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【本日、最終話】 人気漫画『呪術廻戦』が大ヒットした「二つの理由」

  • 2024.9.30
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ぱくたそ[ https://www.pakutaso.com ] ※写真はイメージです

芥見下々の漫画『呪術廻戦』(集英社)が、本日9月30日に週刊少年ジャンプ2024年44号で最終回を迎えた。 本作は、人間の「負の感情」から生まれる呪霊を祓う呪術師たちの戦いを描いたダークファンタジー。

主人公の少年・虎杖悠仁は、呪の王・両面宿儺を祓うために都立呪術高専に入学。先生の五条悟の指導のもとで、伏黒恵、釘崎野薔薇たち高専の仲間たちと共に呪術師として成長していく。

2018年に連載がスタートした本作は、尾田栄一郎の『ONE PIECE』、堀越耕平の『僕のヒーローアカデミア』と並ぶ近年の少年ジャンプを代表する三大看板作品として人気を博した。

2020年にアニメ化されて以降はファン層がより広がり、単行本の売上も急上昇。2024年に発売された25巻の時点で電子書籍も含む累計発行部数は9000万部を突破した。

また、本編の前日譚となる『東京都立呪術高等専門学校』を2021年にアニメ映画化した『劇場版 呪術廻戦0』は興行収入137.5億を突破するヒット作となり、今や日本を代表するメガヒットコンテンツとして君臨している。

複雑な異能力バトルを、力技で説明していく解説の快楽

本作の魅力は多岐にわたるが、まず何より、作り込まれた設定上で展開される異能力バトル漫画としての面白さが挙げられるだろう。

虎杖たち呪術師は呪霊を祓うために、呪力と呼ばれる「負のエネルギー」を込めた呪術を操って戦う。中でも見せ場となるのが「術式」と呼ばれる特殊能力だ。

自身の影を媒介にして「式神」と呼ばれる怪物を使役する伏黒恵の「十種影法術」、呪力が込められた釘を打ち込んで敵を攻撃する釘崎野薔薇の「芻霊呪法」など戦い方は様々。

そして、もっとも派手な見せ場となっているのが「領域展開」と呼ばれる呪術師の心の中の世界を具現化した結界を生み出し、敵を閉じ込める大技だ。

「領域展開」は、大量の呪力を消費するがメリットも大きく、呪術師のステータスを上昇させ、術式が必中となる。そして、相手に無限の情報量を流し込むことで戦闘不能にする五条悟の「無量空処」、領域内に裁判所を作り出して刑事裁判を行い、罪状に応じてペナルティを下す日車寛見の「誅伏賜死」といった独自の技が使用できるため、勝敗を左右する必殺技となることが多い。

他にも、人間でありながら呪術を悪用する呪詛師、呪術を込めた武器・呪具、呪術が込められた人造生物・呪骸などといった独自の武器、特殊能力が多数登場し、それらを使用した心理戦が展開される。

特殊な力を駆使して戦う心理戦は異能力バトルと呼ばれり、荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』や冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』といったジャンプ漫画で展開されてきたジャンプの伝統芸と言っても過言ではない王道の展開だ。

この異能力の原理について、細かい理屈を加えて過剰な説明をおこない、時に本編そっちのけで解説が暴走してしまうのが『呪術廻戦』の特異性ではないかと思う。

この説明の過剰さには賛否があり、説明しすぎて逆に意味がわからなくなっているという批判的な意見も多い一方、作品内でのみ通用する専門用語を駆使した独自の語りから見え隠れする世界観が楽しくて、どっぷりとハマる者も多い。

正直、筆者も本作を読んでいて混乱することも多く、前提となる呪術、術式、領域展開の違いすら、いまだによく理解できない。しかし、この「わかりにくさ」が逆に面白く、魔法や超能力といった説明困難な概念に対して、無理やり工学的な理屈を施し、強引に説明しようとする無茶な試み自体こそが、本作の面白さの中核だと言える。

そのもっともらしい理屈づけを世界観を見せるためのハッタリだと割り切った上で読めば楽しめるのだが、内容を理解しようと思って、納得できる回答を探そうとすると途端に迷子になってしまうのが『呪術廻戦』の厄介なところだ。

その意味で読む人を選ぶ、かなり癖の強いマニアックな漫画だったと言える。

そんな複雑でわかりにくい異能力バトル漫画が、なぜここまで支持されたかというのが、筆者にとって大きな謎だったが、1巻から改めて読み返して思うのは、人間ドラマとして魅力的で、複雑な要素を棚に上げて読むと、実に優れた青春漫画だったことに改めて気づかされる。

呪術高専の生徒たちのクロニクル(年代記)を描いた珠玉の青春漫画

虎杖、伏黒、釘崎の3人しかいない呪術高専の一年生と、彼らを指導する五条悟先生の4人の関係を中心に物語は描かれていくのだが、その後、禪院真希、狗巻棘、パンダといった高専の先輩や、東堂葵たち京都校の先輩が登場すると、話は一気に盛り上がる。

虎杖たち東京校と東堂たち京都校の呪術師たちの交流会は、複数のキャラクターが登場するチームバトルというジャンプでは定番の展開だが、そこで各キャラクターの過去を掘り下げたことで本作の人気は盤石のものとなった。

元々、『呪術廻戦』の前日譚は『東京都立呪術高等専門学校』という高専を舞台にした漫画で、その時点で学園モノの要素は強かった。

前日譚で主人公だった乙骨憂太も先輩として途中から参戦することになるのだが、俯瞰した目でみると、代々入れ替わっていく高専の生徒たちの成長を描いたクロニクル(年代記)だったとも言える。

それがより明瞭になったのが、アニメの第2期の序盤となる「懐玉・玉折」で描かれた五条悟の学生時代を描いた過去編だろう。 「懐玉・玉折れ」は、呪霊と組んで呪術テロをおこなう物語の黒幕と言える夏油傑が闇堕ちした経緯を描いた傑作エピソードだが、本編で虎杖たち生徒を見守る大人の呪術師たちの学生時代を垣間見ることができるため、物語に歴史的厚みが加わる。

五条悟は虎杖や伏黒に匹敵する人気キャラクターで、本編を読んでいると明らかに作者の筆が乗って、主役そっちのけで見せ場をかっさらう場面も多い。

師匠の方が主役の生徒より目立つという意味でも少年漫画としては歪な作品だが、そういった歪さが、全てプラスに働いているのが『呪術廻戦』の独自性だろう。

劇中に「反転術式」という怪我を治療する術式が登場するが、この術式は負(マイナス)の力である呪力と呪力を掛け合わせることで、正(プラス)のエネルギーを生み出す回復術となっている。

呪いというマイナスのエネルギーが前提の世界において、マイナスとマイナスと掛け合わせてプラスに変える反転術式はとてもユニークな術で、プラスの力が前提の漫画では出てこない発想だが、客観的に見ると欠点だらけなのに、結果的にめちゃくちゃ面白い漫画となった『呪術廻戦』を読んでいると、この漫画こそが反転術式だったのではないかと思う。



ライター:成馬零一

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。