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松村北斗&倉田瑛茉”えまほく”が尊い…少ない特徴でも正確に魅せる芝居の魅力とは?『西園寺さんは家事をしない』考察レビュー

  • 2024.8.22
『西園寺さんは家事をしない』第3話より ©TBS

現在放送中の松本若菜主演、松村北斗共演のドラマ『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)。主人公・西園寺さんのみならず、偽家族となった楠見親子が微笑ましいとSNSで話題沸騰中だ。今回は、楠見と、役を演じる松村北斗にフォーカスしたレビューをお届けする。(文・柚月裕実)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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【著者プロフィール:柚月裕実】
エンタメ分野の編集/ライター。音楽メディア、エンタメ誌等で執筆中。コラムやレビュー、インタビュー取材をメインにライターと編集を行ったり来たり。SMAPをきっかけにアイドルを応援すること四半世紀超。コンサートをはじめ舞台、ドラマ、映画、バラエティ、ラジオ、YouTube…365日ウォッチしています。

『西園寺さんは家事をしない』第3話より ©TBS
『西園寺さんは家事をしない』第3話より ©TBS

ストーリーはもちろん、劇中の西園寺のキャラクターやコーディネートも好感が持てるのに加え、松村演じる楠見と、楠見の一人娘で4歳のルカ(倉田瑛茉)の楠見親子は物語を飛び出し、“えまほく”としても人気を集める。

今期、様々なタイプのドラマが放送される中でトップを争う人気ぶりだ。本作で見せる松村の演技に注目してみたい。

松村が演じる楠見俊直は、アメリカ帰りの天才エンジニアで4歳愛の娘・ルカ(倉田瑛茉)を男手一人で育てるシングルファーザー。転職早々に自宅マンションが火事に遭い、偶然駆け付けた西園寺の計らいで、一軒家の一角にある賃貸スペースで仮住まいをすることに。西園寺は一時的に部屋を貸すはずだったが、紆余曲折を経て偽家族として物語が進んでいく。

『西園寺さんは家事をしない』第1話より©TBS
『西園寺さんは家事をしない』第1話より©TBS

一方の楠見は、正しいコードを書かなければ作動しない、絶対的な正解が存在する世界で生きてきたエンジニア。誰もが知るというアメリカのパイナップル社からやってきた。

第1話からサービスを巡って西園寺と楠見の意見が食い違う場面があったが、それもお互いプロであるがゆえ。両者とも初回から自分の非を素直に認めて謝る場面が登場するのだが、そこに仕事で結果を出して生きてきた者のポリシーが垣間見えた。

家事ゼロを実現させ、独身で自立した生活を送る西園寺と、妻を亡くし、まだまだ手はかかるが愛すべき娘がいる楠見。まるで環境の違う2人だが、自分にできることを差し出して凹凸を補うように偽家族として暮らすことに。

『西園寺さんは家事をしない』第1話より©TBS
『西園寺さんは家事をしない』第1話より©TBS

西園寺一妃は主人公ゆえ、仕事や家族構成、ファッションやシルバニア好きという趣味・嗜好など全方位に及んで描かれているのに対して、楠見はアメリカ帰りの天才エンジニア。娘がいて、自宅マンションが家事になり、持ち物はキャリーケースに黒いリュックサック…。第1話前半で描かれた人物の特徴はかなり少なかった。

ストーリーが進むにつれて、楠見本人や登場人物のセリフから少しずつ情報を得たものの、せめて自宅の様子でもあれば、家具家電やインテリアから人柄を窺い知ることもできたはず。そのような描かれ方にもかかわらず、セリフ回しに表情、エンジニアとしてのエリートっぷりはスマートな体型からも、”楠見俊直”という人物像がストレートに伝わる松村の芝居の説得力たるや…。

第1話の登場シーンから優秀なITエンジニアらしいキリリとした雰囲気を醸し、口調も理論的で、冷静沈着な人柄が伝わってきた。火事に遭った際の対応には西園寺も驚いたほど。のちに起こるシステムのトラブル時も、事象の切り分けをしてスマートに対応していた。

『西園寺さんは家事をしない』第3話より ©TBS
『西園寺さんは家事をしない』第3話より ©TBS

1話終盤で、住む家はまだみつからないが家を出ていくと告げるシーンでは、会社では見せることのなさそうな、少し丸めた姿勢がゆっくりと映し出され、西園寺はそこに実母の姿を重ねる。

妻を病で亡くし、悲しみにくれる暇すらなく、無我夢中で駆け抜けてきた1年間。その様子は回想シーンと共に明かされたが、スマホに育児に関する情報をまとめ、しっかり子どもと向き合って奮闘する楠見の姿が描かれた。

