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【映画ライターが厳選】恐ろしいトラウマ描写… 怖いのに目が離せない、観る人を刺激する映像作品3選

  • 2024.11.12

世の中には、観る人にトラウマを与えるような恐ろしい映像作品がたくさんある。人間とは不思議なもので、わざわざそんなトラウマ体験をどうして見たがるのだろうか。脳神経的にも、恐怖を処理する部位と快感を処理する部位は重なっていると言われるが、このような極限状態を疑似的に体験することで、アドレナリンが放出され、人は生きる実感を得ているのかもしれない。

今回はそんなトラウマ必至で目を背けたい、でも目が離せなくなってしまう3本の作品を紹介したい。

宇宙空間の極限恐怖体験『エイリアン・ロムルス』

未来も希望もない劣悪な環境から逃れるために宇宙ステーションに乗り込んだら、ヤバい生物がいたうえに閉じ込められてしまう。現在大ヒット中の『エイリアン:ロムルス』はそんな物語だ。

人間に寄生し種を植え付け、それが急激なスピードで成長して人間の胸を突き破ってくる恐るべき生物に襲われながらも、外は宇宙空間だから逃げ場がない。そんな恐怖が次々と襲い掛かってくるのが本作だ。

SFホラー映画の名作と名高いシリーズ第一作と第二作の間の時系列に位置する本作だが、シリーズ未見の人でも問題なく楽しめる。

本作で描かれるのは、身体の内側からの恐怖だ。外部から怖いものが襲い掛かってきても対処できる可能性はあるが、身体の内部に化け物が宿り、食い破ってくるのは、対処のしようがない。作中にも妊娠中のキャラクターが登場するが、これは出産と妊娠という、女性しか体験できない身体の変化のメタファーと言えるかもしれない。

ホラー映画は怖い。しかし、スクリーンの中の出来事なので安全は保証されている。安全が保証された条件下で恐怖体験ができるというのが、面白いと思う。見ている時は「こんな怖いもの、二度と見たくない!」と思っていても、またついつい見てしまうものだ。

本作は宇宙空間でどうやって生き延びるかのサバイバルが描かれつつ、妊娠という生命の営みの重要な要素にも触れており、まさに観客は「生きること」そのものを映画を通して体感できる作品と言えるだろう。

恐ろしいアイドル映画『トラぺジウム』

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  (C)SANKEI

元乃木坂46のメンバーである高山一実が書いた小説をアニメ映画化した本作は、アイドルを目指す女の子の努力が描かれる。しかし、その努力の方向が怖い。主人公の東ゆうは、アイドルを目指している。そのために彼女は東西南北の高校から美少女を集めてグループを結成することを思いつき、言葉巧みに勧誘していく。

しかし、ゆうの行動は利己的で、メンバーたちの気持ちを無視してアイドルとして注目されることを優先していく。自身のアイドルになるという夢のために他人を利用することをいとわないのだ。

そして、その気持ちはどんどんエスカレートしていき、メンバーの心労が限界に達すると、発狂するメンバーも出てきてしまう。多少、グループ内で不協和音があったりするような物語はありふれているが、ここまで自分本位で人を利用していく女の子が描かれるアイドルものは希少だと思う。

本作のレアなポイントは、主人公がどうしてそこまでしてアイドルになりたいのか、動機が描かれないところだ。動機もなく、こんなに他人を追い込んでまでアイドルってなりたいものなのか、アイドルって一体なんなんだと深く考えさせられる内容だ。

でも、だれでも覚えがあると思う。何かキラキラした存在に理由もなく憧れてしまって、周囲が見えなくなるという経験は。自身の人生を振り返ってみたくなる作品で、なんだか自分の恥ずかしい部分をえぐられたような、そんな気分になる作品だ。

拷問されても情熱は消えない『チ。 ―地球の運動について―』

10月からテレビアニメが放送開始となる『チ。-地球の運動について―』は、原作では第一話の冒頭で、縛られた人が口の中に拷問器具を突っ込まれて、口が裂けている様子が描かれる、衝撃的な作品だ。

本作は、天動説が主流だった時代に、地球が太陽の周囲を移動していると地動説を証明しようと情熱を燃やした人々を描く。中世ヨーロッパ風の時代を舞台にしているが、フィクションであり、実話を基にしているわけではない。

この世界では、C教の教えに背く地動説を研究することは厳しく禁じられている。そのために異端審問官が研究者を捕まえて拷問しているのだ。恐るべき魔女狩りのような状況が横行しているのだが、そんな状況であっても、人間の「知りたい」という想いは止まらず、何人もの研究者が時代を超えて、密かに地動説の研究を受け継ぐ様が情熱的に描かれるのだ。

アニメ版でどこまで描写されるかわからないが、拷問シーンは本作に必要不可欠なものだ。おそらく、トラウマ必至のシーンはそれなりに描かれることになるだろう。

しかし、この物語が描くのは、人間の知的好奇心と情熱の力強さだ。この世界の秘密を知りたいと思うこと、それを知って世界の美しさに触れたいと願う気持ちはどんな恐怖にも打ち勝ってしまうということを描いているのであって、むしろトラウマ的な恐ろしさを乗り越える人間の心の強さに胸打たれる作品だ。

いずれの作品もとても怖いものを見せられる。しかし、確かに観終わった後には、人が生きることはどういうことなのかについて、学びや実感が得られる作品ばかりだ。トラウマ的な物語をなぜ、人は見たくなるのか、その理由を実感できると思う。


ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi