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視聴者を夢中にした『日曜劇場』の名作に再脚光 虜になるワケは“圧倒的スケールと演じ分け”

  • 2024.11.10

放送から1年以上が経過してもなお『VIVANT』(TBS系)の話題が尽きない。

10月28日に開かれた「東京ドラマアウォード2024」にて、連続ドラマ部門のグランプリに『VIVANT』が選ばれたのだ。10月2日に開催の『第29回釜山国際映画祭』でも、日本からのノミネート作品の一つに『VIVANT』が選ばれており、今年6月に配信を開始している『VIVANT』オーディオブックなども含め、『VIVANT』再評価の気運を感じずにはいられない。

オンエアから1年が経った今、筆者は『VIVANT』をもう一度視聴した。地上波のみならず、配信、さらに劇場と日々新たな作品が生まれ、トレンドもすぐに塗り変わっていく中で、ある種同じ作品をもう一度観るということは珍しいことになっているのかもしれない。ただ、コロナ禍によって再放送を余儀なくされた2020年放送の朝ドラ『エール』(NHK総合)は、半強制的とも言える再視聴が大きく評価されたタイミングでもあった。第1話にてすでに中盤の物語に繋がる物語の要素、つまりは伏線がふんだんに描かれていたからだ。また、先日再放送の発表自体が大きな話題となった朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)もあり、その時に観る再視聴の価値、気づきというのは確実に存在している。

※ネタバレを含みますので、ご注意ください。

Netflixにも負けない、地上波ドラマとしての気迫とスケール

『VIVANT』を再視聴して改めて感じるのは、今もなお地上波とは思えないクオリティであること。というのは、視聴者はNetflixオリジナルのドラマのヒットにより、目が肥えてしまっている。それは『VIVANT』放送時から顕著であったが、2024年に入ってからは『地面師たち』や『極悪女王』といった作品のヒットによって、クオリティの水準は引き上げられていると言える。

「東京ドラマアウォード2024」のステージにて、原作と演出を手がけた福澤克雄氏、プロデューサーの飯田和孝氏は「テレビの復権」というワードを用いて、莫大な予算に触れながら、「面白いものを作れば観てくれるということが証明できた」とコメントしている。モンゴルでの長期間のロケは破格の制作費を要したことはすでにあらゆる場面で言及されており、テイストは違えど、以降多くの局、チームが“『VIVANT』のような”スケールの作品を目指していった。海外ロケを含め、『VIVANT』を意識したとも思える作品が生まれてはそこまで話題にならずに消えていくということを繰り返しており、飯田氏がコメントの中で挙げた『華麗なる一族』『南極大陸』という連綿と続くドラマ史に残るさらなる金字塔を『VIVANT』は打ちたてたと言ってもいいだろう。

観ていて改めて感じるのは、緻密なストーリー構成と全10話を一気に見せることもできる言わばNetflix的ともいうような全体のストーリー構成。ミクロとマクロである。乃木(堺雅人)が別班という序盤の大きな山場を経てもなお物語は疾走し続け、最終話の残り10分、乃木が実の父であるベキ(役所広司)を射殺(したように見せる)するところまで、全く予想できない物語がシームレスに展開されていく。日本に帰国するため、チンギス(バルサラハガバ・バトボルド)の追走を振り切り、決死の覚悟で“死の砂漠”と呼ばれるアド砂漠を渡りきる第3話までの展開から一転、まるで『ミッション: インポッシブル』シリーズのような乃木のサーバールームへの侵入、株の信用取引を利用したテントの一発逆転の金儲け、フローライト採掘主導権の奪い合いなど、『VIVANT』としてのテイストはそのままに作品の様々な表情、奥行きを見せていくのは、視聴者を飽きさせない、さらにのめり込ませていくポイントである。

堺雅人の演じ分けと宗教的描写

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(C)SANKEI

ドラム(富栄ドラム)をはじめとする個性的なキャラクターたちも魅力的であるが、特筆すべきは乃木を演じる堺雅人の演じ分けだろう。それは乃木、別人格の「F」、さらに別班としての乃木(F)の大きく分けて3つ。第4話の終盤、「警察とは似て非なるもの」と暗闇の奥から山本(迫田孝也)の前に現れる乃木の衝撃、恐怖と言ったらない。一方で、薫(二階堂ふみ)やジャミーン(ナンディン・エルデネ・ホンゴルズル)、ベキに注ぐ愛情が、乃木という一人の人間としての成長を感じさせてもいる。

また、改めて見返して気づいたのは、様々な宗教的描写がインサートされていること。架空の国「バルカ共和国」は宗教が混在しているものの、イスラム教徒が印象的に登場している。動物を撃てないというのを逆手に、乃木や野崎(阿部寛)たちは馬に乗って街を走り抜けた。第1話では野崎の「他人の宗教を尊重する日本人が珍しいんだ」というセリフがあるが、最終話でベキは「神は一つではないという考えがあることで、相手の宗教にも理解を示し、違いを超えて結婚をする。日本には、考えの違う相手を尊重する美徳がある」とも話している。例えば、第4話にて山本をマークし太田(飯沼愛)を救出する作戦の前、野崎たち公安が神頼みをするシーンがあるが、その中の鈴木(内野謙太)は十字を切り、神に祈りを捧げていた。乃木は特定の宗教を信仰していないと思われるが、毎朝、神田明神を参拝している。別班の緊急招集の連絡方法は赤の別班饅頭を指定の神社に置くことであり、お参りをすることで常に祠の確認をしているのだ。第5話で乃木は別班の司令・櫻井(キムラ緑子)にこの手段を用いている。そして、最終回の神田明神でのラストシーン。薫とジャミーンとの再会の最中、「置いてあるぞ」とFに教えられた乃木は祠にある別班饅頭を見つけ、物語は幕を閉じる。それは別班の緊急招集が乃木にきているということ。つまり乃木の別班としての任務、『VIVANT』の物語は終わっていないということだ。

金字塔を打ち立て、新たなドラマの指標を作った『VIVANT』。予算的にも、クオリティとしてもチームがもう一度『VIVANT』を制作することは相当の覚悟が必要になるが、続編を待ち望む声は増すばかりだ。


ライター:渡辺彰浩
1988年生まれ。福島県出身。リアルサウンド編集部を経て独立。荒木飛呂彦、藤井健太郎、乃木坂46など多岐にわたるインタビューを担当。映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』、ドラマ『岸辺露伴は動かない』展、『LIVE AZUMA』ではオフィシャルライターを務める。