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「この地でテキスタイルの文化を復活させたい」──ゼロ・ウェイストの技術をデンマークから世界へと発信するステム【若手デザイナー連載】

  • 2024.8.18

サステナブルファッションの分野で活動する多くの人々と同様、映画『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』に影響を受けたというデザイナーのサラ・ブルンフーバー。2015年に公開されたこのドキュメンタリーは、ファストファッションがもたらす衝撃的な人的被害と、業界が環境に与える甚大な影響にスポットライトを当てた作品だ。ドイツ生まれイギリス育ちの彼女がオランダのデザイン・アカデミー・アイントホーフェン(DAE)でデザインを学んでいたときのことで、「(映画を鑑賞してから)この業界をよりよくする一翼を担いたいと強く思うようになりました」と回想する。

コペンハーゲンではヘンリック ヴィブスコフ(HENRIK VIBSKOV)のもとでインターンシップを終えた直後、ブルンフーバーは無駄を省くためにパターンカットされたピースを直接織り機にかけるという、ゼロ・ウェイストの生産技術を思いついた。当初、彼女は一着一着を手で結んで服を作り、フリンジ効果を出すために端の糸を緩めたままにしていた。「手織りしてから手結びするので、一着を仕上げるのに一カ月ほどの時間がかかりました」と彼女は説明する。

卒業後、コペンハーゲンに移住することを決めたブルンフーバーは、自身のテクニックに廃棄物を減らすためのポテンシャルを見出した。「織物の生産には平均15~25%の裁ち落としの無駄があり、私たちは皆、その事実を見て見ぬふりをしている」と指摘する彼女は、ヨーロッパのイノベーション・ファンド・プロジェクツとイノベーション・ファンド・デンマークから資金を得ることに成功。自身のプロセスを工業化するために、イタリアのプラートにある工場とコラボレーションすることになった。

ゼロ・ウェイストの技術をデンマークから世界へ

2025年春夏コレクションより。
2025年春夏コレクションより。
2025年春夏コレクションより。
2025年春夏コレクションより。

この資金援助により実現したのが、彼女のゼロ・ウェイストの理念を体現するためのスローファッションブランド、ステム(STEM)のローンチだ。2021年、リサイクルコットンとバージンコットンをブレンドして作ったフリンジデニムからなる小さなコレクション「Edition 1」を発表したブルンフーバーは、すぐにデンマークでカルト的人気を誇るガニーGANNI)の目に留まり、翌年にはコラボレーションをするまでに至った。

ブルンフーバーはゆっくりと時間をかけて腕に磨きをかけ、今年1月には新しい超伸縮性のデッドストックウールを用いたカプセルコレクション「Edition 2」を発表。このコレクションはコペンハーゲン・ファッション・ウィーク中に開催されたガニーの展示会「Fabrics of the Future」にも出展された。「私は天然繊維しか扱わないので、衣料品に含まれるプラスチックを減らすにはどうしたらいいか思考を重ねました」とブルンフーバー。「この伸縮性のあるウールを開発するために、糸の研究スタジオと協力しました。その結果生まれた糸は、今まさに工業化されようとしています」

今回の2025年春夏コペンハーゲン・ファッション・ウィークで、ステムは初めて公式スケジュールに登場し、プレゼンテーション形式の一環として「Edition 3」を発表。最新コレクションで披露した、デザイナーが「pulling(引っ張り)」と呼ぶ新しいテクニックについては、「ゆるく織られた部分を再び織って、織機から離れたら引っ張り、形を変えていく」ものだと説明する。

コペンハーゲンのテキスタイル文化に光を当てて

ステム創始者サラ・ブルンフーバー。
ステム創始者サラ・ブルンフーバー。

こうしたユニークなプロセスから生まれたのは、フリンジ付きのラグビーシャツや質感のあるミニスカートなど、デザイナーの技術が余すことなく落とし込まれた民芸的なコレクションだ。ブランドは現在、過剰生産を防ぐためにも、公式ウェブサイトから予約注文を受け付けている。「すでに多くの人が興味を示してくださっています。これはすごくエキサイティングなこと」

ステムの次なるステップは、デンマークにテキスタイル工場を開設すること。サーキュラーかつ廃棄物の出ない方法で現地生産を行えるよう計画を進めるデザイナーにとって、自身の工場を持つことは夢だったという。彼女は最後に、「私は、この地でテキスタイルの文化を復活させたい」と、今後の展望を語った。

Text: Emily Chan Adaptation: Motoko Fujita

From VOGUE.CO.UK

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