【ナショナル・ポートレート・ギャラリー】英国・ロンドン
およそ75億円を投入した大規模改修を終え、2023年7月に3年ぶりに再オープンを果たした肖像画のみを展示するユニークな美術館。展示スペースは2割ほど増え、歴史的建造物にありがちな薄暗い会場は、ガラス窓を多用することで、自然光が差し込む明るい空間に一新された。新ギャラリーの顔ともいうべきエントランスの3枚の扉には、トレーシー・エミンによって45人の女性像が刻まれた。ジャン・ハワースとリバティ・ブレイクによるヴァージニア・ウルフやケイト・モスの大型の肖像画、英国の黒人女性アーティスト、トーマス・J・プライスによるブロンズ彫刻「リーチング・アウト」など、近現代の女性の肖像も数多く加わり、それらの新作が、17世紀のジョン・テイラーの作とされるシェイクスピアの肖像画など歴史上の人物のポートレートと、違和感なく同居している。
ナショナル・ポートレート・ギャラリー(National Portrait Gallery )
St Martin’s Place ,London WC2H 0HE , U.K.
Tel./+44-20-7306-0055
https://www.npg.org.uk/
【クンストシロ】ノルウェー・クリスチャンサン
総額200兆円を超える政府系ファンドを運用するノルウェー中央銀行投資管理部門のCEO、ニコライ・タンゲンは、ノルウェー有数の資産家であり、長者番付の常連だ。その彼が、2015年に30年以上かけて収集した1,000点以上の美術品を、故郷のクリスチャンサンに寄付すると発表した。展示会場として、港に隣接する穀物倉庫に着目。飢餓に備えるために穀物を貯蔵してきた高さ40m、30個のコンクリート円筒からなるサイロ(倉庫)を、アートを収蔵するサイロに改修し、構想から9年後の2024年5月11日に開業にこぎ着けた。クンストシロの素晴らしさは、北欧の現代アートに絞り込んだタンゲン・コレクション。ピカソもゴッホもないが、ノルウェーのレイダー・オーリーやデンマークのフランチェスカ・クラウセンなど、1920年以降に活躍したアーティストを中心に約5,500点の作品を揃えている。
クンストシロ(Kunstsilo)
Sjølystveien 8, 4610 Kristiansand, Norway
Tel./+47-38-07-49-00
https://www.kunstsilo.no/
【VS.】大阪市
大阪・関西万博を目前に控えた大阪で、今年最大の再開発プロジェクト「グラングリーン大阪」が、いよいよ始動する。先行まちびらきとして9月6日にオープンするショップ、レストラン19店舗と同時に、緑が広がる公園の中に異彩を放つ“2つの箱”が出現する。内部には3つのスタジオに分かれた合計約1,400㎡の展示空間があり、特に天井高15mの Studio Aは、没⼊感のあるデジタル映像の上映や⼤型のインスタレーションの展⽰が可能だ。VS.は、さまざまなジャンルの人々が、「良い対峙」をしながら新たな価値や関係性を生むことを理想とする新しいミュージアムだ。オープニング記念は真鍋大度の新作個展「Continuum Resonance:連続する共鳴」、11月1日からは著名アーティストやブランドのビジュアルを数多く手がける吉田ユニの個展が予定されている。
VS.
大阪府大阪市北区大深町6-86
グラングリーン大阪 うめきた公園 ノースパーク VS.
https://vsvs.jp/
【ラインハルト・エルンスト美術館】ドイツ・ヴィースバーデン
ヨーロッパで最も古い温泉地の一つであるドイツ・ヘッセン州のヴィースバーデンに、2024年6月23日にオープンしたばかりの美術館。地元の起業家、ラインハルト・エルンストが、1980年代から収集した作品には、ドイツをはじめとするヨーロッパの抽象芸術に加え、ヘレン・フランケンサーラー、ロバート・マザーウェル、リチャード・ディーベンコーン、ジャクソン・ポロックなど米国のアーティストの作品、日本の井上有一の書などが含まれ、1940年代から50年代にかけてNYを中心に隆盛を極めた抽象表現主義というムーブメントの特徴を知ることができる貴重なコレクションだ。設計は、プリツカー賞受賞の槇文彦。残念ながら開館を待たずに、6月6日に亡くなってしまったが、彼がぎりぎりまで手掛けていた最後の作品群のひとつでもある。
ラインハルト・エルンスト美術館(Museum Reinhard Ernst)
Wilhelmstraße 1, 65185 Wiesbaden, Germany
Tel./+49-611-763-8888-0
https://www.museum-re.de/en/
【国立女性美術館】米国・ワシントンDC
2023年10月21日に再オープンした、米国初の女性とクイアのアーティストに特化した美術館。1903年にフリーメイソン寺院として設計されたネオルネッサンス様式の建物に、2年間の歳月と6,600万ドルを費やして大規模なリノベーションを施し、展示スペースを15%ほど拡張。大型のインスタレーションも展示可能になった。約6,000点のコレクションには、マリー・アントワネットお抱えの宮廷画家として知られるエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランに始まり、フランスの最高勲章・レジオンドヌール勲章を女性芸術家としてはじめて受賞したローザ・ボヌール、エドガー・ドガの絵画に触発されて米国人としては珍しく印象派に参加したメアリー・カサット、メキシコの現代アートを代表する民族派の画家のひとり、フリーダ・カーロなどの貴重な作品が鑑賞できる。
国立女性美術館(National Museum of Women in the Arts)
1250 New York Ave. NW, Washington DC 20005, United States
Tel./+1-202-783-5000
https://nmwa.org/
