皇。彼の心は依然として亡き定子のもとにあるが、一歩歩み寄った2人の距離をまひろはさらに近づけることができるのだろうか。

(文・苫とり子)

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