【ドラマと史実では別人】『哲仁王后』で描かれた哲宗は「情けない国王」だった?

コミカル時代劇の傑作だった『哲仁王后～俺がクイーン⁉～』は、現代韓国の大統領官邸のシェフが朝鮮王朝時代にタイムスリップして哲仁(チョリン)王后の身体に魂が入り込む、というストーリーだった。このドラマでユニークな存在だったのが、キム・ジョンヒョンの演じる25代王・哲宗(チョルジョン)である。

ドラマと違って史実で、哲宗はどんな国王だったのか。即位したときの経緯を説明しよう。24代王の憲宗（ホンジョン）が1849年に22歳で亡くなったとき、彼には息子がおらず、6親等以内の男子も王族にいなかった。

この緊急事態で暗躍したのが、絶大な権力を握っていた純元（スヌォン）王后(憲宗の祖母）だ。彼女は真っ先に、一族が政治的影響力を維持できる方策を考えた。

その末に捜し出してきたのが、江華島（カンファド）で農業をしていた元範（ウォンボム）という青年だった。彼は、21代王・英祖（ヨンジョ）の4代下の王族だが、祖父や兄が政争に敗れて処罰された影響で、本人も江華島でみじめな自給生活を強いられていた。王族男子に必須の学問をする余裕もなかった。

そんな貧しい青年が、急に国王に指名されて驚愕した。知らせの使者が来たときに、「殺されるのでは?」とおびえたのも無理はなかった。それほど、不安にさいなまれる日々だったのだ。

1849年に元範が哲宗になって最初に要請されたのは、「勉強せよ」ということだった。なにしろ、哲宗はまともに漢字を読めなかったのだから……。

そうであるならば、国王として学識を備えなければならないのに、哲宗は勉強をせず政治を純元王后にまかせ、贅沢三昧に暮らした。そんな国王の治世によって犠牲を強いられたのが庶民だった。凶作が多かったのに、政権側は何の対策も立てなかった。

純元王后が世を去ったあとも、哲宗は自堕落な生活をやめなかった。それがたたって、1863年に32歳で世を去った。『哲仁王后～俺がクイーン⁉～』で哲宗は民衆のための政治を行おうと奮闘するのだが、それはドラマだけの話で、史実の彼はまったく違う人物像だった。

文＝大地康