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ラストの余韻がスゴい洋画、最高傑作は? 映画史に残る結末(1)線路に身投げ…からの驚きのエンディングとは?

  • 2024.8.23
ソル・ギョング【Getty Images】

映画作品は大抵、ハッピーエンドとバッドエンドに大別できる。上映後に爽快な気分になるものもあれば、暗い気持ちになるものもある。しかし、中にはどちらとも言えない作品も存在する。今回は、絶望と希望が合わさった不思議な結末を迎える映画を5本をセレクト。観終わった人の心に、大きな余韻をもたらす作品を5本紹介する。(文・シモ)
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●『ペパーミントキャンディ』(1999)

製作国:韓国
上映時間:129分
監督:イ・チャンドン
脚本:イ・チャンドン
出演者:ソル・ギョング、ムン・ソリ、キム・ヨジン

●【作品内容】

のどかなある春の日。20数年ぶりの大学の同窓会でピクニックを楽しむ集団。その目の前に、思い詰めた表情の男キム・ヨンホ(ソル・ギョング)が現れる。自暴自棄になった彼は「帰りたい!」と叫びつつ、来た列車に身を投げてしまう…。

●【注目ポイント】

韓国のアカデミー賞として名高い大鐘賞で最優秀作品賞を受賞した本作は、後に国際映画祭の常連となるイ・チャンドン監督を巨匠の座に押し上げた、エポックメイキングな作品である。

朴正熙大統領暗殺事件が起きた1979年からスタートする本作は、市民が当時の軍事政権に反旗を翻した光州事件(1980)、1987年に起きた6月民主抗争など、1人の男の人生を通じて、韓国の現代史を一気呵成(いっきかせい)に描いていく。

韓国政府が指揮をとる軍によって民主化を求める多くの市民が犠牲になった光州事件は、当時、政府によって言論統制が敷かれ、全貌が明らかになることはなかった。その点、権力の側ではなく、市民の側から光州事件を描いた本作の意義は大きく、メガホンをとったイ・チャンドン個人にとってのみならず、韓国国民にとって本作の出現はエポックメイキングな出来事となった。

さて、そんな本作は【作品内容】で見たとおり、主人公キム・ヨンホがみずから線路に飛び込むショッキングなシーンから幕を開け、過去へと遡っていく、ユニークな構成をもっている。

そこで描かれるのは、会社経営に失敗したヨンホのどうにもならない現実。初恋の人ユン・ス二ム(ムン・ソリ)の余命いくばくもない姿を目にした絶望。初恋の人とは別の人と結婚して家庭を持った過去。兵士として徴兵された辛い記憶…。絶望に転じた主人公の人生に、監督のイ・チャンドンは、最後に希望を差し出す。

20年前の大学生の過去に戻ったキム・ヨンホ。そこでは、仲間達がピクニックをしている。物語冒頭の同窓会が行われているピクニック場と同じ場所だ。そこには、まだ恋人になる前のユン・スニムもいる。

彼女にはじめて渡されたペパーミントキャンディを舐めながら、キム・ヨンホはつぶやく。

「不思議だ。ここは初めてなのに前に来たような、懐かしい気がする」。ヨンホはピクニックの輪の中から外れ、1人涙する。

現在から過去へと遡っていく物語構成をとることによって、観客は主人公の自殺(線路をひた走る電車がヨンホに接近するショットが鮮烈だ)という絶望的な出来事にのっけから直面させられ、最後に、未来への淡い期待をもっていた若かりし頃のヨンホの幸福な時間に触れることで、絶望とも希望ともつかない、複雑な感情を抱くことになる。

見事に構成されたシナリオ、韓国映画界を牽引する名優による迫真の芝居に圧倒される1本だ。

(文・シモ)

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