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『ヒロアカ』『呪術』に続けるか? “新たなジャンプの看板作品6選”

  • 2024.11.14

『僕のヒーローアカデミア』(以下、『ヒロアカ』)、『呪術廻戦』(以下、『呪術』)という看板作品が終わったことで、週刊少年ジャンプ(集英社)の危機が叫ばれている。

もちろん一番の看板作品である尾田栄一郎の『ONE PIECE』は連載中で、不定期掲載となっている冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』も2024年45号から、久しぶりに最新話が掲載されており、No.1少年誌としての存在感は今も健在だ。しかし、10年続いた『ヒロアカ』と6年半続いた『呪術』が終了した衝撃は大きく、『幽☆遊☆白書』、『DRAGON BALL』、『SLAM DUNK』といった人気連載が終わったことで部数が激減した90年代後半のジャンプ暗黒時代が再び到来するのではないかと懸念する声も少なくない。

だが、ジャンプの暗黒時代を終わらせたのが1997年に連載がスタートした『ONE PIECE』であったように、人気作の連載が終わると、入れ替わる型で新たな人気作が始まるのもまた、少年ジャンプの伝統である。
それは現在のジャンプにも言えることだ。
新人、ベテラン問わず、漫画家の層は分厚く、現在連載中の作品の中からポスト『ヒロアカ』、ポスト『呪術』となり得る作品が、いつ出てきてもおかしくない。

近年のジャンプ漫画は、アニメ化の成功がヒットの行方を左右する

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PIXTA

たとえば、10月からアニメ版の放送がスタートした三浦麹の『アオのハコ』。

本作は中高一貫のスポーツ強豪校を舞台に、男子バドミントン部の猪俣大喜が一年年上のバスケ部の先輩・鹿野千夏に片思いする様を描いた青春ラブストーリーだ。
近年のジャンプではあまりなかった普通の高校生が主人公の青春漫画で、思春期の少年少女の繊細な心の機微を丁寧に描く作風は、どちらかというと少女漫画に近い。
かつてなら青年誌や少女誌に掲載されていたような作品も積極的に連載しているのが、近年のジャンプの強さだが、『アオのハコ』の連載が始まった時は「これがジャンプに載るのか?」と、衝撃だった。
本作の少女漫画的な作風は、ジャンプ漫画を普段読まない少女漫画や学園青春ドラマを見るようなファン層にこそ刺さるのではないかと思っていたが、今回のアニメ化によって、大ヒット作となるのではないかと、期待している。

吾峠呼世晴の『鬼滅の刃』が、2019年のアニメ化をきっかけに社会現象となって以降、アニメ化の成功が、近年のジャンプ漫画のヒットの鍵となっており、本誌読者以外のファン層を獲得する重要な機会となっている。
何より電子書籍が普及した影響は大きく、近年は、アニメで作品を知ったファンが、電子書籍で全巻まとめ買いするという流れが確立されている。つまり、アニメ化によって作品が改めて注目され、コミックスの売り上げが倍増していくという流れが生まれたことが今のジャンプの勢いに繋がっているのだが、松井優征の『逃げ上手の若君』も、前クールにアニメ化されたことで一気に知名度が高まった。

本作は鎌倉時代末から室町時代にかけてを舞台にした歴史漫画で、鎌倉幕府を滅ぼした足利尊氏に逃げながら戦いを挑む、北条時行が主人公の物語だ。
作者の松井優征は過去にジャンプで『魔人探偵脳噛ネウロ』、『暗殺教室』をヒットさせたベテラン漫画家。今回の『逃げ上手の若君』も少年漫画では馴染みの薄い日本の中世を舞台にした歴史漫画なので一見敷居が高く感じるが、作者の巧みな構成力で、とても読みやすい漫画に仕上がっていた。
今回のアニメ化で本誌を読んでないアニメ好きや大河ドラマが好きな歴史クラスタにも知られるようになった『逃げ上手の若君』は、ジャンプの新たな看板作品となったと言って間違えないだろう。

2025年にアニメ化が予定されている『ウィッチウォッチ』と『SAKAMOTO DAYS』も今後、ポスト『ヒロアカ』、ポスト『呪術』となり得る可能性を秘めた注目作だろう。

『ウィッチウォッチ』は魔女のニコと、彼女の使い魔となった鬼の力を持つ少年・モリヒトが主人公の学園ファンタジー漫画。登場人物が魔女、狼男、吸血鬼といった異形の怪物で、彼らが通う学校が物語の舞台となっている。
作者は過去にジャンプで『SKET DANCE』をヒットさせた篠原健太で、ファンタジーテイストのギャグ漫画として気楽に楽しめる。絵柄もポップで、ネットで流行っているネタを物語の中にうまく取り込んでおり、松井優征同様、ベテランならではの安定感がある。

一方、『SAKAMOTO DAYS』は、かつて最強の殺し屋と呼ばれた坂本太郎が、殺し屋を引退して坂本商店の店長として暮らす姿を描いたコメディアクション漫画。
緩いコメディとハードなアクションの緩急が面白い作品だが、殺し屋たちが戦うバトル描写が突出しており、漫画としての見せ場となっている。アニメ化されて動きが加わった際に、どれだけ派手なアクションが描けるかが、ヒットの鍵となるのではないかと思う。

大きな盛り上がりを見せている『あかね噺』と『カグラバチ』

最後に、まだアニメ化は決まってないが、本誌連載で大きな盛り上がりを見せているのが、『あかね噺』と『カグラバチ』だ。

末永裕樹(原作)と馬上鷹将(作画)が手がける『あかね噺』は、落語を題材にした漫画で、主人公の桜咲朱音が、落語家だったが真打になれなかった父親の無念を晴らすために落語家を目指す物語。劇中には落語の演目が多数登場し、噺家の演目対決を、ジャンプらしいバトル漫画に落とし込んでいることが一番の魅力だろう。
コミックスの第1巻の帯に『ONE PIECE』の尾田栄一郎、第2巻の帯にアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』等の監督として知られる庵野秀明がコメントを寄せたことも大きな話題となったが、本業の落語家や落語関係者からの評判も高く、すでに本誌の外側でも大きな話題になっているのが、他のジャンプ作品との大きな違いだろう。

一方、外薗健が手がける『カグラバチ』は、架空の日本を舞台にした剣劇アクション漫画で、主人公の六平チヒロが、刀匠の父を殺して妖刀を奪った敵を倒すために、妖刀を操る妖術師となって戦う物語だ。
『NARUTO -ナルト-』の岸本斉史の影響を感じさせる白と黒のコントラストがはっきりとした和のテイストを現代風にアレンジした作画によって展開される剣劇バトルが実に見事で、毎話引き込まれる。
連載が始まったのは2023年で、コミックスはまだ4巻だが、すでに新たな看板作品としての風格を漂わせており、ファンタジーテイストのバトル漫画という意味では、最もポスト『ヒロアカ』、ポスト『呪術』と言える作品かもしれない。

今回紹介した作品は、どれもポテンシャルを秘めた面白い漫画だ。
気になる方は是非、一読を。



ライター:成馬零一

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。