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パリ2024オリンピックで話題になった、セーヌ川で暮らす人々に思うこと。

  • 2024.8.17

別に世の流れに逆らおうとしてひねくれているわけではないのだが、いままで一度もオリンピックに熱狂できたことががない。どうせなら多くの人と心をひとつにして夢中になってみたいという気持ちはあるのだけど、普段興味があってよく見ているスポーツでもオリンピックとなるとなぜか熱が入らないのだ。

私はそんな筋金入りのオリンピック不適性だけれど、今回セーヌ川についてのあれこれはよく耳に入ってきた。最初に市長がセーヌ川で泳いだと聞いて仰天してしまったからだろう。トライアスロンの選手が2人入院したそうだが、市長は水が口に入らないようすごく気を付けていたに違いない。映像で見た時は歯を見せて笑っていたので、プロだなあ、と感心してしまった。

それでも「セーヌ川、もうみんな泳いでも大丈夫です!」という展開を期待しながらニュースを注視していると、セーヌ川で船上暮らしをしている人たちは、オリンピックの妨げにならない場所に移動することになったというニュースも耳に入ってきた。そのニュースに関連して船上暮らしをしている人たちの映像も見たが、わりと夫婦で暮らしている人って多いのだなあという印象を持った。

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私の知り合いで、いまは地上に暮らしているが、引退後はセーヌ川で暮らしたいという男性が2人いる。そして彼らのパートナーはどちらも、絶対に嫌だ、と言っている。

みなさんはそれを聞いてどう思われるだろうか? 私はというと、それを聞いたときには彼らのパートナーと同じく「そんなの絶対に嫌だ」と思った。たとえば小学生の頃なら、なんて楽しそうなんだと思っただろう。ずっと船の上で水のきらめきを見つめながらご飯を食べたり本を読んだりして、ちょっと旅をしたいと思えばすぐ船で移動していろんな景色が見られるなんて素敵、などとのんきに夢見ただろう。

しかし大人になってしまったいまは、24時間かすかに揺れる船上で、地上の家よりはほんのちょっとずつ不便を感じながら、それでも幸福を感じる自分を想像することができない。ましてや引退後というと、いまよりもずっと身体中にガタが来ているはず......と考えてみるだけでなんだか膝が痛くなってくるような気がする。

ただ、成人して社会人になってもそれを夢見ている人たちのことは純粋にすごいと思っている。そして実際にその生活をしている人についてはさらにすごいと思う。そういう夢をずっと抱き続けるのもすごいし、その夢に寄り添って一緒に船での暮らしを楽しんでいるパートナーの懐の深さは計り知れない。

セーヌ川での船上暮らしは、たとえば「引退したらキャンピングカーでいろいろな土地を旅しながら生活したい」というような夢とも似ている。

一時期、フランスでずっと繰り返し再放送していた「バフィー 〜恋する十字架〜」という昔のドラマシリーズを見ていたことがあった。1日に5話くらい一気に放送され終わってもまた繰り返し再放送されるので、私もすっかりのめり込んだのだ。近所のフィギュアショップでもバフィーのフィギュアをたくさん見るので、フランスでは長く人気があるドラマなのかもしれない。

このドラマはもともとアメコミがドラマ化されたもので、バフィーという選ばれし少女が吸血鬼と戦うわけなのだが、あるシーズンで「強大な敵に追われ仲間たちとキャンピングカーに乗って逃げる」という緊迫した状況があった。

それはもちろんハラハラするような状況なのだけど、同時にすごくわくわくする展開でもあった。バフィーたちが乗って逃げるのが「キャンピングカー」だからだ。「捕まったら万事休す」というような恐ろしい状況なのに、仲間が何人も乗ることができて、ひとりが運転している間に誰かが食事の用意をしたり、調べ物をしたり、運転を交代したりということができる。「キャンピングカーに守られた自分たちは無敵だ」という気分になる。

ポイントは、「いつもの生活を送りつつ目的地に向かって進むことができる」「誰かが運転し移動している間も、同乗者は他の作業を進めてみんなを助けることができる」というところにある。漫画「ONE PIECE」のサウザンドサニー号にもこのわくわくが詰まっているように思う。

でももし、恐ろしい敵を倒してしまったら。冒険を終えてしまったら。多くの人は、普通の家に戻って暮らしたいと思うことだろう。そんなことを、セーヌ川に浮かぶ船を見るたびについ考えてしまう。大人になっても子どものころに抱いたわくわく失わず実現させている人たち。果すべき使命も倒すべき敵もなくても、ずっと小さな冒険の心とともに暮らしている人たちがいると感じ、自分の心の中にもその片鱗を探してしまうのだ。

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