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宮川大助「今、嫁はんに2度目の恋をしてる」一時は心肺停止寸前の状態にも。壮絶な介護生活を支え合う宮川大助・花子の夫婦愛【インタビュー】

  • 2024.8.21

多発性骨髄腫という難病と闘っている夫婦漫才師・宮川大助・花子の花子さんは、夫の大助さんの献身的な介護に支えられて、現在在宅で病と向き合っている。そんなおふたりの日々を描いた新刊『なにわ介護男子』(宮川大助・花子/主婦の友社)が今、大きな注目をあつめている。病気の発覚から退院までを描いた前作『あわてず、あせらず、あきらめず』(主婦の友社)から2年、波瀾万丈なおふたりの毎日はしんどいはずなのに、なぜか明るい。病気と闘うさまざまな人を勇気付けてくれる一冊について、おふたりにお話をうかがった。

本を書いて自分が一番救われた

――あらためて、本を出されていかがですか?

花子さん(以下、花子):自分にとってのバイブルみたいな感じですね。病気のこと全然わからへんかったから、自分も一緒に勉強していこうという気持ちで本を書かせていただきました。書くのはめちゃくちゃしんどいですけど、それじゃあ全然面白くないでしょ。それに、本に書くことで紛れたのはありますね。

実際、トイレひとつ行くのもえらいことなんですよ。でも書くことで笑けてくるし。今日もこのインタビューが始まる前に便が出たんですよ。私が「でてるー?」って言うと、大助くんが「でてるでてるー」って。なんでこんな面白いことしてんのかなって思いますね。もちろんお腹が痛くて大変なんですけどね。でもそんな感じです。自分が一番救われますね。

――大助さんはそんな風に花子さんが書かれている姿を見ていかがですか?

大助さん(以下、大助):僕はほんとに医学書にしていいくらいの感覚で捉えてたんですけど、漫画とかもいろいろ入って明るい本になりましたよね。びっくりしたのは、前書きが、出版前に出演した漫才だったこと。「これあの時の闘病生活の漫才やないか」って笑ってしまって、そのままの勢いで本も読んだら、ほんまに数時間で読めてしまう。正直、こんな辛い病気の中でよう書けるって思いますよ。こんなに明るい本にするためには、相当葛藤があったと思います。

――本当に明るく書いてくださっていることに救われました。

大助:抗がん剤を飲みながら生きていく患者さんというのはたくさんいらっしゃるわけで、その方たちも同じようなしんどい思いをされてると思うんです。嫁はんも「辛い」って何回も口から出てますからね。そう言われると僕がしゅーんとなるんで、今は楽しく発散するほうになってきてますけど、そうじゃないと僕に噛んできますね。まあ子猫に噛まれるような感じですね。

花子:かわいいやん。

大助:介護についても辛いとかないんですよ。どうしてなんかなと思ったら、女房って人生の「戦友」だからなんですよね。6畳と3畳の二間の家で、ほんとに食べるものもないところから親子3人で川の字になって寝てってところから出発してるんで。友が倒れたときに「ほな、俺先いくで」とかまずないでしょ。でもね、ほんと、今日だってうんこまみれですよ。水で洗ったりシャワーで洗ったり大変なんですけど。そういうのにつらいという気持ちはないんです。

――「介護男子」としての働きぶりには本でも驚きました。

大助:実はこの本は「老老介護」がテーマでもあるんです。僕も腰が曲がったまま歩いてるんで手術したほうがいいって言われてるんですが、そうすると1ヶ月も休みをとらにゃいけないし、嫁はんもこの状態でほっておけないし、娘も仕事があるし、なかなか無理なんですよ。

でもね、今まで漫才に熱中してきて、相方としてばっかり嫁はんを見てて、家に帰っても朝までいろいろ仕事のこと考えたりしてる状態で、それが今は嫁はんの介護ベッドの横でずっと付き添いでいてて、阪神見ながら「あ、また負けた」とか言いながら過ごしてる。そういうのは結婚して48年のうちでほんとにこの4、5年だけなんですよ。

――本にもすごく新鮮と書いてらっしゃいましたね。

大助:そうです。世間の男性に声を大にして言いたいのは「嫁はんは元気なうちに大事にしろ」ということですね。嫁はんが元気なのが、一番の家庭の笑顔です。男がひっくり返ってもお母ちゃんが元気だったら、お母ちゃんの笑顔で家庭は明るい。ところがお母ちゃんが元気ないと、電気消えたみたいになる。今だって、介護人の僕の心をぱーっと明るくなるように、嫁はんのほうがしてくれてますね。ほんとは僕がせないかんのにね。今は2度目の恋をやってますよ(笑)。

花子:あと2年で金婚式なんですよ。結婚したときに、金婚式を一緒に迎えたいって目標書いてたんで、その夢はもうちょっとしたら叶いますね。それまでは生きんとあかんなって。

ニコニコとプロの力を借りるのも大事

大助:嫁はんに「僕がひっくり返ったときはあんたがこうやって介護してくれる?」ってこないだ聞いたんですよ。そしたらね「何をいうてんの、大事な旦那さんじゃないの。プロにまかす」って。

花子:(笑)。でも、プロの介護士さんやリハビリの先生に手伝ってもらってるので、すごく助かってるんですよ。やっぱり老老介護でふたりでやるより、それは大事やなって思います。だからね、みなさんもね、保険はいっときましょ、介護保険!

