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告白はスーツに花束が常識? 笑いと愛に溢れたカップルの、愉快な物語【私たちのパートナーシップ Vol.4・前編】

  • 2024.8.13
Jaryd(左)とBunta(右)。
Jaryd(左)とBunta(右)。

パートナーシップにおいて、大なり小なり何かしらの悩みや不安を抱えている人は少なくはない。私たちはときに価値観のずれに悩んだり、伝統的な家族観や固定観念に囚われたり、ちいさなボタンのかけ違いによって大切なものを見失ってしまうなどして、自由で豊かなパートナーシップの本質がわからなくなってしまうときがある。こうした中、さまざまなかたちのパートナーシップを営む人々の等身大の物語は、肩に入った力を抜き、前を向いて歩むヒントとなるはず。

本連載に登場する4組目は、笑いと愛に溢れたカップルのBuntaとJaryd。二人は今年婚約し、Jarydの故郷ニュージーランドで結婚する。前編は、プロポーズ級の告白シチュエーションや、なんでもオープンに話せる関係性の育み方など。そして後編は、結婚したいと思ったきっかけから、日本に暮らす中で人権について今改めて思うことまで。

クローゼットへの逆戻りと、セクシュアリティの解放と

VOGUE(以下、V)まず初めに、お二人のそれぞれのバックグラウンドについて、少しご紹介いただけると嬉しいです。

Jaryd 私はニュージーランド出身で、コロナ禍の2020年11月に日本に引っ越してきました。日本語と出会ったのは高校生のときで、学校でフランス語を習おうと思っていたら、スペイン語と日本語の選択肢しか授業になかったんです(笑)。でも、日本語を学び始めたら、毎年学年トップの成績で! 大学で何を学ぼうか悩んでいたときに、当時の担任の先生から「あなたは日本語が得意なのだから、それを生かしたら良いじゃない」と言われ、日本語と国際関係を学びました。でも、卒業後は全く日本語を使わない日々で、なんで私は日本に住んでいないんだろうと悶々としていました。そんな中コロナ禍になり、「よし!ずっとやりたいと思っていたことに挑戦してみよう」と決意し、移住しました。

Bunta 私はPRや広報の仕事をしており、最近ファッションからジュエリーのブランドへキャリアチェンジをしました。出身は山口県なのですが、大学卒業後に東京に出てきたときは、正直LGBTQ+の当事者としてこんなに生きやすい世の中があるんだ! と良い意味でのカルチャーショックを受けました。きっと、周りにそういう人がいないと気付けないこともあると思い、前職ではインクルージョン&ダイバーシティに関するイベントで登壇するなどし、機会があれば今後も積極的に発信していきたいと思っています。

V ポジティブなカルチャーショックとは、具体的にどんな経験だったのでしょうか。

Bunta 高校生のときは、なんとなく自分がゲイだと気づいていたけど、周りには言えませんでした。友人との距離がどれだけ近くても、変な誤解を与えては自分も居づらくなるのではないかと思い、気を遣っていました。特にハッとしたのが、高校時代の部活仲間と話していたとき。ふと「ゲイって本当にいるのかな?」という話題になり、周囲のリアクションが「いたら気持ちが悪いよね」という感じで……心のシャッターが降りたのを覚えています。

それから、いろんな人がいる都会へ漠然とした期待を抱くようになり、大学卒業後に上京しました。そしたら職場環境に恵まれ、バリアが全くなく、入社後すぐにゲイであることを話せました。すると同僚も、「パートナーいるの?」「デートしてる人いるの?」とズカズカ聞いてきて(笑)。ありのままの自分でいられて、一つのパーソナリティの一部としてみんなに受け入れてもらえたのが衝撃でした。それに、婚約したときは同僚が祝福してくれてとても嬉しかったです。

Jaryd 結婚おめでとうのバナーだけじゃなく、「妻」の部分に二重線を引いて「夫」と書き換えた婚姻届まで準備してくれていたよね。すごく愉快で素敵でした。

V Jarydさんは日本に引っ越してきて、驚いたことなどはありましたか?

Jaryd 最初は私立の男子校で英語の先生として働いて、私の場合は職場で自分のセクシュアリティをオープンにすることができず、Buntaとは逆のカルチャーショックを受けました。ニュージーランドでは、同性婚が法制化されており、オープンでいられることが当たり前です。しかし、日本の学校では生徒間にホモフォビアがあり、その話題を口にするのは避けるべきだと感じていました。職場は一日の大半を過ごす場所なので、その状況は居心地の良いものではなく、まるで「クローゼット」(性的指向を公表していない状態を指す比喩表現)に戻るような、不思議な体験でした。

ですが一年ほど前に、ライブエンターテインメントを提供する会社に転職しました。もう自分のことを隠しながら過ごしたくないと思い、転職活動の面接では「彼氏」という言葉をあえて使うようにしていました。やはりセクシュアリティは、自分を形作る大切な部分でもありますから。

“告白”は日本のカルチャー? 笑いありの本格派告白

V お二人の出会いは?

Jaryd アプリです。コロナ禍だったので、ニュージーランドから日本に来たときには2週間の隔離期間を過ごさなければならず、ものすごく暇で。なので何かできることはないかと思い、隔離明けに誰か会える人がいたら良いなという期待も込めて登録しました。そしたらBuntaとマッチし、それから楽しいやりとりが始まりました。翌年の1月に初めて直接会い、まさに意気投合した感じ。

V お互いの第一印象は?

