1. トップ
  2. 恋愛
  3. 父になると決意した夏(目黒蓮)が打ち明けた「本音」。実父との再会が示唆するもの 『海のはじまり』8話

父になると決意した夏(目黒蓮)が打ち明けた「本音」。実父との再会が示唆するもの 『海のはじまり』8話

  • 2024.8.22

目黒蓮演じる月岡夏が、大学時代の恋人・南雲水季(古川琴音)の葬儀の場で、彼女の娘・南雲海(泉谷星奈)に出会う。人はいつどのように父となり、母となるのか。生方美久脚本・村瀬健プロデューサーの『silent』チームが新しく送り出す月9ドラマ『海のはじまり』(フジ系)は、親子や家族の結びつきを通して描かれる愛の物語だ。第8話、夏は実父である溝江基春(田中哲司)に再会する。

周りからも「親子」と認めてもらうために

1週間の夏休みが終わるとともに、夏と海の生活もいったん幕を閉じる。この1週間で、夏は何を感じ取り、海との未来をどんなふうに想像したのか。少なくとも、彼は「海の父親となること」を決意した。

小さな子どもの髪の結い方を練習する。海との話題を考えておく。ただ、一緒に過ごしている「いま」を味わう。そして、海のことを考えながら、スーパーで食材を買う。

夏は、彼のペースで、海の父親となること、新しく父子関係を始めることを覚悟したのだろう。もうすでに、彼はそうなることを前提とした思考をし、自然と行動を起こしている。具体的な言葉にはしていなくとも、夏のなかでは確実に、手で触れられそうな未来が形成されつつある。

水季の部屋、ベッドのうえで、夏は海に伝えた。「海ちゃんのパパ、始めようと思う」「ちゃんと届けを出して、周りからも親子って認めてもらおうと思ってる」と、彼らしい、たどたどしくも真っ直ぐ届くような言葉で。それを受けた海は、ただ夏と一緒に暮らせることに喜んでいる様子だった。

戸籍上で親子関係になる、という事実が、実感をともなって彼女に認識されるのは、まだ先のことなのかもしれない。いつか海の無邪気さが、疑問や不安にとって代わる日がくるのかもしれない。海の生まれたころを知らない夏は、彼女が思春期になったらどう接するのだろう。次から次へと泡のように浮かぶ「?」に翻弄(ほんろう)される日がくるのかもしれないけれど、それでも、彼らはともに生きていくしかない。親子になると決めたのだから。

実父との新たな「関係の結び直し」

夏が実父である基春に会おうと思ったのは、海の父親になると覚悟を決め、「娘がいるって知ったのが最近で、2カ月くらい前で、それで自分も父親に会っておきたいって思うように」なったからだと言う。「育てられてないけど、親に会ってみたかっただけです」と夏が言っていたように、血縁関係ではあるけれど、直接子どもを育てていない親がどんな心境にあるか、実例を見てみたいと思ったのかもしれない。

対面した父・基春は、夏が想像していた父親像とは違ったようだ。粗野な態度で、カメラではなく、釣りや競馬などが趣味の男。夏は基春との対面の場に海を連れてきていたが、小さな子どもを目の前にした基春の態度からしても、理想的な父親とは捉えがたい。

人には、向き・不向きがあるものだ。基春は根本的に、育児が不得意な人間だったのかもしれない。夏が3歳になるまでともに時間を過ごしていたが、そこには育児や子どもに対する「興味」しか存在しなかったという。

夏の母・月岡ゆき子(西田尚美)が言っていたように、責任を持たず、心配もしないで「おもしろがるだけなら趣味」なのだ。「あなたは子どもを、釣りや競馬と同じだと思ってる」と言われた彼は、「納得」した。日々、変わっていく子どもの姿を前にして、おもしろがることしかしなかった。これからどんなふうに育っていくか、楽しいことやおもしろいことと同じように、不安や苦しみも点在するであろう未来を、想像できなかったのだろう。

夏と基春は、新しい関係性を築き直せるだろうか。彼らを繋ぐのは、基春が「毎日違うから、残しておかないともったいない気がして」という思いで買ったカメラのみ。写真で思い出を残す営みが、細くもろいけれども、思い出したときにたどっていける糸となる。

夏には、誰にも言えていない本音があった。いきなり血の繋がった娘がいると知り、自分の人生に「父親になる可能性」が投げ込まれ、ひたすら真摯(しんし)に向き合うことを要求された。「めんどくさいことになったって、思ったんです」と夏が本音を打ち明けられたのは、唯一、基春にだけだった。

基春が、夏の父親としてではなく、たった一人「本音をぶつけられる相手」として存在するならば、密かなよりどころとしての新たな縁が結び直せるのかもしれない。

夏と弥生は「本音」を言い合えるのか

第7話のキーワードが「母性」だったとしたら、第8話のキーワードは「本音」だろう。

ずっと本音を秘めていたのは、夏だけではない。夏の現在の恋人である百瀬弥生(有村架純)もまた、誰にも言えない本音を抱えていた。夏が、本音の明け渡し先として基春を選んだとするなら、弥生が選んだのは津野晴明(池松壮亮)だった。

弥生と津野の共通点は明確だ。夏や水季、海と深く関わっている立ち位置にいながら、血の繋がりはないという「絶対的な壁」によって阻まれている。いわば他者であり、第三者。関わろうと思えば関われるけれども、離れる選択をすれば容易に離れていける。血縁関係にない者の、自由と薄弱さを併せ持っている。

水季は、夏に手紙を残していた。彼女の母・南雲朱音(大竹しのぶ)から受け渡されたその手紙には、弥生に宛てたものも含まれていた。夏の恋人宛ての手紙だ。その後、弥生は津野に、これまでもほのめかしていた迷いをハッキリと言葉に出す。

「海ちゃんの母親になる人に宛てた手紙なら、私が見ちゃうのも」とこぼす言葉に、彼女の葛藤が滲(にじ)み出ている。夏の恋人である自覚を持ち、彼と結婚して海の母親になるという主張をしてきたはずの弥生だが、いざ夏が子どもの認知をする決断をしたタイミングで、亡き水季からの手紙を受け取り、立ち止まらざるを得なかったのだろう。

弥生が母親になりたいと望む気持ちに、きっと嘘はない。しかし「海の」母親になりたいかと言えば、話が変わってくるのかもしれない。

弥生は、夏の優しい性格に触れながら「何も言えなくなるんです。たぶん月岡くんもそうです。私がつらそうにするから、無駄に優しくするから、本音、言えなくなってます」と津野に言う。津野にだけ打ち明けた、海の母親に“ならないかもしれない”可能性。枝分かれしかけている夏と弥生の、この先の将来に進む道は、互いに本音を伝え合うことで再び交わるのだろうか。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

元記事で読む
の記事をもっとみる