ルカにかける言葉や慣れた様子で抱っこしたり注意したりする様子からも、楠見の“頑張りすぎる”性格や誠実さが伝わってきた。そんな彼の、弱さや寂しさ、しっかりしなければと奮闘する姿…あらゆる感情が絶妙に丸めた背中に詰まっているようで、その姿はしばらく尾を引いた。

第1話からしばらくは頬の動きがほぼなく、口角を上げて笑う場面はわずか。第4話までは回想シーンの中だけだった。西園寺と初めて食事会をした場面では、隣のテーブルのシュラスコを見て、楠見は学生時代を思い出していた。

妻・瑠衣(松井愛莉)との回想シーンだけは口角があがり、柔和な表情を浮かべる。思い出の中には、たくさんの幸せが詰まっているのだ。

第2話では、借りた洗濯機に西園寺の洗濯物を見て慌てた楠見。これも少しずつ心を開くきっかけになったように映った。心がしおしおになった西園寺にスープを差し出す場面では、心配した様子の眼差しを。第4話ではルカのお誕生日会というミッションを機に、さらに距離が縮まった2人。心の距離に連動した表情の崩し方が絶妙だ。

一方で、第6話で描かれた楠見の学生時代。会社で見せるスマートな振る舞いはなく、ボールの投げ方から想像するに運動神経とは無縁だろう。身なりに気を遣う余裕も興味もなく数式に没頭した学生時代。それが瑠衣との交際、結婚によって変わっていったーー。僅かしか描かれない場面だったが、その月日を想像させ、納得感を与えてくれた。

松村といえば、2021年放送の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)で、松村は大正時代を描いた安子編で雉眞稔を演じた。そこでは背中に板を括りつけたかのように、びしっと正した姿があり、そこから時代背景や、家柄、置かれた立場、誠実な性格を感じ取った。松村は声色やセリフ回しもさることながら、表情や姿勢からもその場面の印象を強く残す。

『西園寺さんは家事をしない』第3話より ©TBS
『西園寺さんは家事をしない』第3話より ©TBS

主人公・西園寺一妃についても語り出せば長くなるのだが、カラッとした性格でありながらも情に厚い。おせっかいとも違い、困っている人がいたら救いの手を差し伸べる。当たり前のようで難しいことをやってのける。

自分の気持ちを把握し、まるでPDCAを回すかのごとく、菩薩のように振舞ったり、「駆逐、駆逐…」と整理して行動する姿には、笑いだけではなくはっとさせられる。心の中では様々な葛藤があるものの、乱暴に感情をぶつけるのではなく、気持ちを伝えるのにも配慮を感じる。

ワンオペ育児をシングルファーザーから描き、“偽家族”を巡っては、子どもたちのストレートな疑問をフックに、保護者たちとの会話を通して“普通”について考えるきっかけを与えてくれた。

2人が多摩川沿いを歩きながら、“普通”というものに縛られていたことに気づいたように、いつのまにか刷り込まれた価値観に気づくのも容易ではないと思い知らされる。

第5話で、カズト横井(津田健次郎)が西園寺を食事に誘う場面がある。当時、西園寺の「流行るってことはたくさんの人の力になるってこと」という言葉に救われた横井は、きちんとお礼を伝えていた。てっきり告白するものだと見ていた自分が恥ずかしいやら…。

後にそのような展開を見せたものの、男女が食事、恋心…と、こんな場面からも偏りに気づかされたのだ。コミカルで穏やかな雰囲気であるのも物語に没頭できるポイントで、時にはっとさせられたり、時に涙したり…。心をあたためつつも、様々な気づきを与えてくれる。

『西園寺さんは家事をしない』第4話より ©TBS
『西園寺さんは家事をしない』第4話より ©TBS

瑠衣とのBBQの思い出に楠見がほんのわずか微笑みを浮かべた第1話。そこで登場したナスの丸焼きが、終盤ではルカによって瑠衣のエピソードが語られ、楠見が涙した。

ルカのシールが義母との仲を繋ぎ、そして西園寺さんと楠見の距離を縮めた第3話。他にもピニャータやピーナッツ…そして西園寺の趣味であるシルバニアファミリーと、劇中に登場するアイテムが活きている。

自分の好きなキャラクターやアイテムを集めて、自由な発想で遊んだシルバニアファミリーのように、実際の人生はそう都合良くは運ばない。でも選択肢を見つけることはできる。

“家事の恩返し”では、楠見がお掃除ロボでは取り切れないテーブルの脚にたまった埃を見つける場面がある。便利な世の中になれど、最後は“人”であることを示しているようだった。西園寺家のように家族であってもじっくり話しをしてみないとわからない。最後は“人と人”であることにも気づかされる。

いち視聴者としては、ストーリーの続きを心待ちにしているのだが、同時に終わりに近づいている寂しさも押し寄せる…。ラストに向けて彼らがどんな選択をするのか、西園寺さんと楠見親子の“偽家族”の行く末を見守りたい。

(文・柚月裕実)

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