Bunta 僕は、Jarydはチャーミングな人だと思いました。愛嬌があり、音楽の趣味も似ていて、なんか居心地が良さそうだなと。

Jaryd Buntaは本当に優しくて面白く、恥ずかしがり屋で。どう言ったらいいか分からないけど、ただただ本当に素敵でした。そのシャイな一面も魅力で、Buntaのことをどんどん知りたくなりました。最初のころは、お互いに付き合うことは考えていなかったのですが、何回か一緒に過ごすうちに、もっと同じ時間を共有したいという新たな感情が芽生えてきました。

Bunta 付き合った日のこと、いつ思い出してもすごく笑える! デートし始めてから2カ月くらいが経ったある日、Jarydの家に行ったら、彼がスーツを着てネクタイしめて、花とキャンドルをセットして夕ご飯を作ってくれていて……。なんだこのプロポーズみたいなシチュエーションは! って(笑)。実は僕の友人がJarydに、「日本ではちゃんと“告白”をするんだよ」と言っていたのを真に受けて、プロポーズみたいな形式で「付き合ってください」と。

Jaryd 本当に恥ずかしい! ニュージーランドでは告白をしてお付き合いが始まるというより、自然と発展する感じで。でも日本のスタイルがあるならそうしようと、「あなたのことが好きです。僕と付き合ってくれませんか」と伝えました。

Bunta 週に一回以上デートしてたし、本当に居心地いいし付き合うのもアリかも知れないと考えていたので、素直に嬉しかったし、可愛いって思いました。シチュエーションは漫画みたいですごく面白かったけど(笑)。正装して、バラを持って……感動よりも面白さでずっと笑っていたよね。

Jaryd Buntaと一緒にいて素晴らしいことの一つは、こうしていつもたくさん笑い合いながら楽しく過ごしていることだと思う!

物件探しの苦悩と、温かいコミュニティとの出会い

V すぐ一緒に暮らし始めたのですか?

Bunta 付き合って半年後くらいに、Jarydの家に僕が引っ越したんですが、しばらくしたらベッドルームの真上からものすごい雨漏りし始めて、住めなくなっちゃって。

Jaryd それから新しい物件を探し始めました。でもそれがすごく困難で、「なぜ一緒に暮らすのですか?」「あなたたちは友達ですか、それともホモダチですか?」とか言われることもしばしば。それで正直に説明すると、ダメになるパターンが続きました。

Bunta 断られた理由が、外国人だからか、LGBTQ+だからかは定かではないです。でも、最初から曝け出して不動産屋さんにお願いしないといけないと思いました。

Jaryd なのでそれからは完全にオープンでいることを決意し、「私たちはゲイのカップルで、私は外国人で彼は日本人です。こんな条件の物件を探しています」と不動産屋さんに話しました。すると、まだ未公開だった物件を一つ紹介してもらい、念のためオーナーさんにも同性であることが問題ないか確認してもらったところ、「何が問題なの?」と快く受け入れてくれました。それから見に行き、即決しました。

セクシュアリティの部分をクリアして物件を契約できたのだから、この地域では何も隠すことなく堂々と自分たちらしくいようと思いました。その結果、ここ大岡山の地域コミュニティは最高で、誰もが親切で、2年間のうちにたくさんの友人ができました。私たちが婚約した際には、地域の人たちがパーティーまで開いてくれました。

Bunta 東京はご近所付き合いはあまりないと思っていたけど、ここには小さなコミュニティがあり、それが支えになりました。商店街を歩けば毎日友達とすれ違い、安心する場所に引っ越してこれてよかった。

勘違いは水に流そう! 喧嘩にならない関係性

V 同棲していて、喧嘩することはありますか?

Jaryd ないですね。長く一緒にいると、何かしらイラッとすることはあるかもしれません。でも私たちの場合、そんな状況になったら結構すぐに話し合います。たいがいお互いに勘違いしていることが多く、そういう意味で言ったわけではないことがわかったら解決します。「じゃあ、水に流そう」ってよく言うよね。

Bunta 僕は英語が母語ではないので、解釈が間違っているときがあります。ちゃんと理解したら揉める理由がありません。

Jaryd 国際カップルの関係性において、私が良い点だと思うのは、お互いに疑いの余地を持たないことです。もし誤解が生じたとしても、それが意図的なものだとは思わないし、ただうまく伝わらなかっただけだって素直に納得できる。

V お互いが話しやすい理由はなんだと思いますか。

Bunta 共同生活に慣れていなかったころ、実は言い出せずに苦しかったことがあって……。部屋が狭くて自分のスペースがなくなったことや、一人で自由に使っていた時間の流れが変わったことなどに葛藤を抱えていました。そしてある日、勇気を振り絞って「一緒に住むのは無理かも」と伝えたら、Jarydの反応が自分が想定していたものと違って。怒られたり、別れたいのかと問われたりするのかと思いきや、「どうしてそんなに苦しむまで黙っていたの」とすごく寂しそうに言われて。その反応があってから、溜め込まずになんでも話せるようになりました。

Jaryd 私は気持ちをなんでもストレートに伝える家庭環境で育ったのも、ベースにあるのかもしれません。一日に何度「愛してる」ということか。

Photos: Daiki Tateyama, courtesy of Bunta & Jaryd Text&Interview: Mina Oba Editor: Mayumi Numao

>>後編は8月14日公開予定!

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