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4年前、一世を風靡した『刑事ドラマの傑作』 現代社会を反映した“巧みな脚本”

  • 2024.10.11

興行収入50億円を超える大ヒットを記録している映画『ラストマイル』。この作品は、脚本家・野木亜紀子と監督・塚原あゆ子、プロデューサー・新井順子のトリオが3度目のチームを組んだ意欲作だ。そして、3人によるテレビドラマ『アンナチュラル』と『MIU404』と同じ世界観を有する「シェアード・ユニバース」であることでも話題になっている。

『MIU404』は、2020年のコロナ禍に制作・放送され、当時の世相を反映した内容が話題になった。社会を鋭く見つめる野木亜紀子の持ち味が存分に発揮された作品として、今も高く評価されている。そんな『MIU404』の魅力を振り返ってみよう。

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(C)SANKEI

正反対の刑事コンビが難事件を解決

タイトルの「MIU」とはMobile Investigative Unit(機動捜査隊)の略称だ。本作はその捜と呼ばれる組織に属する2人の刑事を中心にした、一話完結型の刑事ドラマ。警視庁には3つの機動捜査隊があるが、負担を軽減するため、臨時に第4機動捜査隊が設立され、志摩一未(星野源)と伊吹藍(綾野剛)が配属となりコンビを組まされる。

志摩は元捜査一課の優秀な刑事で、とある過去の事情で機捜に配属された。優れた観察眼で冷静に現場を見つめて事件を解決に導く。一方の伊吹は、野性のカンを頼りに猪突猛進する性格で、頭よりも身体が先に動くタイプ。好対照の2人が揉めながらも絆を育み、数々の事件を解決していく物語だ。志摩と伊吹の2人を中心に、4機捜の同僚、九重(岡田健史)や陣馬(橋本じゅん)、隊長の桔梗ゆづる(麻生久美子)のような個性的なキャラクターの過去と現在が絡み合い、重層的に展開していくのが特徴だ。

機捜の仕事は初動捜査だ。100番通報があればいち早く現場に急行し、捜査を行い専門の課へと引き継ぐ。臨時の部隊なので小間使いのように扱われることもありながら、どんな事件にも全力でぶつかり、「人が取返しのつかないことになる前に助ける」(伊吹の台詞)ことができる機捜の仕事を誇りに思う隊員たちの活躍をコミカルかつ感動的に描いている。

現代社会の問題を巧みに織り交ぜた物語

本作は魅力的なキャラクターのドラマとして大きな支持を得たが、それだけにとどまらず、現代社会の問題を巧みにエンターテインメントの中に織り交ぜた手腕で賞賛された。

ます、主人公たちが属する4機捜の設立理由が、警察内の働き方改革にあるという点が現代的だ。機捜の勤務は24時間の交代制で、長時間に渡る。これまでの人員だけでシフトを回せなくなった結果として生まれた部隊なのだ。

そして、その指揮を執るのが女性の隊長であるということで、日本社会が克服できない職場でのマイクロアグレッション(無自覚の差別行為)の実態も描かれる。会見に出た桔梗に対して、心無いネットユーザーが「顔で出世した」のような難癖コメントをつけるなど、現実でもよく見られるような光景がひんぱんに登場する。

そして、4機捜の面々が直面する事件も現実社会を反映したものが多い。例えば2話では志摩と伊吹が、悪質なパワハラの末に殺人を犯してしまった犯人を追跡することになる。殺人は当然許されない、しかし、人をゴミのように扱う会社の上司は誰が裁いてくれるのか、と考えさせる内容だ。

他にも、5話では技能実習生としてコンビニで働くベトナム人女性が、事件に巻き込まれるエピソードが展開する。安すぎる給料に耐えかねて失踪する実習生が増加していることを背景に、人を使い捨てのように扱うこの制度に対して疑問を呈する内容となっているのだ。

そして、出色なのがフェイクニュースやネット炎上を巧みに織り交ぜた終盤の事件だ。デタラメな陰謀論を吹聴してしまう動画配信者や、合成の事件写真をSNSにばらまいて捜査を攪乱する犯罪者が登場するなど、現代ネット社会の脆さを見事に突いた物語が展開する。

そして、最終話においては「2020年」東京オリンピックも絡めてくる。冒頭、新国立競技場の近くでオリンピック反対派と賛成派がもめているところを志摩と伊吹が仲裁するのだ。オリンピック賛成派と反対派がいがみ合う姿は、開催前に幾度となく現実でも繰り返された光景だ。そして、最後はマスクをした志摩と伊吹がいつものように街中をパトロールしている姿が映し出される。2020年放送中のコロナ禍の現実とリンクさせて、物語は幕を閉じるのだ。

ポストコロナの今にも通じる問題を描いた

野木亜紀子、塚原あゆ子、新井順子のチームは、前作『アンナチュラル』から最新作『ラストマイル』まで、一貫して現代社会の問題をストーリーに織り込んできた。だが、ことさらに社会派作品を作ろうとしているわけではない、今を生きる人間をリアルに描写しようと思えば、必然的に現代社会の問題が透けて見えてくるのだ。その意味で、この3人の作品は制作当時の世相を知る上で最適だと言える。

『MIU404』放送当時は2020年のコロナ真っ最中の時期で、ネットには不確かな情報が溢れ、人々の間に不安が蔓延していた時代だ。そんな時代に苦しんでいた不可視化された人々をこのドラマは浮かび上がらせていると言える。

本作が放送されてからまだ4年しか経っていない。だが、コロナの記憶はすでに社会から薄れつつあり、全く違う時代に突入したかのようだ。しかし、『MIU404』に描かれたような社会の諸問題は、解決されていない。むしろ、ネットの情報環境などは、悪化していると言えるかもしれない。

『MIU404』は、伊吹や志摩といった快活なキャラクターが活躍する、気持ちのいいエンターテインメントであると同時に、視聴者に社会を見つめさせる強い力を持った作品だ。その内容は全く古びておらず、2020年を語る作品として今後も語り継がれる作品となるだろう。



TBS 金曜ドラマ『MIU404』

ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi