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ダイヤモンドの雨が降る!?『天王星』ー望遠鏡で発見された 最初の惑星

  • 2024.8.14

天王星は肉眼でかろうじて見える明るさの惑星です。そのせいで、望遠鏡が発明されるまでは惑星として認識されておらず、1781年にウィリアム・ハーシェルによって初めて惑星として確認されました。

そんな天王星は太陽系の惑星の中でもかなり変わり者です。天王星の自転軸の傾斜角は98°、他の惑星でも多少自転軸が傾いているものがありますが、ほぼ横倒しの状態で自転する惑星は天王星だけです。

それでは、太陽系随一の奇妙な惑星の謎に迫ってみましょう。

目次

  • 望遠鏡で発見された最初の惑星
  • 横倒しの惑星
  • ダイヤモンドの雨が降る
  • 天王星にも環があった
  • 天王星の衛星

望遠鏡で発見された最初の惑星

天王星は望遠鏡を使って初めて発見された惑星です。

地球以外の惑星のうち、水星、金星、火星、木星、土星は昔から知られていました。これらの惑星は夜空に明るく光っていて、肉眼でもよく見えます。

天王星の明るさは約6等級なので、かろうじて肉眼で見える程度の明るさしかありません。このような暗い天王星は、どのようにして発見されたのでしょう?

天王星は、1781年にイギリスのアマチュア天文家ウィリアム・ハーシェルによって発見されました。

ハーシェルは、銀河系の構造を解明するために、自作の反射望遠鏡で「掃天観測」に挑戦していました。掃天観測とは、全天にわたって星の分布を詳細に観測することです。

そのときに、普通の恒星と違う動きをする天体を見つけました。この星は他の恒星に対してほんの少しずつ動いていました。

ハーシェルは当初はこの星を彗星だと思っていたようです。おそらくぼんやりとした淡い像に見えたのでしょう。

その後の計算で、ハーシェルの発見した新天体はほぼ円に近い軌道を約84年の周期でめぐる惑星であることが分かりました。

当時の知識では、土星が最も遠い惑星だと考えられていたので、土星の外側をまわる惑星の発見は人々を大いに驚かせました。

天王星の大きさは太陽系の惑星の中で3番目で、直径は地球の4倍です。しかし、太陽から28億7500万Km(太陽‐地球間の約19倍)も離れたところにあるので、地上の望遠鏡ではそれほど大きく見えないのです。

太陽系の惑星の大きさ比較
太陽系の惑星の大きさ比較 / Credit:NASA/Lunar And Planetary Institute

天王星は木星や土星と同じように水素とヘリウムを多く含むガス惑星のため、木星型惑星に分類されています。一方で、内部に岩石を含む氷の大きな中心核があることから、海王星とともに巨大氷惑星に分類されます。

天王星を望遠鏡で見ると、淡い青緑色に見えます。これは、天王星の大気に含まれているメタンが赤い色を吸収するためです。

天王星の大気は主に水素とヘリウムで構成されていますが、数%のメタン(CH4)も含まれています。 このメタンには、可視光の中でも特に赤色の光を強く吸収するという性質があります。

メタンが赤色光を吸収することにより、残った青緑色の光が反射されるので、天王星は淡い青緑色に見えるのです。

同様に、海王星の表面も大気中のメタンが赤色光を吸収することで青色に見えます。一方、木星や土星もメタンを含んでいますが、大気の主成分が水素とヘリウムであり、メタンの割合が少なくアンモニアなど他の化合物の割合が多いため褐色や黄色に見えます。

興味深いことに、天王星の色は公転周期(約84年)に伴って徐々に変化することがわかっています。天王星が夏至や冬至の時期には緑色が強まり、春分や秋分の時期には青色が強まる傾向があるのです。

この色の変化は、天王星の自転軸が公転面に対してほぼ横倒しになっていることと関係があります。自転軸の傾きにより、極地方と赤道付近では受ける太陽光の量が大きく異なり、それが大気の対流や雲の状態に影響を与えていると考えられています。

このように、天王星の淡い青緑色は大気中のメタンによるものですが、その色合いは天王星の公転周期に伴って微妙に変化するのです。

横倒しの惑星

天王星の一番の特徴は横倒しで自転していることです。

天王星の自転軸は公転面から約98度傾いており、ほぼ横倒しの状態になっています。そのため、まるで横向きにごろごろと転がっているように見えます。

横向きの状態で太陽の周りを約84年かけて公転しているため、昼と夜が42年ごとに繰り返されます。天王星の北極と南極では夏と冬がそれぞれ40年以上続くのです。

どうして天王星の自転軸は横倒しになったのでしょうか?

これは最初から横倒しになっていたわけではなさそうです。惑星として形成された当初、天王星は他の惑星と同様に自転軸が公転面にほぼ垂直な状態だったと推測されています。

横倒しになった原因は、天王星の形成初期に大きな星が衝突したためという説が有力です。衝突した天体は、その時の衝撃で破壊されてその一部が天王星の衛星や環になったと考えられています。

2011年に発表された最新のシミュレーションによると、従来考えられていたように天体の衝突は1回ではなく、同じクラスの天体による衝突が2回あったと推察されています。

天王星は多くの衛星を従えており、それらの衛星は天王星の赤道面にそって公転しています。もし、天王星の自転軸が突然傾いたとすると、衛星たちはその影響をうけることはなく北極から南極へと同じように動き続けます。その場合、衛星は赤道面にはいないはずです。

しかし、天王星の自転軸の傾きを引き起こした原因が1回の巨大な衝突ではなかったとしたらどうでしょうか?2回のやや小さな衝撃によって引き起こされた、より緩やかなプロセスだったとすると、衛星の配置が現在の形に近くなります。

ちなみに、地球の自転軸も23.4度傾いています。この傾きは、火星サイズの天体が地球に衝突した結果と考えられており、その衝突によって月が形成されたという説が有力です。

面白いことに、天王星の磁場の軸(磁軸)は自転軸に対して60°傾いており、惑星の中心を通っていません。このことは天王星に接近したボイジャー2号の観測によって明らかになりました。むしろ、磁軸の方が公転軌道に対して垂直に近かったのです。

下の図は天王星の磁場を示しています。黄色の矢印は太陽の方向です。水色の矢印は天王星の磁気軸、濃い青の矢印は天王星の自転軸を示しています。

天王星の磁場は、惑星内部の電気伝導性流体の対流運動によって生み出されていると考えられています。 しかし、その詳細なメカニズムは不明な点が多く、なぜ磁軸が自転軸から大きくずれているのかは未解明です。

太陽の磁場は、その活動周期と同じ約11年周期で逆転する現象が知られています。

木星型惑星の磁場の発生メカニズムも太陽とよく似ているので、木星型惑星の磁場は太陽と同じように逆転する可能性があるという説もあります。この考え方によれば、天王星の磁場は今まさにその逆転が起きつつあるのかもしれません。

天王星は水を含む、メタンやアンモニアなどが凍りついた「巨大氷惑星」です。

ただ表面は凍っていても、その内部は極めて高温高圧な環境にあり、水が金属状態になっていると推測されています。

水が金属になるというのはどういうことでしょうか?

金属と言われてまず頭に浮かぶのは、鉄や銅、アルミニウムなどの物質です。ではこれら金属に共通する性質とはなんでしょうか?

おそらく多くの人は、電気をよく通すとか、表面がピカピカとよく光を反射するなどの性質を思い浮かべると思います。

実は、これら電気を通しやすい性質と光を反射する性質はどちらも原子の結合方法に関係があり、この性質持った結合状態の物質を金属と呼んでいるのです。

つまり水が金属状態というのは、水が圧縮されてこの金属と同じ性質(電気を通し、光を反射する性質)を示す原子の結合状態になっているという意味なのです。

ちなみに、純粋な水は常温常圧では電気を通しません。(水が電気をよく通すというイメージがあるのは水が含む不純物の影響です)

また、光に対しては透明です。しかし岡山大学と大阪大学の研究グループは、超高圧下で水が光を強く反射する状態になることを確認しました。これは金属特有の性質があることが示されました。

このように天王星内部では高圧によって「水が金属状態」になっているため、そこを流れる電流が、天王星が強い磁場を生む原因だと考えられているのです。

ダイヤモンドの雨が降る

天王星の内部は超高圧のため、その高い圧力によってメタンから作られたダイヤモンドの雨が降っているかもしれません。

天王星は「氷の惑星」と呼ばれていますが、実は内部は水素や炭素を含む高密度の液体の「海」になっています。

この液体は数千度の高温かつ地球大気の数百万倍もの超高圧状態にあります。この圧力は、地球の中心部の圧力の約4倍に相当します。

このような極限環境下では、水素と炭素が圧縮されてダイヤモンドになると考えられています。つまり、天王星の内部ではダイヤモンドの「雨」が降っているという仮説があるのです。海の中でできたダイヤモンドは重いので中心部に沈んでいきます。この様子をダイヤモンドの「雨」と表現しています。

この仮説を実証するため、研究者らはX線自由電子レーザーを使って天王星内部の環境を再現する実験を行いました。

この実験では、ポリスチレンというプラスチック材料に高出力のレーザーを照射することで天王星内部の環境を再現しています。ポリスチレンは炭素と水素が鎖状につながってできた物質(炭化水素)です。メタンは天王星内部の高温・高圧下ではこのような鎖状の炭化水素を形成していると考えられています。

レーザーによる衝撃波によって瞬間的に超高圧の状態を実現することができます。

その結果、プラスチック材料の炭素原子同士の結合方法が変化し、ダイヤモンドの結晶構造を形成することが確認されました。

ダイヤモンドの結晶構造 Credit:Anton at German Wikipedia, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

つまり、天王星内部の超高温・超高圧下では、メタン(水素と炭素の化合物)から作られたダイヤモンドの雨が実際に降っている可能性が高いと考えられています。

天王星にも環があった

天王星の環

天王星の環は1977年に、恒星が天王星に隠される現象の観測中に偶然発見されました。

天王星に隠される前後、ほぼ同じように恒星が減光されたことから、環の存在が明らかになったのです。この現象の観測からは5本の環が見つかりました。その後のボイジャー2号やハッブル宇宙望遠鏡の観測により天王星には13本の環があることが分かっています。

天王星の環 Credit:NASA/JPL

天王星の環の特徴

天王星の環は木星や土星の環に比べてはるかに暗く、質量も小さいです。環が暗いのは環を構成する粒子が炭素質の黒っぽい物質で覆われているからだと考えられています。

また、輪と輪の間隔がだいたい1000km以上あるのに対して、輪の幅は非常に細く、最大の輪でも20〜100kmしかないのが特徴です。環の中でも天王星の最も外側にあるε環は非常に細いことが知られています。

ただ環を構成しているのは、氷や岩のかけらなど、砂粒ほどの小さな粒子のため、長い年月の間に互いに衝突を繰り返して環の幅は自然に広がるはずだと予想されました。そのためどうして細いままなのかは研究者にとっても非常に不思議な問題でした。

この謎は1986年のボイジャー2号探査機の観測によって解かれました。

ε環のすぐ外側と内側に、ほぼ同じ大きさの2つの衛星が発見されたのです。シェークスピアの小説の登場人物にちなんでコーデリアとオフェーリアと命名されたこの2つの衛星は、重力作用によってその間にある環の形状を一定に保っていたのです。

これはあたかも羊が群れを離れないよう見張っている牧羊犬に似ていることから、このような衛星を「羊飼い衛星」と呼んでいます。

細い環は、こうした小さな衛星の絶妙なコントロールによって成り立っているのです。

同様の現象は土星のF環でも見られ、両側にパンドラとプロメテウスという2つの羊飼い衛星によって守られています。こうした羊飼い衛星のような役割を果たしている小さな衛星が、まだ他にも多く存在するかもしれません。

環の起源については不明な点が多いものの、天王星の衛星が環の材料源になっている可能性が考えられています。

このように、天王星には細く暗い環が複数存在しており、その形状維持には小さな衛星が関与していると考えられています。今後の探査機による直接観測で、さらに詳細が明らかになることが期待されています

天王星の衛星

天王星には2024年2月現在、28個の衛星が確認されています。

天王星の衛星は13個の内衛星、5個の主要な大型衛星、そして10個の不規則衛星の3つのグループに分けることがでできます。

内衛星

すべての内衛星は、天王星の環と密接に関係しています。

天王星の環はおそらく1つまたは複数の小さな内衛星の破片から構成されていると考えられます。最も内側の2つの衛星コーデリアとオフェーリアはε環の羊飼い衛星です。

小さな衛星マブは最も外側のμ環にその材料を供給していると推測されます。

主要な大型衛星

天王星の主な衛星 Credit:NASA/JPL-Caltech

主要な大型衛星は以下の5つです。
アリエル
ウンブリエル
タイタニア (天王星最大の衛星、直径1,578km)
オベロン
ミランダ

これらの主要5衛星は、天王星の自転軸がほぼ横倒しになっていることから、天王星の公転面に対してほぼ垂直な軌道を回っています。

不規則衛星

内惑星や主要5衛星の軌道は円に近く、ほぼ同一平面上にあります。

これに対して細長い楕円軌道や傾いた軌道を持つ衛星、天王星の自転とは逆向きに公転している衛星を不規則衛星と呼びます。これらの衛星は天王星とは離れた場所で形成された天体が天王星の重力にとらえられ衛星となったものと考えられています。

これらの衛星の名前は、シェイクスピアやアレキサンダー・ポープの作品に登場する人物の名前が付けられています。

衛星の組成は主に氷と岩石が混じったものと考えられていますが、天王星の衛星の総質量は天王星の質量の0.01%とかなり小さいことが特徴的です。 この点については、天王星の形成過程で巨大天体との衝突があり、その際に生じた円盤から衛星ができたことが理由の一つとして考えられています。

天王星の探査計画

天王星を探査機が訪れたのは、1986年に惑星探査機ボイジャー2号が接近したときの1回だけです。私たちはこの奇妙な惑星についてあまり多くを知りません。

Artist’s concept of Voyager in flight. Credit:NASA/JPL

しかし、そんな状況が変わるかもしれません。

NASAの新しい10年計画「Origins, Worlds, and Life」では、天王星の探査ミッションが最優先プロジェクトとして提案されているからです。

提案されているミッションは「ウラヌス・オービター・プローブ」と呼ばれ、天王星の大気に突入する探査機と、天王星の周回軌道に投入される探査機の2機で構成されます。

天王星本体については内部構造、磁場、大気組成、環の調査などが計画されています。

また、28の衛星の観測・調査も重要な目的です。特に海が存在する可能性が指摘されているミランダ、アリエル、オベロン、ティタニア、ウンブリエルの5つの衛星が重点的な観測対象とされています。

天王星探査は長年の懸案事項でしたが、今回の10年計画で最優先事項に位置づけられ、2030年代の実現が期待されています。

液体の海があり、生命の可能性がある衛星としては、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンセラダスが知られていますが、天王星の衛星にもそのような衛星があるかもしれません。これからの探査ミッションに期待したいですね。

参考文献

惑星のきほん
https://www.amazon.co.jp/dp/4416617496

惑星科学入門
https://www.amazon.co.jp/dp/406159222X

シリーズ現代の天文学[第2版] 太陽系と惑星
https://www.amazon.co.jp/dp/B09FSPG3BY

ライター

浅山かつのり: 屋号:創造情報研究所。大学で物理学を専攻し、課外活動では天文研究会の会長を務めました。現在はITエンジニアとして働きながら、サイエンスライターとしても活動しています。歴史にも興味があり、史跡めぐりや歴史関係の本を読むのも好きです。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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