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『下妻物語』『木更津キャッツアイ』平成の名作に通じる『おむすび』密かに仕込まれた“懐かしネタ”に注目!

  • 2024.10.22

新しく始まった連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『おむすび』(NHK)を毎日見ていると、懐かしい気持ちになる。

本作は福岡県の糸島で暮らす米田結(橋本環奈)が栄養士を目指す物語。
脚本は『監察医 朝顔』(フジテレビ系)、『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』(日本テレビ系)、『正直不動産』(NHK)といったドラマの脚本で知られる根本ノンジが担当している。

この記事を執筆している第2週終了時点では、結はまだ糸島東高校の学生で、時代は2004年。
筆者は00年代に福岡に住んでいて、劇中に登場する糸島、天神、博多についてもある程度の土地勘がある。

そのため結の学校や家がどの辺りにあるのか何となくだがイメージできる。 筆者の年齢は結より年上で、劇中の舞台となっている2004年の時点では20代後半だったが、それでも彼女がどういう風景を見ながら生活しているかは、ある程度は想像がつく。

放送2週目にして早くも思い入れの強い作品となっているのだが、同時に興味深く見ているのが、劇中で描かれる00年代カルチャーだ。

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『おむすび』第2週(C)NHK

ギャルとヨン様。朝ドラに散りばめられた懐かしの00年代。

これは序盤で大きくフィーチャーされている結が知り合うハギャレン(博多ギャル連合)のギャルたちの姿に、もっとも強く現れている。彼女たちは天神のゲームセンターにたむろし、プリクラを取ったりメイクをしたりお菓子を食べながら、仲間たちとダラダラとおしゃべりをしている。

面白いのはそんなギャルたちが、すでに絶滅の危機に瀕しており、ギャルの全盛期だった90年代を懐かしく思っていること。そんな輝かしい90年代ギャルの象徴が、まだ劇中には登場していない結の姉のアユこと米田歩(仲里依紗)。彼女はハギャレンの創設者にして初代総長で、福岡では伝説のギャルと呼ばれている。姉とうまくいっていなかった結ははじめはギャルたちと衝突するが、少しずつ仲良くなり、いっしょに行動するようになっていく。

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『おむすび』第3週(C)NHK

一方で結は書道部に所属しており、書道部の先輩・風見亮介(松本怜生)に憧れている。そんな風見は野球が好きで、書道部で書いた横断幕を初披露した野球部の試合では野球オタクとしての別の顔を見せる。試合では結の幼なじみで同級生のバッター・古賀陽太(菅生新樹)と、「福西のヨン様」と呼ばれている福岡西高校のピッチャー・四ツ木翔也(佐野勇斗)が対決する。実は二人とも結とは因縁があり、今後の展開に深く関わっていきそうだ。

ちなみに「福西のヨン様」のヨン様とは、当時、大流行していた韓国ドラマ『冬のソナタ』で主演を務めたぺ・ヨンジュンの愛称から取られているのだ。劇中でほとんど説明がないので、当時を知らない人からすると「?」だが、物語に絡まないことは深く説明せず、調べて楽しむ余白を用意しているのが、本作の面白さだ。

このハギャレンを中心としたストリートの世界と、書道部を中心とした学校の世界を結が行き来することで、物語は動いていくのだが、この二つの世界の対比は00年代カルチャーを的確に示している。

ハギャレンのギャルたちを見ていて思い出すのは、00年代に宮藤官九郎が脚本を手がけた2000年の『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系、以下『池袋』)と2002年の『木更津キャッツアイ』(同、以下『木更津』)という二作の連続ドラマだ。

どちらも地元の街で生活する若者たちが主人公の青春ドラマで宮藤の出世作となった作品だが、『池袋』ではカラーギャングのGボーイズ、『木更津』では怪盗団の木更津キャツアイという若者たちのチームが登場する。ハギャレンを見ていて思い出したのは宮藤が00年代にドラマで書いて若者たちで、特にハギャレンの「ダサいことしない」という掟は、この二作でも登場する価値観で、当時の宮藤は、若者の行動原理を善悪ではなく「ダサいか、ダサくないか」という美意識で描いていた。

この二作は男の子たちの物語だったが、よりハギャレンの空気と近いものを感じるのは2004年に公開された中島哲也監督の映画『下妻物語』だ。

本作は、茨城県下妻市で暮らすロリータファッションを愛する少女とヤンキー少女の友情を描いた青春ドラマで、本作のような地方を舞台にした青春ドラマの傑作が00年代には多数作られた。また、ギャルの青春を描いた作品というと、2006年の連続ドラマ『ギャルサー』(日本テレビ系)も忘れられない。パラパラが好きなギャルのたちが集まる渋谷にカウボーイ(藤木道人)が現れたことで巻き起こる騒動を描いたコメディタッチのドラマだったが、00年代の東京のギャル文化の記録として貴重な作品で、地方のギャルを描いた『おむすび』と比較すると色々発見がある。

一方、結が所属する書道部の部活動の様子や野球観戦の様子を見ていて思い出すのが、同じく00年代に大ヒットした部活モノの学園青春映画。文化祭でシンクロナイズドスイミングを発表することになった男子高校生たちの青春を描いた矢口史靖監督の2001年の映画『ウォーターボーイズ』がヒットして以降、『スウィグガールズ』や『リンダ リンダ リンダ』といった、部活等で一つの目的をやり遂げる学生たちの青春を描いた映画やドラマが多数作られた。

『おむすび』の書道部の様子を観ていて思い出すのは、当時ヒットしたマイナー部活モノの作品だ。糸島フェスティバルでパラパラを踊るために結がハギャレンのギャルと共に練習をしている場面にも、その気配が濃厚に漂っている。つまり本作は、00年代という時代を描くと同時に、00年代フィクションを批評的に描いた朝ドラと言えるだろう。

『おむすび』は震災をどのように描くのか?

最後に、これから重要なエピソードとして描かれそうなのが、結の家族が神戸で経験した1995年の阪神淡路大震災の被災体験だ。

米田家が神戸で被災したことは宣伝等で事前に告知されているのだが、まだ言及はされていない(第2週終了時点)。ただ、結の父親が結のことを過度に心配していることや、何かに熱中しても、全て失われてしまうから意味がないという厭世感を結が抱えているは背後に、彼女の被災経験にあることは明らかで、姉の歩がギャルになって米田家と疎遠で腫れ物扱いされていることとも関係があるのかもしれない。

00年代カルチャーのあるあるネタや被災体験が、結が栄養士になる物語とどのように絡んでのかが今後の見どころだろう、 00年代の福岡という近過去の懐かしさに浸りながら、結の成長をゆっくり見届けたいと思う。



NHK 連続テレビ小説『おむすび』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。