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『源氏物語』誕生の瞬間がエモい…一方、ヒヤリとするやり取りも? NHK大河ドラマ『光る君へ』第31話考察レビュー

  • 2024.8.22
『光る君へ』 ©NHK

吉高由里子が主演を務める大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)。平安時代中期を舞台に紫式部の生涯を描く。道長は、娘・彰子を慰めるためと、物語を書くことを依頼。ついに『源氏物語』誕生の瞬間が描かれる…。今回は、第31話の物語を振り返るレビューをお届けする。【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】(文・苫とり子)
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【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

『光る君へ』第31話より ©NHK
『光る君へ』第31話より ©NHK

【写真】『源氏物語』誕生の歴史的瞬間を見逃すな! 物語を振り返る劇中カット。NHK大河ドラマ『光る君へ』劇中カット一覧

まひろ(吉高由里子)の頭上から色とりどりの紙が舞い降りる。『光る君へ』第31回では、千年の時を超えて現代まで語り継がれる『源氏物語』がついに誕生した。

まひろが創作した物語が四条宮の女房達に評判との噂を聞きつけ、自ら家を訪ねた道長(柄本佑)。一条天皇(塩野瑛久)に入内するも、寵愛を受けず寂しく暮らす娘・彰子(見上愛)を慰めるために物語を描いてほしいと頼み込む道長だったが、苦労して書き溜めた原稿を焼失したばかりのまひろは創作に励む気にはなれなかった。

そんなまひろの気持ちを変えたのが、四条宮で出会った歌人のあかね(泉里香)と、弟の惟規(高杉真宙)だ。以前、宮中で話題の『枕草子』について「つまらない」と感想を述べていたあかねに、まひろはその理由を尋ねる。

すると、「気が利いてはいるけれど、人肌のぬくもりがないでしょ?」と答えるあかね。それは、かつてまひろに定子(高畑充希)の華やかな姿だけを人々の心に残したいと語っていた作者であるききょう(ファーストサマーウイカ)が意図したことなのだろう。一方、あかねは艶かしさ溢れる自作の和歌をまひろに詠んで聞かせる。

対照的な2人の創作に触れ、“自分らしさ”について考え始めたまひろは惟規に意見を求めた。一見何も考えていないようで、実は視野が広く、姉であるまひろのことも一番客観的に見ている惟規。

そんな惟規の「そういうことを、グダグダ考えるところが姉上らしいよ。そういうややこしいところ。根が暗くて、鬱陶しいところ」と率直な答えは嬉しいものではなかったが、少しだけ自分を知れたまひろはそれを表現してみたくなったのではないか。創作意欲が湧き上がり、道長の依頼を受けることにした。

『光る君へ』第21話より ©NHK
『光る君へ』第21話より ©NHK

しかし、最初に書いた物語はまひろが納得できるものではなかった。それは道長が嘘をついていたことが原因。道長はまひろに「彰子を慰めるため」と語っていたが、本当の目的は定子の死から未だ立ち直れずにいる一条天皇に、『枕草子』以上に夢中になれる物語を献上することだった。

嘘を隠すのが苦手な道長は、「中宮様がお読みになるのですよね」というまひろの言葉に対する反応で結局はバレてしまう。「中宮様と申し上げるとお目がうつろになります」と鋭い考察を見せるまひろ。

幼い頃から互いを思い合っているからこそ、誰よりもお互いのことを理解し合える。道長も、まひろの性格的に自分を政治の道具として扱われることを嫌がると分かっていたからこそ、本当のことを黙っていた。

まひろは改めて一条天皇に献上する物語を書くため、一条天皇のことを道長から教えてもらうことに。一条天皇が美しい男性であったこと、幼い頃から定子のことを慕っていたこと…道長が語る一条天皇の姿に真剣な眼差しで耳を傾けたまひろ。

その夜、2人は月の下で今は亡き直秀(毎熊克哉)について語らう。人が月を見上げる理由について「もしかしたら月にも人がいて、こちらを見ているのかもしれません。それゆえ、こちらも見上げたくなるのやも」というまひろの興味深い発言を受け、「直秀も月におるやも知れぬな」と溢す道長。

続く「誰かが今、俺が見ている月も一緒に見ていると願いながら月を見上げてきた」という言葉にまひろはハッとしたような表情を見せる。

道長が語る“誰か”は明らかにまひろのことを指していた。そして、それはまひろも同じなのだろう。心が折れてしまいそうになるたび、直秀のように無惨な死を遂げる者がいない世の中を…と誓い合ったあの日を思い出し、自分を律してきた2人。

月にいる直秀の存在が離れている間もまひろと道長の心を繋いできたのだ。2人が単なる男女の関係ではなく、ソウルメイトであることを印象付けるシーンの数々が描かれた。

『光る君へ』第31話より ©NHK
『光る君へ』第31話より ©NHK

まひろとの絆がどんどん深まっていく中で、2人の妻とはすれ違いが続いている道長。娘の彰子が心配するほどに、倫子(黒木華)との夫婦仲は冷め切っている。彰子は自分のせいで2人の関係性を悪くしたのではと思っているようだ。

そんな中、自分の息子たちにも、倫子との子・頼通に負けない地位を与えてほしいと道長にねだる明子(瀧内公美)。しかし、「倫子の家には恩がある」とそれとなく突っぱねられ、思わず明子は語気を強める。ハッと気づき、謝罪するが時すでに遅く、以降道長の足は遠のいてしまうのだった。

自分の子供の将来について思いを巡らす2人の妻。彼女たちの不満はおそらく、道長がそんな自分の悩みに真剣に取り合ってくれないことにあるのだろう。一方、道長は物語を書くまひろのために越前の紙を用意し、彼女の娘・賢子には穏やかな笑顔を見せる。

また印象的だったのは、一条天皇について話し終わった道長にまひろが「帝もまた、人でおわすということですね」と語る場面だ。天皇も親も女性も、当たり前だけど人。悩み葛藤し、恋に心を支配されることもある。

そのことを、道長は幼い頃から身近な人たちの姿を通して理解しているはずなのに、忘れてしまっているのではないだろうか。だから、妻たちの苦しみに気づけない。そんな道長がまひろに対して真心を持って接していることを、妻たちが知ったらどうなるのか。考えただけで恐ろしくなった。

そしてラストでは『源氏物語』誕生の瞬間が訪れる。なかなかアイデアが思いつかず、自宅の庭をひたすら往復するまひろ。すると途端にインスピレーションが湧き、物語の一片が描かれた色とりどりの紙が舞い降りてくる。四季折々の景色を織り交ぜた『枕草子』誕生と同様に、物語の核を担う『源氏物語』誕生の瞬間が色鮮やかで幻想的な映像美で表現された。

(文・苫とり子)

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