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内部は灼熱の氷!?『海王星』ー予言された最果ての惑星

  • 2024.8.16

海王星は太陽系の最も外側にある惑星で、遠すぎるため地球からは肉眼で見えません。

そのため夜空を眺めて意識されることはない惑星ですが、真っ青なその姿は図鑑ではお馴染みでしょう。

海王星は、天王星の軌道に計算とのずれがあったことから、外側に未知の惑星がありその重力の影響があるのではないか? と見つかる前から存在が予言されていた稀な惑星です。

海の神の名を持ち、神秘的な青い姿から、何も知らないと海洋惑星を想像してしまいますが、実際この天体はどんな惑星なのでしょうか? 青色の正体はなんなのでしょうか?

海王星の謎に迫ってみましょう。

目次

  • 海王星の発見
  • 海王星には海がある?
  • 海王星の内部にある「灼熱の氷」
  • 海王星の衛星

海王星の発見

海王星は計算によって位置が予測され、発見された初めての惑星です。そのため、海王星は「予言された惑星」と呼ばれています。

1781年に天王星が発見されると、天文学者たちは望遠鏡でその軌道を詳細に調べました。

すると、ニュートン力学による軌道計算と実際観測された天王星の軌道にズレがあることがわかったのです。学者たちはこのズレの理由について考え、それが天王星のさらに外側にある未知の惑星の引力の影響ではないかと予想しました。

そこでフランスのルベリエとイギリスのアダムスという2人の科学者が、それぞれ独自に新惑星がどのような軌道を描くかを計算し、その位置について予想を発表しました。

この二人の科学者の予言に基づいて、1846年9月にベルリン天文台のガレが実際に観測によって新惑星「海王星」を発見したのです。

そのため海王星発見は、ルベリエ、アダムス、ガレの3人の功績とされています。

この発見は天王星の時のような偶然ではなく、力学的な計算にもとづいたものでニュートン力学の勝利と言えるでしょう。

その後、海王星の軌道の外側に冥王星が発見されましたが、冥王星は現在惑星の定義に当てはまらないとして準惑星とされているため、海王星が太陽系最遠の惑星になりました。

海王星は太陽から44億9500万km離れていて、公転軌道の長径は土星の3倍以上、天王星の1.5倍です。太陽から遠いため公転周期も長く、165年かけて公転しています。

地球からの距離も遠いため、地上から見て海王星は最も暗い惑星です。海王星の明るさは8等級で、肉眼では見えません。双眼鏡や小口径の望遠鏡で小さな青い星として見えます。口径20センチメートル程度の望遠鏡なら、条件の良い場合は表面の模様を確認できます。

直径は地球の約4倍で、天王星より一回り小さい大きさです。質量は地球の17倍になります。ガス惑星(木星型惑星)の中では最も密度が大きく、平均密度は1立方センチメートル当たり1.6グラムです。

海王星にも環がありますが、天王星よりもずっと控えめです。環は全部で5個あります。海王星にはかつてもっと多くの環があったのかもしれませんが、衛星トリトンの重力作用によってはじかれてしまったと考えられます。

海王星から見た太陽はとても小さく、点のように見えます。しかし、明るさは約マイナス18等もあり、周りのどの恒星よりも明るく見えます。

海王星には海がある?

海王星の英語名であるネプチューン(Neptune)は、ローマ神話の海の神ネプトゥーヌスに由来しています。その名の通り、海王星は深い青色をしており、まるで海が広がっているかのようです。

しかし、残念ながら海王星の青い色は海の色ではなく、大気や雲の色です

海王星の大気の主な成分は、水素が約80%、ヘリウムが約19%、メタンが約1.5%です。天王星が青く見えるのは、大気に含まれるメタンが赤色の光を吸収するため、残った青い光が反射されるからです。

天王星の大気にもメタンが含まれていますが、天王星の色は緑がかった薄いシアンなのに対して、海王星は明らかに青い色をしています。2つの惑星には同じようにメタンが含まれているので、同じような青色になってもいいはずですが、明らかに色合いが異なる理由はなんでしょうか?

最近の研究によれば、天王星よりも海王星の方が青く見える理由は、主に両惑星の大気中に存在する「もや」の層の厚さの違いによるものです。天王星の大気には厚い「もや」の層があって、微粒子によって光が反射されるため青色が薄まって見えます。海王星の大気にも「もや」の層がありますが、天王星に比べて薄いため、青色がより強く見えます。

▲研究チームによってモデル化された、天王星(左)と海王星(右)の大気中の3つのエアロゾル層
▲研究チームによってモデル化された、天王星(左)と海王星(右)の大気中の3つのエアロゾル層 / Credit:International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA, J. da Silva / NASA /JPL-Caltech /B. Jónsson

研究チームが想定したモデルは、3層のエアロゾルから構成されています。エアロゾルとは微粒子を含んだ気体のことで、色に影響を与える重要な層は、2層目の中間層です。

海王星の大気は天王星より活発なため、大気の動きによってメタン粒子が中間層にかき集められ、メタン雪として下方に降下していくため、「もや」が取り除かれやすくなっています。

海王星の大気が天王星より活発な理由は、海王星の表面温度が高いためです。

高いと言っても太陽から遠く離れた海王星の表面温度の平均は約 -218℃(55K)で、極寒であることに違いありませんが、それでも太陽に近い内側の軌道を回る天王星の表面温度(平均約 -224℃(49K))と比べると、わずかに高いのです。

この違いが、よく似た2つの惑星の大気の動きに影響していると考えられます。

では海王星の表面温度が高い理由としては何が考えられるでしょうか?

まずは、温室効果について考えてみましょう。海王星の大気の主成分は水素やメタンで構成されています。メタンは二酸化炭素よりも高い温室効果があるため、温室効果によって表面温度が上昇している可能性があります。

次に考えられるのは、重力収縮による発熱です。惑星の上層部にある物質が中心部に落下した時に重力による位置エネルギーが熱エネルギーに変わります。その熱が表面に伝わって表面温度を上昇させているのかもしれません。

さらに、中心核にある放射性物質が熱源となっていることも考えられます。地球内部の岩石にはウラン、トリウム、カリウム40などの放射性物資が含まれています。これらの物質は崩壊までの期間(半減期)が長く、崩壊した際に放出するエネルギーが大きいため、現在も地球の内部が高温に保たれています。

海王星の密度は木星型惑星の中で最も大きく、氷と岩石で構成されたコアも大きいはずなので、そこに含まれる放射性物質の量も他の星よりも多い可能性があります。

天王星と海王星の内部構造 Credit: ETH Zurich / T. Kimura

内部に熱源があるためか、海王星は天王星と比較しても表面に見える大気の活動が活発です。

海王星は太陽系で最も強い風が吹いていて、最大風速は秒速600メートルに達します。海王星の大気には雲のような構造がたくさんあり、大暗斑のような長寿命の嵐がたびたび発生します。

大暗斑
大暗斑 / 海王星の大暗斑 Credit:NASA/JPL

大暗斑の正体は高気圧性の渦で、大きさは地球の直径とほぼ同じです。

大暗斑は1989年に探査機ボイジャー2号が海王星に接近したときに発見されました。しかし、その後1994年にハッブル宇宙望遠鏡が観測したときには大暗斑は消えていました。さらに数カ月後にはまた新しい暗斑が現れています。

大暗斑は、木星の大赤斑よりは寿命が短いようですが、これは海王星の大気がダイナミックに変動している証拠だといえます。

海王星の内部にある「灼熱の氷」

水は固体の状態では「氷」、液体の状態では「水」、気体では「水蒸気」として存在することが知られています。

ところが、海王星の内部では高い圧力と高温のために、固体でも液体でも気体でもない「超イオン」という状態になっているといいます。

超イオン氷はその特異な性質によって海王星の磁場にも影響を与えていると考えられています。

超イオン氷とはいったいどのようなものなのでしょうか?

海王星に存在する超イオン氷は、通常の水の氷のように透明ではなく、光を吸収するため黒く見えます。この見た目からも特殊な氷であることが分かります。

超イオン氷は固体・液体・気体のいずれにも属さない特殊な環境でのみ存在する水(H2O)の状態です。超イオン氷は、圧力100万気圧~400万気圧の圧力と3,000度近くの温度という極限環境でのみ生成されます。

氷と言っても、とてつもなく熱い氷なのです。

シカゴ大学の研究チームは、水(H2O)に上記のような極度の圧力と熱を加え、海王星内部の状況を実験で再現しました。

その結果、超イオン氷と呼ばれる特殊な状態になることを発見しました。

超イオン氷の状態では、酸素イオン(O2–)が格子状に並んで結晶を構成します。水素イオン(H+)は酸素イオンの間を自由に動き回るようになります。この構造は鉄などの金属に似ています。金属の結晶ではプラスの電荷をもった金属イオンの間を自由電子が動き回っています。

電気を帯びた水素イオンが自由に動き回れるため、超イオン氷には金属と同じように電気を通すという性質があります。海王星の磁場は海王星内部に電気を通す性質を持つ超イオン氷が存在することによって発生していると考えられます。

地球の磁場の原因は地球内部で発生している電流が原因と考えられています。この考え方をダイナモ理論といいます。

地球の場合、ダイナモ理論によると、外核で液体状態の鉄が対流することで磁場が生成されます。内核近くで熱せられた液体の鉄が上昇し、マントル付近で冷やされて降下するという対流が常に発生していて、この動きが磁場を生み出しているのです。

