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“未完成”のままアニメがスタート→歌詞の数が“79パターン”も存在!有名アーティスト渾身の一曲を考察

  • 2025.2.26
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(C)魚豊/小学館/チ。 -地球の運動について-製作委員会

2月20日、サカナクションの新曲「怪獣」がついに配信リリースされた。「怪獣」は、現在放送中のTVアニメ『チ。―地球の運動について―』のオープニング主題歌。抽象的な歌詞によって、『チ。』という作品の持つ奥深さを表現している。本稿では、「怪獣」の制作背景と歌詞をもとに、いかにサカナクションにとって“渾身の一曲”なのか考察したい。

アニメが始まっても未完成……歌詞と重なる「怪獣」の制作背景

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(C)魚豊/小学館/チ。 -地球の運動について-製作委員会

「なぜアニメ放送が始まったのに『怪獣』が配信されないのか?」そう思った視聴者はきっと多いだろう。主題歌は、アニメの初回放送の前後に配信されるケースが多い。しかし、2024年10月に『チ。』の放送がスタートしたとき、まだ「怪獣」の歌詞は完成していなかった。

歌詞が完成しなかった理由には、サカナクションのボーカル・ギターを担当する山口一郎の健康面の事情が関係していた。山口は体調不良のため2022年7月から2年間活動を休止しており、2024年1月にうつ病であることを公表。病を抱えながらの楽曲制作はとても困難で、集中力が続かないことや無理をすると表れる「揺り戻し」による苦悩を彼は語っている。

闘病しながら制作された「怪獣」は、構想に2年を費やした。サカナクションにとって約3年ぶりの新曲だ。山口の考えた歌詞の数は、79パターンにものぼったとのこと。並々ならぬ根気と精神力をそそぎこんだ楽曲に仕上がっているのはまちがいない。

「怪獣」のサビに、「この世界は好都合に未完成 だから知りたいんだ」というフレーズがある。このフレーズを『チ。』のオープニングで聴くたびに、まだ歌詞ができあがっていない「怪獣」と重なったのは筆者だけではないだろう。長い間未完成で、アニメが終盤に差しかかったところでついにフル尺が解禁された「怪獣」は、サカナクションと『チ。』のファンのどちらにとっても完成を待ち焦がれた一曲なのだ。

「怪獣」の正体は異端者?奥深い歌詞を考察

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(C)魚豊/小学館/チ。 -地球の運動について-製作委員会

タイトルにもなっている「怪獣」は、なにを意味しているのだろうか。怪獣といえば、アニメや映画でも取り上げられることが多い、正体不明の動物だ。街を炎で焼き尽くし、人々はパニックになって逃げ惑う。怪獣が暴れる姿は、世界をめちゃくちゃに壊しているのと同じだ。

『チ。』にも、世界を壊しかねない存在がいる。地動説を研究する“異端者”だ。ラファウ、オクジー、ドゥラカといった主人公たちは、地動説に出会い、感動を覚え、研究する。そして、『チ。』の世界において地動説を研究する者は異端者と呼ばれ、見つかると拷問されたり処刑されたりする。

地動説は、世の中の常識をひっくりかえすとてつもない力を持っている。そんな地動説を研究し証明するということは、現状の世界を壊すのと同じだ。つまり、「怪獣」は異端者の暗喩だと読み解ける。

では、「何度でも 何度でも叫ぶ この暗い夜の怪獣になっても」「でも怪獣みたいに遠く遠く叫んでも また消えてしまうんだ」といった歌詞のように、怪獣とともに歌われる「叫ぶ」とはなにを表しているのだろうか。

叫ぶという行為は、遠くに自分の存在を知らしめる効果がある。怪獣が叫ぶ姿は、まるで信念を持って生き、そして死んでいった主人公たちの“生き様”のようだ。何十年もの時を超えて受け継がれていく彼らの信念と生き様は、心を揺さぶる感動がある。私たちの心に届くほどの主人公たちの生き様は、「叫び」といっても過言ではない。

「怪獣」は、抽象的な歌詞によって『チ。』の奥深い世界観を見事に落とし込んだ楽曲だ。サカナクションとして初のアニメ主題歌だが、そうとは思えないほど『チ。』という作品を表現しており、マッチしている。長い間未完成だった制作背景や『チ。』という作品と重ねてじっくりと味わえる、サカナクション渾身の一曲。それが、「怪獣」なのだ。

チ。 ―地球の運動について―
ABEMAでは『チ。 ―地球の運動について―』毎週土曜日夜24時10分より無料独占・見放題最速配信
放送後1週間、最新話を無料で視聴できる。
[番組URL]https://abema.tv/video/title/568-32
【(C)魚豊/小学館/チ。 -地球の運動について-製作委員会】


ライター:まわる まがり
主にアニメについての記事を書くライター。コラムやレビュー、映画の作品評を手がける。X(旧Twitter):@kaku_magari