【M+】香港
香港の西九龍文化地区に2021年11月にオープンしたアジア初の世界的なビジュアル・カルチャー美術館。総床面積65,000㎡に33のギャラリーという途方もない広さのスペースに、香港、中国本土だけでなく、アジア各地、世界をカバーするビジュアルアート、デザイン・建築、動画の3分野の約8,000点以上のコレクションを収蔵。大衆文化やテクノロジー指向の表現方法などを含む視覚文化(ビジュアル・カルチャー)が集合し、絵画だけでなく、建築模型、グラフィックデザイン、工業製品、ゲームなどの展示が、香港という都市の特色を際立たせている。1階のパブリックスペースでは映像作品を常時上映しているほか、2階の「キャビネット」コーナーには、200点以上のダイナミックコンテンツが展示され、自分のスマホなどで体験できる。インタラクティブな体験は、これからの美術館の在り方を示しているようだ。
M+(エムプラス)
West Kowloon Cultural District, 38 Museum Drive, Kowloon, Hong Kong
https://www.mplus.org.hk/
【オスロ国立美術館】ノルウェー・オスロ
2022年6月にオープンした北欧地域で最大級の美術館。オスロ港を一望するスクエアな建物は、ドイツの建築家グループ「クライフス+シュベルク」のデザインによるもの。ノルウェー政府が推進する、温室効果ガスの排出量を半分以下に削減する取り組み「FutureBuiltプログラム」にも参加している。2フロア、約90の展示室に古美術から近・現代美術、建築、デザイン、工芸まで5,000点以上を常設展示。2階の中央部には、1893年作の「叫び」を含むムンクの作品が集結。一足先の2021年10月に、歩いて30分ほどの場所に開館した「ムンク美術館」には、クレヨン画、テンペラ・油彩、リトグラフという異なる3つの手法の「叫び」も展示されている。海沿いの景色を眺めながら街散策を兼ねた美術館のハシゴがおすすめだ。
オスロ国立美術館(The National Museum of Norway)
Brynjulf Bulls plass 3, 0250 Oslo, Norway
Tel./+47-21-98-20-00
https://www.nasjonalmuseet.no/
【ブルス・ドゥ・コメルス】フランス・パリ
パリの中心部、ルーブル博物館とポンピドゥセンターの間に位置する、1767年に開設された穀物取引場の建物をリノベーション。グッチ、イヴ・サンローラン、バレンシアガなどを擁するケリングの総帥、フランソワ・アンリ・ピノーが世界中のアーティスト約350人の10,000点余りの作品を集めた「ピノー・コレクション」を展示する。設計は安藤忠雄。巨大なガラス張りのドーム屋根を持つ伝統建築の建物の中心に、直径29mのモダンな鉄筋コンクリートの円筒を収めて、展示スペースを構成した。絵画、彫刻に限らず、写真、インスタレーション、動画や音声作品などあらゆる芸術表現が対象で、新進アーティストの作品も幅広く受け入れる。講演会、パフォーマンス、コンサートなど、年間を通して多彩なプログラムを用意し、常に新たな“体験”を提案している。
ブルス・ド・コメルス(Bourse de Commerce)
2 Rue de Viarmes, 75001 Paris, France
Tel./+33-1-55-04-60-60
https://www.pinaultcollection.com/fr/boursedecommerce
【下瀬美術館】広島県・大竹市
広島・大竹市の下瀬美術館が、2024年6月13日、ユネスコが発表する世界的な建築賞・ベルサイユ賞の「世界で最も美しい美術館」部門に選出された。今年選ばれた7館のうち、日本からは唯一の受賞だ。設計を担当した坂茂は、美術館の前に広がる瀬戸内海の島々から、水盤の上に8つの可動展示室を浮かべるというアイデアを着想。それを広島が誇る造船技術によって実現した。地元企業の丸井産業の経営者、下瀬ゆみ子が先代から引き継ぎ、半世紀をかけて形成したコレクションには、原点ともいえる京人形・雛人形を中心とする工芸品に始まり、エミール・ガレのガラス作品や家具、ミレー、ピサロ、ルノワールなどの油彩画、東山魁夷、加山又造、小磯良平を中心とする日本の近代美術などが含まれ、ゆっくりと時間をかけて鑑賞したい。
下瀬美術館
広島県大竹市晴海2-10-50(Simose Art Garden Villa内)
Tel./0827-94-4000
https://simose-museum.jp/
【横浜美術館】横浜市
今年3月に大規模改修工事を終えて、約3年ぶりにリニューアルオープンした横浜美術館。外部に保管していた約14,000点のコレクションを館内に戻すために、6月10日から10月末まで一時的に休館しているが、11月に一部再開し、2025年2月には全面的に開館する。全長180メートルのファサードを持つ美しいシンメトリーの建物は、丹下健三の設計。リニューアルにあたって巨大なガラス天井の開閉式ルーバーが修復され、その下に広がるグランドギャラリーは、無料で入場できる開かれた空間「じゆうエリア」として開放され、誰もが思い思いに過ごせる場所になる予定だ。収蔵作品には、ダリやピカソ、マグリットなどのダダ・シュルレアリスムを中心とした絵画や、日本における写真発祥の地にちなむ歴史的な写真作品など、貴重なコレクションも多く、全面オープンが待ち遠しい。
横浜美術館
神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
Tel./045-221-0300
https://yokohama.art.museum/
※※2024年6月10日から10月31日まで休館。11月1日に一部開館、2025年2月に全面開館を予定。
Text: Yuka Kumano Editor: Sakura Karugane