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15年前に大ヒットした“医療ドラマ” 涙なしではみられない“名作”が今も色褪せない理由

  • 2024.11.11

村上もとかのマンガを原作にしたテレビドラマ『JIN-仁-』(2009年)は、今も名作として名高い。現代の脳外科医が江戸時代にタイムスリップしてしまい、医療技術も器具も不足する中で、人々の命を救うために奔走する姿を描いたこの感動のヒューマンドラマは、放送当時20%を超える視聴率を記録。海外でも高い評価を得て、韓国ではリメイク版が制作されている。

一時期、映画に活躍の場を移していた大沢たかおのテレビドラマ復帰作であり、その演技が高く評価されたことでも知られている。本作の一体どんなポイントが人々の心を捉えたのだろうか。

坂本龍馬に影響を与えたのは、現代の脳外科医?

優秀な脳外科医の南方仁は、自分の執刀によって婚約者の友永未来を植物状態にしてしまったことを悔いていた。ある日、彼は急患の患者の手術をすることになったのだが、素性不明のその患者の脳みそからは胎児の形をした腫瘍が見つかる。腫瘍の正体もわからぬままの中、その患者が病院を抜け出そうとし、南方は止めようとするのだが、もつれて階段から落ちてしまう。

そして、南方が目覚めた時には、江戸時代にタイムスリップしていた。南方は、混乱しながらも目の前に苦しんでいる人々を放っておけず、現代の医療知識で次々に難病や怪我を治療していく。

当時には存在しない医療知識を駆使しているため、歴史を変えてしまってよいのかと葛藤しながら、苦しむ人々を見捨てずに行動し続ける南方の姿は、江戸中の希望の星となってゆく。そんな南方に触発される人物の中には、あの坂本龍馬もいた。龍馬は、南方の姿を見て、自分のやるべき道を見つけて明治維新実現のために戦う決意をするのだ。

本作は、タイムスリップものと医療ものの異色の組み合わせが、大きな特徴となっている。タイムスリップものでお馴染みである、未来に影響を与えて歴史が変わってしまうタイムパラドックスが起きないかどうかと、人の命を救うことの間で揺れ動く南方の葛藤を中心にしてドラマが進んでいく。

物語の舞台となる幕末、江戸の町では史実でもコレラが大流行し、多くの命が奪われていた。その死者数は23万人とも言われており、当時の医療技術ではなすすべのない病気だが、南方はこれを終息させようと奔走する。当時の蘭方医の面々もその姿に胸打たれ、協力することでコレラの流行は抑えられるのだ。歴史を変えるととんでもないことになるかもしれない。しかし、目の前で苦しむ人を見捨てることは、医者としてできることではない。その苦悩の中で、一人でも多くの命を救うために頑張る南方の姿が視聴者を感動させた。

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(C)SANKEI

そんな主人公・南方仁を演じたのが大沢たかおだ。突然のタイムスリップという困難に直面しながら、実直に医師としてやるべきことをやり続ける姿を熱く演じている。

本作は、歴史×医療ドラマだが恋愛要素も強い。南方の婚約者と江戸時代の花魁・野風を演じた中谷美紀の演技の素晴らしさもあって恋愛ドラマとしても見ごたえあるものになっている。凛とした美しさで気高い花魁役を演じ、現代編では前向きで行動的な未来をはつらつと演じ、演技力の高さを見せつけている。もう1人のヒロイン橘咲を演じたのは綾瀬はるか。武家の娘に生まれ、結婚を求められる立場だったが、南方との出会いによって医者の道を志す、意志の強い女性を力強く演じている。

その他、坂本龍馬を演じた内野聖陽の荒々しい魅力、蘭方医の医学所長・緒方洪庵を演じた武田鉄矢など、魅力あふれるキャストが揃い、感動のドラマを支えている。

原作にない、ドラマオリジナルの要素とは?

ところで、ドラマ版は原作マンガを大きく脚色している。それは中谷美紀演じる友永未来の存在だ。実は、未来はドラマ版のオリジナルキャラクターであり、原作マンガには登場しない。原作マンガにも、現代での南方の恋人は存在していたが、物語にはほとんど絡まない。江戸時代の花魁・野風と瓜二つというのも、もちろんドラマオリジナルの設定だ。この未来というキャラクターを加えたことで、本作は原作マンガよりも恋愛要素が強くなっている。しかし、このアレンジは、タイムスリップもので重要となるタイムパラドックスをより盛り上げる効果を生んでいる。

南方は、未来と一緒に撮影した一枚の写真を持ってタイムスリップした。その写真の内容は、南方が現代の医術で江戸時代の人を救う度に徐々に変化する。その変化が何を意味するのか、南方にははっきりとはわからないが、植物状態となっている未来の運命をも変えることにつながるかもしれないと南方は考えるのだ。そして、視聴者もタイムパラドックスが本当に起きているのか、それは良い方向か、悪い方向かと想像させることで、ドラマ全体に緊張感を生んでいる。

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(C)SANKEI

命の尊さという普遍的なテーマを力強く伝える

そして、何より本作を見て思い知るのは、人の命の尊さだ。現代の発達した医療では簡単に治療可能な病気や感染症も、江戸時代では致命傷となり得るものだ。コレラによって多くの人が亡くなったのは史実だし、吉原の遊郭で梅毒に感染して死んでいく遊女がたくさんいたのも事実である。江戸時代は、現代よりも簡単に人が死んでしまう残酷な歴史の現実が描かれている。

現代の医療技術は、そんな過去の多くの悲劇を人々が克服しようと努力したからこそあるものだと、本作は視聴者に教えてくれる。病院に行けば薬が手に入るというのは、昔は当たり前のことではなかったのだ。

本作は、2020年4月に特別編集版が放送された。おりしも新型コロナウイルスという未知のウイルスが世界中で猛威を振るっている時期だった。そういうご時世だったからか、南方がタイムスリップしたコレラの蔓延する江戸時代と重なって現実が見えるようだった。コロナに怯える我々の姿が、治療不可能なコレラにおびえる姿にタブって見えた。

だからこそ、南方が患者を救おうと奔走する姿は、放送当時よりも胸を熱くさせた。この現実でも、多くの医療従事者がコロナという未知のウイルスと懸命に戦っていたに違いない。そんな医者の努力に感謝の念を覚えるような再放送だった。

『JIN-仁-』は、いつの時代でも通用する「命の尊さ」という普遍的なことを力強く訴える内容だからこそ、今でも愛されるドラマとなった。これからも語り継がれるであろうテレビドラマの名作だ。



ライター:杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi