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心地よい情報に囲まれていると考えが過激化する…現代人が包まれている「フィルターバブル」のおそろしさ

  • 2024.8.21

偏った情報に流されないためには何が必要か。問題解決コンサルタントの岡佐紀子氏は「自分が求めている情報ばかりに囲まれていると、自分が見ている世界が正しいという心理に陥りやすい。多角的に物事を疑うには4つのアプローチがある」という――。

※本稿は、岡佐紀子『正しい答えを導くための疑う思考』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

デジタルコンテンツコンセプト
※写真はイメージです
偏った情報は集まってきやすい

現代において、疑う思考を磨く必要性はますます高まっています。なぜなら、得られる情報が膨大になった反面、自動的に私たちに入ってくる情報が非常に偏ってきているからです。

自分が求めている情報ばかりが集まる状態が続くと、知らない間に視野が狭くなっていきます。そして、自分が見ている世界が正しいという心理に陥ってしまうのです。

先日、通販でスーツを買おうと思ってパソコンで検索しました。するとその時点から、SNS広告やネット広告がスーツの広告だらけになりました。こうしたことを皆さんも経験したことがあるのではないでしょうか?

誰かと一緒にいるときに、それぞれの端末でYahoo!ニュースを開いてみてください。羅列するニュースのテイストが違うことに気づくと思います。

私たちがインターネットで何か情報を閲覧しているとき、裏側では「この人は旅行が趣味だから、旅行のときに役立つ情報を提供しよう」「今スーツを買おうとしているから、スーツが売れやすいように広告をたくさん表示しよう」というような動きが起こっています。

芸能ニュースばかり見ている人には芸能ニュースが、経済ニュースばかり見ている人には経済ニュースが表示されるはずです。インターネット上で何らかの情報を求めると、アルゴリズムによってそれに類似する情報ばかりが表示されるのです。

この機能を「フィルターバブル」と呼びます。泡に包まれたように、自分が知りたい情報や見たい情報にしか触れられなくなるというわけです。フィルターバブルは知りたい情報に関連する情報が得やすくなって便利な反面、それ以外の情報が入ってきにくくなるという弊害があります。

日常生活にもフィルターバブルは存在する

実は、このフィルターバブルはインターネットの世界だけでなく、リアルの世界でも起きています。

同じ業界の人とだけ接する、同じ会社の人以外とはほとんど話さない。社内でも関連する部署の人とはよくコミュニケーションを取るけれど、関連性の薄い部署のことはほとんどわからない。このように現実世界でも何気なく過ごしていると、特定の人とだけ関わることになります。その結果、自分の周りに集まってくるのは、自然と似た価値観の人になっていきます。

そうすると、現実世界でもネットの世界と同じようにフィルターバブルが生じてしまうため、自分にとって心地よい情報しか選べなくなってしまうのです。

それによって何が起こるのでしょうか?

自分の信念や価値観を肯定する人ばかりが集まり、自分の信念や価値観が正解であるという意識がさらに強まっていくのです。

これをネットの世界では「エコーチェンバー」と呼びます。よくSNSなどで、同じ価値観を持つ人同士でリプライをしている様子を目にすることがありますよね。

同じ価値観の人が集まって心地よいだけならいいのですが、ときに非常に排他的で過激な発言が散見されることがあります。思想が過激化して、他者を攻撃するという行動に出てしまう危険性もあるのです。

こうした危険から身を守るためにも、疑う思考はとても役に立ちます。疑う思考を高めることによって、多角的に物事を見ることができるようになるのです。

多角的に疑うためのアプローチ方法

疑うことを悪いことだと思っていると、思考力を高めることはできません。しかし、何でも疑うことも、思考力を高めるとは言えません。

私たちに必要なのは、多角的な視点で物事を疑うことです。

「多角的に物事を疑う」とは、異なる視点から情報や主張を検討し、その信憑性や論理的整合性を評価することです。このアプローチでは、一面的な見方に囚われず、多様な視点から物事を考察し、より深い理解と合理的な判断を目指します。

多角的に疑うための具体的なアプローチを4つ紹介します。

・ 異なる情報源を探索する:同じトピックについて、異なる情報源からのデータや意見を収集する
・ 背景を理解する:主張されている内容の背景や文脈を理解し、その影響を評価する
・ 仮説を設定し、検証する:物事の解釈に対する仮説を立て、証拠をもとに検証する
・ 論理的思考を適用する:論理的に一貫した推論を用いて、情報の妥当性を評価する

例えばプレゼン資料を作るときや、会議やミーティングを行うとき、社内の問題点を洗い出して解決法を探るときなどには、疑う思考を使いながら取り組んでいきます。

オフィスで問題を解決する忙しい男
検証して仕事に取り組む(※写真はイメージです)

1人で疑う思考を使うにせよ、他者との会話で使うにせよ、疑う思考を活用するにあたって、知っておいてほしいことが1つあります。それが、「非難」と「否定」そして「批判」を区別することです。疑う思考は、非難や否定とは一線を画するものであることを知っておきましょう。

「非難」をいろいろな辞書で引いてみると、「人の欠点や過失などを取り上げて責めること」と書かれています。非難には、人を傷つけようという意思があります。悪口や愚痴、誹謗中傷、失敗を責める、けなす、攻撃するという行為が非難です。

他人だけでなく、自分に対しても「私はバカだ」「私はダメなやつだ」と自分を攻撃をすることがあります。これは自己非難です。

誰かに「だからお前はダメなんだ」と言われたとき、その発言に対して多くの人は「ありがたいな」「学びがあるな」とは思わず、ただ傷ついてしまうのではないでしょうか。他者に対しての非難はもちろん、自分に対しての非難も生産性がなく、そこからは何も生まれません。

著名人のSNSが炎上し、コメント欄に否定的なコメントが殺到するという事態は頻繁にありますね。中には目を覆いたくなるような酷いコメントもあったりします。匿名で送られてくるこうしたコメントのほとんどが「非難」です。

続いて「否定」についてです。「否定」をいろいろな辞書で引いてみると、「そうではないと打ち消すこと。また、非として認めないこと」とあります。否定は、「○○さんに仕事を頼んでも仕方ない」「指摘しても変わるはずがない」というように、相手のことを見極めることなく自分本位に決めつけてしまっている状態です。

非難と同じく、否定も自分に対してしてしまうことがあります。「どうせうまくいかない」「どうせ成功しない」というような場合を自己否定していると言います。

正しい批判力を身につけるべき理由

非難や否定と似ているようでいて、全く異なるのが「批判」です。批判力とは、物事を立体的に見る力です。「批判」を辞書で引いてみると、このように書かれています(精選版 日本国語大辞典から引用)。

1 物事に検討を加えて、判定・評価すること。
2 人の言動・仕事などの誤りや欠点を指摘し、正すべきであるとして論じること。
3 哲学で、認識・学説の基盤を原理的に研究し、その成立する条件などを明らかにすること。

研究者が論文を書くときには、先行研究を調べ、先行研究について「それって本当?」「この角度から見ても成立するのだろうか?」と、意見や情報を批判しつつ、新しい論理を展開することがよくあります。研究に対して批判が行われることによって、その研究が磨かれ、結果として学問の進歩につながっています。つまり、批判には生産性があるのです。

さらに批判には、当事者が気づいていないことを指摘するような意味合いもあります。例えば仕事が遅い人に対して、「どうしてこんな簡単なこともできないんだ」と言うのは非難に当たりますが、批判の場合は、「こういうところが原因で仕事が遅くなっているのではないだろうか」と指摘するようなイメージです。

本人に見えている視点とは別の視点から物事を見てフィードバックするので、新たな視点を本人に提供し、進化や成長の機会を与えることができます。

【図表1】失注したとき
『正しい答えを導くための疑う思考』(かんき出版)より

このように、同じ現象に対しても、非難・否定・批判では、かなり現象が違うことがわかります。

自分1人で何かを考えるときにも、それぞれを分けておくと、思考力が高まります。仕事で何かにチャレンジしたいと思ったとき、この3つの違いを知っていれば、「自分にはできない」「自分はなんてダメなんだ」ではなくて、「こういう部分が足りていない」と自分に対して批判力を使うことができるからです。

私たちが仕事をするとき、業務内容によって関わる人の数が変わってきますね。1人でできる範囲の仕事もあれば、10人、20人でチームを組んで進めなければならない仕事もあるでしょう。

岡佐紀子『正しい答えを導くための疑う思考』(かんき出版)
岡佐紀子『正しい答えを導くための疑う思考』(かんき出版)

関わる人数が増えれば、できることの規模が変わってきます。1人でできる仕事なら、「それって本当?」と自分に対して問いかけながら進めていけばいいのですが、関わる人数が増えれば増えるほど、この「批判力」をうまく使うことが大切になってくるのです。

批判が活発に行われるほど、違う角度から物事を見るチャンスが増えることにつながります。批判ができない関係性や環境では視野が偏ってしまい、新しいアイデアが生まれません。

ちなみに、批判をする際には、建設的なやり取りをする土台があること、つまり相手も受け止める準備ができていることが大前提です。

岡 佐紀子(おか・さきこ)
オフィスブルーム 代表取締役、問題解決コンサルタント、デール・カーネギー・トレーナー
大手IT企業を経て26歳で起業。ITに特化した派遣事業、システム開発、コールセンターの運営に携わりながら、近畿大学経営学部で非常勤講師として11年間教鞭をとり、大学ではITスキルやコミュニケーションスキルについての知識を提供する。2006年に教育業に力を入れるために分社し、株式会社オフィスブルームを設立。20年にわたる講師経験を有し、年間200回を超えるペースで研修・講演活動を展開。数万人のビジネスパーソンに対し、眠らせず、参加を促すダイナミックな研修スタイルで高い評価を得ている。主な著書に『人を動かすコミュニケーション力を身につける』(ギャラクシー出版)がある。

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