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市内全域が国立公園。志摩の大自然と歴史に触れるとっておきの旅

  • 2024.8.16
市内全域が国立公園。志摩の大自然と歴史に触れるとっておきの旅

伊勢神宮からは車で30分ほどの三重県の志摩市。お伊勢参りに行っても、そこで足が止まっていたのであればもったいない。ここは全域が国立公園に指定されているエリア。つまり海もあり山もある。もし自然を満喫する旅をご所望なら、ぜひともお勧めしたい場所だ。

海もあり山もある。なのだが、志摩市は半島の隅々まで道路が整備されていることが特徴でもある。国立公園内だが、住居を含め民有地の割合が非常に高い、国内でも珍しいエリア。つまり保護されている自然と、暮らしが共存する。それが志摩ならではの魅力を生み出している。

憧れの志摩観光ホテルに滞在する

英虞湾(あごわん)を一望できる、賢島の丘の上にあるのが、“シマカン”の愛称で知られるリゾートホテル、志摩観光ホテル。2016年、G7伊勢志摩サミットが開催され、オバマ米大統領など各国の首脳陣が宿泊したことでも知られている。

志摩観光ホテル
このホテルが、2016年に行われたG7伊勢志摩サミットの会場となった。首脳陣が食事をしたテーブルが「ラ・メール ザ クラシック」に展示されている。
志摩観光ホテル
“シマカン”は作家・山崎豊子の定宿。『華麗なる一族』にも登場し、ドラマのロケでも使用された。「ラ・メール ザ クラシック」の窓側には山崎さんが定位置としていた席も。
志摩観光ホテル
庭園内には屋外プールも。毎日、館内を巡る見学ツアーも実施されている。広大な敷地を散歩するだけでもいい運動になる。

ホテルは、ザ クラブ、ザ クラシック、ザ ベイスイートの3つの棟から成り、朱色のザ クラブが1951年の開業時の最初の建物。ロッジのような雰囲気で、かつて鈴鹿の海軍の集会所だった建物を移築したのだそう。

パブリックスペースであるザ クラブ、そして宿泊棟のザ クラシックの設計は建築家・村野藤吾によるもの。自然環境との共存をテーマとした設計で、全体的に和と洋の折衷のような様式のモダニズム建築は、歴史を感じさせつつも時代に取り残されない、気品と風格のある空間となっている。

志摩観光ホテル
賢島にある志摩観光ホテルの開業は1951年。皇族も宿泊する、三重の迎賓館的老舗ホテルだ。こちらは最初の宿泊棟である木造のザ クラブ。現在はレストランやカフェを有するパブリックスペースに。
志摩観光ホテル
村野藤吾の意匠が色濃く残るザ クラブの館内。回遊型で開放感のある吹き抜けや、和洋折衷のモダニズム、柱の1本ずつに刻まれた紋様など、空間に身を置くと、時間を忘れて観察してしまう。
開業時から2016年のリニューアルまで使用されていた古い配電盤をそのまま展示。館内散歩するだけでもホテルの歴史を感じさせる。
ザ クラブのカフェ&ワインバー「リアン」
ザ クラブのカフェ&ワインバー「リアン」は海軍将校倶楽部を移築した建物。オーケストラバルコニーにその名残が見られる。バーカウンターや家具、照明に至るまで、素晴らしい意匠。館内には茶室もある。
ザ クラシックのメインダイニング「ラ・メール ザ クラシック」に展示されている藤田嗣治「野あそび」
ザ クラシックのメインダイニング「ラ・メール ザ クラシック」に展示されている藤田嗣治「野あそび」(1936年作品)は、160cm×350cmの大作。志摩観光ホテル全体に小磯良平、ベルナール・ビュフェなど50点以上の絵画・彫刻作品が飾られ、美術館さながら。
志摩観光ホテルの宿泊棟ザ クラシックの宿泊者専用ラウンジ
宿泊棟ザ クラシックの宿泊者専用ラウンジでは軽食やドリンクをフリーで楽しめる。読書用リーディングルームや、高音質でクラシック音楽が楽しめるリスニングルームも。

もうひとつの宿泊棟、ザ ベイスイートには英虞湾を360度見渡せる屋上庭園がある。自然の中にホテルがあり、そして島の中に建てられていることを実感できる庭園だ。ここから志摩ならではの豊かな自然風景を存分に堪能できる。

〈志摩観光ホテル〉ザ ベイスイート
ザ ベイスイートの屋上庭園からの眺め。複雑な地形で湾が入り組む英虞湾が一望できる。

志摩観光ホテル
住所:三重県志摩市阿児町神明731
HP:https://www.miyakohotels.ne.jp/shima/

一生の思い出になる、海から見るサンセット

小さな湾が複雑に入り組んだリアス海岸である英虞湾。この湾には大小合わせて64もの島がある。その島の間を縫うように走る、小船に乗ってみてはいかがだろう。通称ジャングル・クルーズ。そう呼ばれるのも納得。点在する島を縫うように進み、自然をダイレクトに体感できることがなによりの魅力だ。

季節や天候、気圧によって一日たりとも同じ景色はない、海と島と空だけの時空間。訪れた日は夕陽が沈む、なんとも神々しい光景を拝むことができた。いわば海照らす、いや天照らす、な夕景。ここが世界の中心のような気さえもしてくる。志摩の自然が生み出す絶景はぜひとも体験してほしいところ。

