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「結婚前の同棲しなければよかった」彼と付き合って4年。31歳女性が後悔する理由

  • 2024.8.16

この季節が来るたびに思い出す、あの人のこと。切ない思い。苦しくて泣いた夜…。

うだるような暑い夏が今年もやってきた。

これは、東京のどこかで繰り広げられる夏の恋のストーリー。

▶前回:デートで終電を逃して「タクシーで帰る」という29歳女。本音はお泊まりしたい…?

東京カレンダー
浅草の夏/瑞穂(31)


「あ!浅草特集してる〜。私たちもここ行ったよね」

土曜日の正午過ぎ。

遅く起きた朝から、ずっとつけっぱなしになっているテレビを見て、私は龍之介に話しかける。

「ん?」

龍之介は、スマホから目を離さず生返事をした。

同棲して5年目に突入する、私たちのいつもの風景だ。

「もう〜覚えてないの?初めてお昼からデートしたの浅草だったじゃん」
「そうだっけ?」
「そうだよ。明日お互い予定ないし、久しぶりに行ってみる?」
「え〜、もう8月終わるけど、まだ暑いよ…遠いし」

龍之介は、いいリアクションをしない。けれど、私は食い下がった。

「そんなこと言わずに、行こうよ!今年まだ浴衣着てないしさ」
「はいはい、わかったよ」
「やった〜!楽しみだなぁ」

ふたりにとって思い出がある、夏の浅草。私には、どうしても行きたい理由があるのだ。



翌日。

「いやぁすごい人だな〜」
「本当だねぇ」

私と龍之介は、予定通り浅草を訪れた。

雷門の前は、外国人や観光客が写真撮影をしたり、待ち合わせをしたり、とても賑やかだ。

『天麩羅 中清』でランチをして、人気の甘味処に並び、抹茶と小豆のかき氷をオーダーした。

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デートらしいデートが久しぶりなのに、龍之介は今日もスマホばかり見ている。

「このあと、どうする?」
「う〜ん。もうお腹いっぱいだしなぁ…帰る?」
「早すぎだって。もうちょっと居ようよ」
「じゃあ、何するか瑞穂が決めて」
「……」

― 龍之介は楽しくないのかな。

朝イチで美容院に行き、着付けとヘアメイクをしてきたほど浮かれている私と、彼のテンションはまるで正反対だ。

「う〜ん。何か、体験系か、お買い物かなぁ」
「いいね!なんでもいいよ」
「なんでもいいと言われても…」

大手保険会社で総合職の私と、動画編集代行の会社を経営している龍之介。

今年で31歳になる私は、そろそろふたりの関係をステップアップさせたいと思っている。

しかし、そこには大きな壁がある。

私たちは完全にマンネリ化しているし、お互いを想う気持ちに差があるのも明らかだ。

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― 龍之介は、私のことがもうそんなに好きではない。

繰り返す日々の中で、そう感じることが増えた。

だから、同棲の先にあるのは、別れなのか結婚なのか、そろそろ確かめたいと思っていた。この浅草デートは、未来の私のためのデートなのだ。

「江戸切子体験か、合羽橋まで移動して買い物するならどっちがいい?」

私は、溶けかけたかき氷を食べながら龍之介に聞いた。

「そこって、何があるんだっけ」
「お皿とか、調理器具…あとは食品サンプルも有名だよね」
「いいじゃん。何か新しい皿でも買おうか」

― 料理はしないのに、お皿に興味があるんだね。

私は、呆れながらも一緒に合羽橋へ移動した。

― ふたりで使う食器ね…。

新婚だったり、同棲したてのカップルだったら、楽しすぎる時間だろう。

けれど、龍之介との未来が見えない今、何を見ても欲しいと思えなかった。

「瑞穂、本当に何も買わなくていいの?」
「うん…いいや」
「あっそう。って、もう15時半?ちょっとどこか店に入っていい?競馬が始まるわ!レース見なきゃ」

私は頷き、龍之介について行く。

彼はお酒が飲みたかったらしく、タクシーでホッピー通りへ向かう。

どの店も混んでいて店内には空きがなく、外の席で飲むことになった。

まだ陽が落ちない浅草の夜は蒸し暑く、浴衣を着ている私には少々キツかった。

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「ねぇ、龍ちゃん。それ飲んだら他のお店に移動しない?」
「なんで。入ったばっかりだよ」
「ごめん、ちょっと暑くて…」
「もう〜張り切って浴衣着るからじゃん…わかった。じゃあ、もう帰ろう」

私たちは、配車アプリでタクシーを呼び、自宅がある武蔵小山へ向かう。

車内で特に会話をすることなく、ぼ〜っと外を眺めていると、自然と涙が溢れた。

― 今日のデートが楽しくなければ、別れる。

これは、何日か前から決めていたことだった。

27歳から4年間。20代後半を龍之介と過ごした。

4年前、龍之介は「一目惚れした」と目黒の居酒屋で私に声をかけてきた。

それからデートを重ね、付き合ってすぐに同棲を始めた。同じベッドで眠って、同じ匂いがする服を着た。

好きな人が待つ家に帰るのは、本当に幸せだったけれど…。

「結婚前の同棲は、デメリットの方が多い」

そのことに気づくのに時間はかからなかった。

結婚前に体験しなくてもいいような、色気のない生活が当たり前になるし、一緒にいることも特別じゃなくなってしまう。

それでも同棲を解消しなかったのは、龍之介が好きだったし楽だったから。

私といるのが楽なのは、彼も同じだろう。だけど、もう限界だ。

楽なだけでダラダラと付き合い続けるほど、私は若くないのだから。

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「もう、東京の夏は無理だな〜。来年は北海道とか軽井沢にでも行くか」
「…そうだね、暑すぎるね」

― 来年は、きっと一緒にいないよ。

龍之介はもう、私が泣いていることにも気づかなくなってしまった。

それだけじゃない。浴衣を褒めないし、自らデートプランを考えることもない。彼の言動から、愛されていると実感できなくなったのだ。

家に着くと、龍之介は真っ先にシャワーを浴びて、缶ビールを飲み始めた。

「龍ちゃん」

私は、浴衣姿のまま彼に声をかけた。

「どした?瑞穂もお風呂入ってきなよ」
「…別れよ」

龍之介は狐につままれたような顔をしている。

「別れる?なんでよ。まさか、他に男でもできた?」
「そうじゃないよ、もう限界なの…」

彼は、本当に何もわかっていない。

4年も付き合ったのだ。ここは優しい心で、別れる理由をきちんと説明すべきなのだろうか。

私はあなたと結婚したかった。その願望を何度かほのめかしていたし、誕生日、記念日、クリスマス…いくらでもチャンスはあったはずだよね。それと、私と居ることに慣れてしまうのは仕方ないとしても、もう少しデートを楽しんだり、気遣ってくれてもいいんじゃないの?と。

でも、私は言わなかった。

「イヤだよ」
「え?」
「だから、急に別れるは意味わかんないって」

龍之介が別れを拒むのは想定外だった。

「じゃあ、私たちが付き合ってる意味ある?この先の未来のこととか…考えてないでしょ」

私は、真剣な眼差しで龍之介を見た。

このタイミングで求婚されるとは、もちろん思っていないが、最後の最後に希望を抱いてしまうのは、なぜなのだろう。

もっと力強く引き留めてほしいと願ってしまうのは、どうしてなのだろう。

「…わかったよ。瑞稀がそうしたいなら。別れよう」

― だよね、ありがとう。

けれど、龍之介は、私とぶつかるよりも別れを選んだ。

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2週間後。

私は龍之介が仕事でいない間に、ふたりで住んでいた部屋を出た。

『私ね、龍之介のこと大好きだったよ。でも、自分のことはもっと好きだし大事にしたいの。だから、さよならするね。今までありがとう、バイバイ』

テーブルの上に置いてきた手紙に、嘘偽りはない。

楽しかった思い出は数えきれないし、感謝もしている。

ただ、この先将来を見据えて付き合う人には、何年経っても褒められたいし、私とのデートを楽しみにしてほしい。

「よし。次行こ、次!」

私はわざと明るく声を出して、マンションのドアを閉めた。


▶前回:デートで終電を逃して「タクシーで帰る」という29歳女。本音はお泊まりしたい…?

※公開4日後にプレミアム記事になります。

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