大助:これはほんとに大切ですねえ。たとえばお風呂にしても自分じゃ体をうまく支えられないですからね。今、2日に1度、介護士さんにお風呂に入れてもらっていますが、ほんとにプロの力はすごいです。それとね、嫁はんはその人たちとむちゃくちゃ仲良いんですよ。病院の先生や看護師さんたちとも仲がいい。

花子:みんなええ人ですから。私は人、大好きやからね。動物はあかんけど。

大助:いろんな人と懇意にしてて、そのお釣りを、今みなさんから女房がいただいてるみたいなんですよ。これも食べてください、あれもどうぞ、このタオル使ってくださいとかいろいろね。やっぱり病気に立ち向かうのは親子とか夫婦だけでは難しいですよね。先生や看護師さん、リハビリの先生とか介護士さんとかと輪を組んで、その輪の中に上手に入る。そのためにはニコニコ笑顔。プロで笑いの商売をやってただけにそこはすごいと思います。僕にはちょっとできないかもわからない。

――連携って大事ですよね。それにしてもやはりおふたりのお互いを思いやる気持ちがすごく伝わってきます。どうしたらそんなに仲良しでいられるんですか?

花子:仲良くはないですよ。なあ、仲良くはないなあ?

大助:そんなことはないよ。

花子:あはは(笑)。

大助:夫婦の仲の良さの秘訣は、旦那の辛抱よ。普通に喧嘩もするし、腹も立てるし、でもやっぱり戦友なんですよ。女房が好きとか嫌いとか通り越して、もう自分の体の一部分になってますね。

花子:どの一部分やの?

大助:心の一部分やね。

花子:やったやった!

大助:昔、今いくよ・くるよさんに怒られてね。4人で食事したときに「大坊の一番大事なもんはなんや? 宝物はなんや? 漫才か」って聞かれて、僕が黙っとったら、「一番大事なものは漫才とは違うぞ。勘違いするな」って。「あんたの一番大事なものは、花ちゃんや。そしてこどもや。さゆみちゃんや」って。「私らは漫才は出てるけども、家庭は持ってない。あんたらはどんだけ恵まれてるか。あんたはどんだけ財産を持ってるか。漫才は捨てても、花ちゃんとさゆみちゃんだけは、絶対捨てるな。それがあんたの宝物や」って言われました。その言葉が、今はしみじみとわかります。女房は財産で宝です。

漫才していてよかった

――おふたりは自宅介護を選ばれたわけですが、花子さんは夫がやってくれる安心感はありますか?

花子:ありますあります。心強いですよ。いつも「ご主人すごいですー」って看護師さんにも言われますしね。やっぱりいろんな家があって揉めたりすることもあるらしくて、でもうちは家族が団結して病人に向き合ってるんで、看護師さんや介護士さんから「ありがとうございますー」って言われます。

やっぱり入院だとひとりぼっちやし。いつもご飯食べてるときとか「ふたりで食べれてうれしいわあ」って言いますもん。病院だとずっとひとりだからご飯もそんなに食べれんようになるし、家だと大助くんが「食べてるか? 食べれてるか?」ってずっと聞いてくれるし。あの病院のさみしさはないですから。

大助:昔は自宅介護って普通のことだったんですよね。近所にいると、寝たきりのおじいちゃんおばあちゃんがいたら「ジュース2本こうてくれ」「ええよ」「1本お前のな」みたいなのがよくあって、お手伝いしながらご褒美もらったりして、それが普通でしたから。僕が育った家にもおばあちゃんがいてたし、あんまり施設に入ってる人たちを聞いたことがなかったですね。もちろん仕事があったりとか事情はそれぞれですから、施設つかうのもいいと思います。どうするかは自分次第なんじゃないかな。僕の場合は嫁はんが好きで一緒になったことを噛み締めてる感じですね。僕の宝やって。

花子:もちろんやってもらう側からしたら、「介護してもらう」っていうのはしんどいですよ、やっぱり。「悪いなぁ」が80%、「やってもらって助かる」が20%。「悪いなぁ」って思う気持ちをなくしていかなあかんと思ってます。せっかくやってもらってるのに。だから「ありがとう」って気持ちだけを返さなあかんと思ってます。

大助:今はいろいろあーだこーだと注文されて、僕がそれに応えてあげられることがあるのが一番ええんやろと思います。今もリハビリでちょっと良くなったとかね、そういうのがうれしくてね。

花子:お手伝いできるようになったな。

大助:そうそう。今は「何食べようー」「パン食べよか」ってなると、嫁はんが冷蔵庫からパン出して電子レンジに入れるとか。コップも並べたりとか、そんなこともできるようになったんで、介護士さんが目をまるくしてました。

花子:リハビリめちゃくちゃがんばるようになったなあ。こないだは洗濯機で洗いましたけど、自分でできることをやっていこうかなって思います。

大助:治療の面では先生に頼らないとあかんですけど、家だからできることもあるんですよ。台所に行けるだけもすごい喜びですし、そういうちっちゃなちっちゃな目標が大事です。

――本には「センターマイクに立つ」という目標を書かれていましたよね。

花子:今は夢と希望と憧れをみなさんにお返しすることですね。だから漫才しててよかったなって思います。

大助:こういう日々も漫才の道の通り道だって思いますね。漫才道は終わらないし終わらせたくないし、死んだってちゃんと残る。こういう本だってそうです。介護の話、介護される側の話とか、一緒にがんばる夫婦の生活の姿とかも、ぜんぶ僕らの漫才の道ですね。それを聞いた方が「勇気をもらった」とかなれば、漫才を通じてものすごいメッセージを残せてることになりますよね。この本で「おっしゃがんばろう」って、思ってもらえて、家庭に一個、あかりがつけばいいなって思ってます。

――ズバリおふたりにとっての漫才とは?

大助:簡単です。夫婦。大阪の夫婦は、ぜんぶ漫才師です。

花子:すごいなあ、大助くん。100点や(笑)。

取材・文=荒井理恵

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