英虞湾
英虞湾は波が少なく穏やかなので、船酔いする方にもお勧めできる。サンセットクルーズは一生の想い出になるはず。
英虞湾
刻一刻と空と海の色が移ろう。点在する島にはイノシシも生息し、島を泳いで渡るところを見かけることもあるそう。
英虞湾
撮影日は船頭さんも写真を撮ってしまうほど迫力ある夕景。太陽が沈んだ後の、圧巻のマジックアワー。

海上タクシー&クルーズ Entrada賢島
住所:三重県志摩市阿児町神明752-21
HP:https://entrada-kashikojima.com/cruise/
*天候に左右されるので、前もって問い合わせを

自然と暮らしの中にある神様に寄り添う

志摩市には神様が祀られたスポットが数多くある。有名なところでは恵利原の森にある、天の岩戸。神話では天照大神が隠れ住まわれた、と伝えられている場所だ。

ひんやりする、だけでなく気配までが一変するような森を進むと、鳥居と水穴が表れる。写真から想像していたよりも小さい、けれどそれがより神話の真実味を帯びてくる。自然に寄り添うように整備された森を歩いていると、すっと背筋が伸びてくるようだ。

恵利原の水穴(天の岩戸)
名水百選である恵利原の水穴(天の岩戸)。滝行ができるようにもなっている。住所:三重県志摩市磯部町恵利原
恵利原の水穴(天の岩戸)
水源は思ったよりコンパクト。敷地内には御木本幸吉が奉納されたとされる樹が聳え立つ。
恵利原の水穴(天の岩戸)
街の至る所に神様が祀られている。ここは「立石神社」。毎年、五穀豊穣を祈願し、ホラ貝を吹きながら周囲を練り歩く、立神浅間祭が行われている。住所:三重県志摩市阿児町立神2227

阿児(あご)の街で車を走らせていると、海辺の中に立つ鳥居に遭遇。ここは立石神社。浅海には高さ2mと0.6mの夫婦岩(立石)があり、伊勢神宮の外宮である伊雑宮(いざわのみわ)の禊場なのだそう。小さな神社だが、祭りが行われるなど地元の方たちに日々崇められている。

志摩の歴史は古く、伊勢神宮との関わりも少なくない。むしろこちらが起源だという説も。ともかく地域の生活の中にこのような神社と行事が溶け込んでいる。

志摩市は20年と若くても、歴史は古い

志摩市は平成の大合併で5つの町が合わさって誕生。2024年で市政20年となる。市としては新しい。けれど、この土地の歴史は古い。とてつもなく古い。志摩市歴史民俗資料館では1万年以上前、旧石器・縄文時代からの志摩の暮らしを紹介している。

志摩市歴史民俗資料館
磯部町にある志摩市歴史民俗資料館。旧石器・縄文時代からの志摩の暮らしと文化を現在に伝えている。住所:三重県志摩市磯部町迫間878-9
志摩市歴史民俗資料館
カマやノミなど鮑などを取るための海女さんの道具。色や形、実用のための工夫が美しい。
志摩市歴史民俗資料館
英虞湾は世界的に知られた真珠養殖発祥の地。メスなど真珠養殖に関する道具が展示されている。

展示室には古墳の出土品から真珠、海女さんの道具まで、見入ってしまう志摩の文化財がずらり。そして、祭りや行事ごとなどの風習を伝える資料も数多く展示されている。古くから自然と共生してきた地域の暮らしが垣間見えてくるようだ。

 

見どころたくさん、波切(なきり)のまち

志摩市の南東部、波切の岸壁に立つ大王埼灯台。昔から波切は、荒波が打ち寄せる難所であったため、昭和2年にこの白亜の灯台が建設された。周囲は迷路のような入り組んだ路地や港があり、全盛期に比べると少し寂しいようだが、真珠店や干物店などが立ち並んでいる。

そこから歩いて15分ほどの山の上には波切神社がある。家造り、国造りの神様を祀る神社で、アドレスは波切1番地。港からかなり急勾配な山を上がる参道の石造りも歴史を感じさせる。英虞湾の穏やかさとはまた違う、山と海が堪能できる頂上からの景観はいわずもがなだ。

波切神社
波切神社。訪れた日には無病息災を願う茅の輪が。その年の干支の文字が入ったハート形の陶器のお守りが境内に撒かれる催しも。住所:三重県志摩市大王町波切1
波切神社
波切神社の絵馬はなんとアワビの貝殻。毎年9月には海の安全と大漁を祈願し、2m超のわらじが海へ放たれる、わらじ祭りも。
波切神社
波切神社にある祠。波切神社は家造り、国造りの神様を祀る神社。
波切神社
山頂にある波切神社近くの拓けた展望スペース。波切の風景が一望できる。
波切神社
かつて捕鯨が行われていた時代、鯨から出てきた卵形の石も境内に祀られている。
波切神社
波切の岸壁に立つ大王埼灯台。積まれた石の壁がこの地の歴史を感じさせる。
波切神社
波切は絵描きの島でもある。古い看板も個性的。民話に出てくる「だんだらぼっち」が「ほしがってね!」と語りかける。

海と山の魅力を味わえる志摩市。8世紀に編纂された万葉集では、御食国(みけつくに)として朝廷に海産物を納めていたと詠われている。そんな自然の幸を発端とする、志摩ならではの歴史は今も続いている。伊勢参りだけでなく、知られざる志摩参りのツアー、ぜひとも提案したいところだ。

看板
元・真珠養殖場だった場所が民宿やレストランになっている場所も多く、そのアプローチを含め、趣のある景色が楽しめる。
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