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離婚数が減る一方で“熟年離婚”は過去最高。「わかる」「定年後の夫婦関係は絶望的」と女性たち

  • 2024.8.27
離婚自体は減っているが、熟年離婚は増加の傾向にある。従来の価値観や役割に縛られず、自分らしい生き方を求める女性が増え、結婚生活の間の長年の不満や我慢を乗り越え、新しい人生を歩み始める女性たちの姿が透けて見える。
離婚自体は減っているが、熟年離婚は増加の傾向にある。従来の価値観や役割に縛られず、自分らしい生き方を求める女性が増え、結婚生活の間の長年の不満や我慢を乗り越え、新しい人生を歩み始める女性たちの姿が透けて見える。

厚生労働省の2022年「人口動態統計」によると、離婚の全体件数は17万9099組で減少傾向にあるものの、ピークだった2002年(28万9836組)と比較して約4割も減少しているという。

「同居期間20年以上の夫婦」の離婚に着目すると、その数は3万8991組。全離婚件数に占める割合は23.5%で、前回調査から0.8ポイント上昇。つまり、いわゆる「熟年離婚」は増えているということだ。

同居期間を5年単位で見ていくと、熟年離婚の中でも、もっとも離婚が多いのは同居20年から25年。これは、そのまま子どもの成人と重なるのではないだろうか。子どもが成人するのを“待って”離婚に踏み切ったと推測できる気がしてならない。

待ち望んだ離婚

「うちがまさにそうですね。私は子どもたちが22歳と20歳のときに離婚しました。下の子が20歳になるのを待っていました」

マチコさん(52歳)はそう言った。短大卒業後、保育士として就職し、26歳のときに6歳年上の彼と結婚して退職。27歳で長男を、29歳で長女を産んだ。

「専業主婦として家庭を守るという、昔ながらの女の人生を歩んできました。20代のうちに子どもを産み終えたかったし、それ自体に後悔はないんです。でも30代に入ると、このままでいいのかという思いが強くなっていきました」

子どもたちの成長は予想以上に早かった。自分が保育士だったこともあって、マチコさんには理想の子育てがあった。

「もちろん躾は大事だけど、善悪を教えたら、あとは子どもの意志を尊重したかった。やりたいことはやらせてあげたいから、下の子が小学校に入ると私もパートで仕事をするようになった。子どもたちはどんどん好きなことを見つけていく。それを見守るのがおもしろかったんですが、世界が開けていく子どもに私は当然、追いつけない」

子育ては「子どもを手放す準備期間」

子育てというのは子どもを手放す準備期間に過ぎないのだと、ある日気づいた。動物の子育てと同じだと彼女は感じていたという。

「ひとりで食べるものをとれるように、周りとうまくやれるように。ときには生き延びるために知恵を働かせることができるように。そういう準備ができたら、動物は親から離れていく。それとまったく同じ。だから子を社会に出せるようになったら、親は自分の人生をもう一度、考え直さないといけない」

40代になるころには、夫とは心の内を話し合うことができない、一緒にいても楽しくないと心の底から感じるようになった。

妻の「自立」を夫は露骨に嫌がった

子どもたちは大人の階段をすごいスピードで駆け上がっていく。夫はそれなりに出世しているようだ。マチコさんは、再び保育士の仕事に就いた。自分の子育てを経て、また社会に何かを還元できるのではないかと考えたのだという。

「いい子ではなく、おもしろい子を育てる一助となればと思いました。パートから初めて少しずつ時間を延ばして。仕事というより子どもを育てたり見守ったりするのは私の趣味かもしれないと思うようになった」

1年ほど働いてみて、もっと保育を極めたいと思った。大学に編入し、働きながら学生生活を送った。充実した日々が過ぎていく。子どもたちはそんな母を見て思うところがあったようだ。ただ、夫だけは「オレの飯くらい用意しておいてくれよ」と身勝手さを露骨に見せた。

「あの時期、子どもたちの心も夫から離れましたね。私自身も子どもたちが成人したら離婚しようと時間をかけて決めました」

娘の20歳の誕生日に離婚を申し出た

長男は大学を休学して海外を放浪した時期がある。それもいいとマチコさんは思っていたが、夫は大反対だった。長女はボランティア活動を人生のメインに据えている。

「ふたりともどうやっても生きていけるだけの力は蓄えた。そんな気がします。だから私もこれからは好きに活動したい。娘の20歳の誕生日に、夫に離婚を申し出ました。ずっと弁護士にも相談していて準備はできていた。夫はあわてふためいていましたね。

妻から離婚を申し出るなんて言語道断、そんなことは許されるはずがないとわめいていた。意味がわかりませんでした」

そんなことに怯むマチコさんではない。調停を申し立て、それがダメなら裁判でも離婚するつもりだった。静かに、だが徹底的に闘うと決めていた。

「夫は『もう面倒だから勝手に出て行け』と。かねて用意していたワンルームマンションに越しましたが、財産分与はしてもらわないと困りますと、また弁護士から文書を送ってもらいました」

結局、家を売って財産分与をした。本当は離婚などしないほうが経済的にはよかったと思うけど、お金には換えられない自由を得たとマチコさんは笑う。

「熟年離婚、増えて当然だと思います。結婚期間、女性たちはずっと我慢を重ねてきたのだから。今どきの若い人たちには、こういう思いをしないでほしいと思いますけどね」

今後もしばらくの間、熟年離婚は増加するのだろう。男性の平均寿命も延びた今、定年後の夫婦関係を考えると「絶望的だ」と嘆いている女性たちは多い。

<参考>
・「『熟年離婚』の割合が過去最高に 長寿社会、役職定年も背景に」(朝日新聞デジタル)
・「令和4年 人口動態統計(確定数)」(厚生労働省)

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。

文:亀山 早苗(フリーライター)

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