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コンプレックスだった歯並び。だけど私の笑顔は「強み」になり得るのかもしれない

  • 2024.8.27

私は、自分の笑顔がどうしても好きになれない。「面白い」「楽しい」などの感情が湧けば笑うこと自体はできるけれど、その自分の笑顔を客観視すると、真っ先に「ブスだな……」と思ってしまう。要するに、写真に写った笑顔の自分を見るのが特に嫌いだった。

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「撮るよー!」とカメラを向けられたのなら、にこやかな笑顔であればあるほど良いに決まっている。そう頭ではわかっているものの、それはあくまで一般論。カメラを向けられたとき、私の頭の中では「ブスな笑顔を晒してはいけない」とサイレンが鳴り響く。そして口元をきゅっと結び、口角をちょっとだけ上げる。真顔はいけない、それもまたわかっている。目指すは、優しさや柔らかさが感じられる微笑。

しかしいざ撮った写真を見てみると、私の表情は大体イマイチだ。微笑というよりも「微妙」。何だかあんまり楽しくなさそうな、つまらなそうな気配を漂わせている。結果的に写真写りがすこぶる悪い自分が出来上がり、写真に対する苦手意識もどんどん膨らんでゆく。

カメラを向けられたときににこやかに笑えない理由ははっきりしている。
それは、歯並びに対する強いコンプレックスだ。あまり大きな声では言いたくないけれど、私は悲しくなるくらい歯並びが悪い。歯を見せて笑うことはつまり、ガタガタの歯並びを見せつけること。だから私は写真だと、無意識のうちに美しくない歯を隠そうと躍起になってしまう。

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そんなゴリゴリのコンプレックス感情を持っている一方で、なぜか笑顔を褒められる場面が昔から度々あった。もしかしたらそれは社交辞令のようなものなのかもしれないし、仮に社交辞令じゃなかったとしても「そんなわけあるかい」と私は心の中で一蹴していた。だって、歯並びがコレですよ?素敵な笑顔なわけなくないですか?と。

しかし、褒められる場面が何回か重なってくるとさすがに考え始める。それなりに根拠があっての言葉なのだろうか。苦し紛れにひとつ思い浮かんだのは、笑ったときにぷくっと膨らむ両の頬。笑ってなかったとしてもそれなりにたくましさのある頬肉だから私にとってはこれもまたコンプレックスのひとつではあるのだが、見る人が見れば「笑うと膨らむほっぺた」は褒めの対象や魅力に値するものなのだろうか、なんて仮説が立ちはした。あくまで、仮説。

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なんてことを考えていた矢先のこと。
今年の7月から、私は本業であるフリーランスライターの仕事とは別で、新たに花屋で働いている。在宅ワークの多さに何となく鬱屈としていたこと、元々花や植物に興味があったこと、外で人とふれ合いながら仕事がしたいこと、などが花屋で働こうと思った主な理由だ。両立はなかなか大変ではあるけれど、でも私は忙しかったり刺激を取り入れたりしたほうが生気が湧くタイプではあるから今の所楽しくやれている。

面接後に届いた採用確定メールには「笑顔とやる気を買わせていただきました!」と書かれており、私はここでもまた首を捻った。笑顔……か。まあ、これは採用連絡だし、何となくそれっぽいワードをお世辞で書いておくものなのだろう。そう自分を納得させた。

ただ、実際に勤務が始まってから1週間くらい経った頃だっただろうか。細かい文脈はもう忘れてしまったが、何らかの話の流れの中で「でもあなたの良いところは笑顔なんだから」と店長(面接も担当していただいた)から言われた。「私はついイライラしてたり気が急いていたりするとそれがお客さんの前でも出ちゃうことがあるけれど、接客で一番大事なのは笑顔でいることでしょ」「私はあなたのことを育てようと思ってるから。あなた、笑顔が素敵だもの」そう面と向かって言われてしまうと、さすがに「そんなわけあるかい」と一蹴はしにくい。長年接客に携わってきた方の言葉に、何の根拠もないとは思えなかった。

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「得意」は、「強み」と言い換えられると思う。
持ち前の不器用さや要領の悪さのせいで「遅い!」「もっと手早くやって!」と店長からは注意されまくる日々を送っているが、それでも笑顔は認めてもらえている。まだまだ自覚はしづらいが、それでも私の笑顔は言わば「強み」になり得るものなのかもしれない。

自分でも自分のことを認めてあげられるようになりたいと思い始めてからは、歯列矯正の存在が頭の中に漂い続けるようになった。今までは「歯並びはそりゃあ綺麗なほうがいいけれど、お金がかかるし」とはなから諦めていた。費用は未だにネックではあるものの、長期的な目線で歯の健康のことも見据えれば、整った歯並びのほうがケアはしやすいだろう。
目的は虫歯のリスクをなくすためではあるけれど、「歯並びにも影響を及ぼしている可能性がある」と歯医者さんから言われ、とりあえず近日親知らずを2本抜くことにはなっている。

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長年のコンプレックスとどう向き合っていくか。この課題はこれからも抱え続けていくことになるだろうけれど、やっぱりいつの日か、にこやかに笑った自分の写真を見てみたいという想いはある。もちろん、「ブスだな……」ではなく「良い笑顔☺︎」と思えるような。

私の強みは「笑顔」だと自信を持って言える日が来たら、私は私を好きになれるような気がする。

■こじまりのプロフィール
東京在住のライター。不登校、抑うつ、適応障害の経験あり。HSP気質。話すことは苦手だけど、書くことでなら想いを昇華させられると信じて早20年。ことばがあれば、きっと泳いでいける。

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