同様のメカニズムで、海王星で超イオン氷が磁場を発生させる理由を説明することができます。

超イオン氷は「氷」という名の通り固体結晶構造ですが、同時に液体の特性も持っています。温度と圧力によっては液体のような挙動を示すことがあります。

海王星の内部では、電気を通す性質がある超イオン氷が対流することで磁場を形成している可能性があります。

海王星の磁場は自転軸に対して47°も傾いており、この磁場の傾きは海王星内部の伝導性の液体によるものと考えられています。

地球、天王星、海王星の磁場の違い
地球、天王星、海王星の磁場の違い / 地球、天王星、海王星の磁場の違い Credit: ETH Zurich / T. Kimura

この液体部分に超イオン氷が存在し、この超イオン水の層が対流することで、電流が発生し、電磁石のように磁場を形成する可能性が示唆されています。

海王星の衛星

1846年の海王星が発見されたときに衛星トリトンも同時に見つかっています。

トリトンの外観
トリトンの外観 / トリトンの外観 Credit:NASA/JPL

海王星の衛星は全部で14個見つかっていますが、その中でもトリトンは変わり者で、海王星の自転とは逆向きに公転しています。

惑星の自転と逆行して公転している衛星は木星や土星にもありますが、トリトンほど惑星に近く、かつ大型の衛星で逆行する軌道をもつ衛星は太陽系には他にありません。

この原因については、トリトンが海王星とは別のところで生まれた天体であり、後から海王星の重力に捕らえられて衛星になったためだと考えられています。

火山を持つ衛星としては、木星の衛星イオがよく知られていますが、トリトンにも火山があります。

トリトンの火山は、「氷の火山」または「低温火山」と呼ばれています。

「氷の火山」は水やアンモニア、メタンなどの揮発性の物質を火山のように噴出する現象です。地球の火山では、内部の熱で融けた岩石がマグマとして噴出しますが、トリトンの火山が噴出しているのは主に窒素です。

トリトンでは表面が窒素を含む氷でおおわれているため、内部の熱が岩石から表面の氷に伝わり、窒素の氷から昇華した窒素ガスが噴出しています。このような火山活動は、太陽からの遠い表面温度の低い天体で見られるので「低温火山」ともいわれます。

トリトンの赤道付近にはマスクメロンのような亀裂による模様がみられます。

トリトンの断層による模様
トリトンの断層による模様 / トリトンの亀裂による模様 Credit:NASA/JPL

これは氷の地殻が膨張と収縮を繰り返してできたものです。クレータがそれほど見られないことから比較的新しい地形と考えられています。トリトンの内部には放射性物質の崩壊による熱が存在し、この熱が氷の地殻を膨張させ、亀裂を形成する要因となっている可能性があります。

トリトン全体には希薄な大気が取り巻いていますが、その成分は主に窒素だと考えられています。

ところで、地球の衛星である月は地球から1年に2~3cmずつ遠ざかっていますが、これに対してトリトンは海王星に近づいいることがわかっています。

この原因は月と異なり、トリトンが海王星の自転の向きと逆向きの逆行軌道で公転しているためです。

この現象は次のように説明することができます。地球と月の場合、月の引力(潮汐力)によって地球の海面が盛り上がります。地球の自転は月の公転よりも速いため、潮の膨らみは月よりも少し前に位置します。これにより、月は地球の潮汐の膨らみから引っ張られる力を受けます。この力によって月の公転が加速され、公転の遠心力が強くなり月は地球から遠ざかります。

月が地球から遠ざかる理由 Credit:創造情報研究所

海王星とトリトンの場合、トリトンが海王星の潮汐で変形した部分から力を受けますが、逆行しているためトリトンの公転は減速されます。その結果遠心力が小さくなりトリトンは海王星に近づいていくことになるのです。

では最終的にトリトンは海王星に墜落してしまうのでしょうか?

現在の予測では、海王星に近づきすぎたトリトンは、いずれその潮汐力で引き裂かれバラバラに砕けてしまうと考えられています。

その後、トリトンの破片は海王星を取り巻く美しい環となることでしょう。実際にそんなことが起きるのは、何億年も先の遠い未来の話ですが…

海王星は太陽系の最も外側に位置する惑星のため、観測が難しく多くの謎が残されています。

将来的には海王星の観測に特化した探査機が送られるかもしれません。海王星の大気や磁場、衛星系などの詳細な調査は、太陽系の形成や進化に関する重要な知見をもたらすと期待されています。

参考文献

惑星のきほん
https://www.amazon.co.jp/dp/4416617496

惑星科学入門
https://www.amazon.co.jp/dp/406159222X

Fluid-like elastic response of superionic NH3 in Uranus and Neptune
https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2021810118

ライター

浅山かつのり: 屋号:創造情報研究所。大学で物理学を専攻し、課外活動では天文研究会の会長を務めました。現在はITエンジニアとして働きながら、サイエンスライターとしても活動しています。歴史にも興味があり、史跡めぐりや歴史関係の本を読むのも好きです。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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