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岡田将生とのぎこちないキスに大興奮…一方、うやむやで終わった問題も? NHK朝ドラ『虎に翼』解説&感想レビュー

  • 2024.8.11
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

伊藤沙莉主演のNHK朝ドラ『虎に翼』。本作は、昭和初期の男尊女卑に真っ向から立ち向かい、日本初の女性弁護士、そして判事になった人物の情熱あふれる姿を描く。「悪女の賢者ぶり?」と題した第19週では、もどかしい関係を続けていた寅子と航一(岡田将生)が遂に結ばれた。【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:あまのさき】
アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。

連続テレビ小説『虎に翼』第19週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

「悪女の賢者ぶり?」と題された19週は、美佐江(片岡凛)の心の闇の一端に触れたり、花江(森田望智)の来訪があったりしながら、寅子(伊藤沙莉)の恋心のようなものに焦点が当てられた。

総力戦研究所にいたことを告白した航一(岡田将生)。大きく取り乱していたものの、寅子が寄り添っていたことも手伝って、落ち着きを取り戻す。ところが今度は入倉(岡部ひろき)が大号泣。

航一のことを「つまらなくて退屈な人」、寅子のことを「小うるさいクソババア」と思っていた自分は、人を見る目がないと、聞いてもいないことを言いはじめる。本人にとっては誠意を表したつもりかもしれないけれど、重たい告白のあとの、ちょっとした弛緩に心を救われる。

これに対し寅子は、自分も入倉のことを「差別主義者のクソ小僧」と思っていたと伝える。無意識の皮肉に、意識の皮肉を返す。ちょっとだけ入倉の表情も変わっていた気がした。

でも、このやりとりが、ブーメランのように寅子に返ってくる。

連続テレビ小説『虎に翼』第19週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

新潟市内で発生した売春事件に関わっているとして、美佐江が補導された。しかも、一緒に補導された美佐江の同級生2人は事実を認めているという。その2人の手首にも、もちろん美佐江手製のものと思われる赤い腕飾りが。

当然、寅子は美佐江がこの件に無関係とは考えない。疑いが晴れて、三条支部に寅子を尋ねてきた美佐江に「本当のことを話してほしい」と迫る。美佐江は、表情を変えないまま、悪の定義がわからないと話しはじめた。「どうして悪い人からものを盗んじゃいけないのか」「どうして人を殺しちゃいけないのか」…。

もはや倫理としてわたしたちの身体に沁みついていて、あえて言語化するのが難しいこと。美佐江はそれについて考え続けている様子。美佐江が新潟近辺で起こる少年少女の事件に関わっていたとして、その理由はむしゃくしゃしたから悪いことをしたかったとか、自分の言うことを聞く人たちが面白かったとかではないらしい。

得体の知れない怖さが、寅子を襲ったのだと思う。そこへ訪ねてきた優未(竹澤咲子)を、美佐江から守るみたいに、寅子はギュッと抱き締めた。美佐江に関わってほしくないという親心。でも、何か罪に問われているわけではない美佐江に対してするには、決めつけが強い行動だった。

傷付いたように見える美佐江。美佐江には悪の定義がないのだから、寅子の反応は意味がわからず、ショックだったに違いない。ただ、賢い美佐江のこと。そういう表情をすることで、寅子を惑わすことができるという意図があった可能性も大いにある。

美佐江についての問題はやや宙ぶらりんのままで幕引きとなった。正義とか悪のない虚無の空間にいる美佐江の心が、癒やされる場面が描かれるといいのだけれど。

連続テレビ小説『虎に翼』第19週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

美佐江を前にして咄嗟にとってしまった行動に思い悩む寅子。だが、これをきっかけに航一との距離が近づく。

こういうときのお母さんと一緒にいてもつまらないから、と稲(田中真弓)と映画を観に行く優未。定期的に映画を観に行っているらしい優未は、どこか大人びていて寅子のことも客観視しているみたいなのが面白い。幼少期に、花江やはる(石田ゆり子)と過ごす時間が多かったことも起因しているのかもしれない。

寅子が家に1人きりでいると、読むべき資料が溜まっているから、と航一が訪ねてくる。一つ屋根の下にいながらなにも話さず、別々の行動をしている2人はまるで夫婦のよう。

寅子も、きっと航一も、この空気に癒やされている。だけど、寅子の心の中には優三(仲野太賀)もいる。名前の付けられない感情(世の中の多くはおそらく恋と呼ぶもの)と理性が、寅子のなかでせめぎ合う。両想いといえるほどの甘い感じはないけれど、観ているともどかしさを感じる展開。

連続テレビ小説『虎に翼』第19週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

背中を押してくれたのは、やっぱり優三だった。

優未から、寅子に好い人がいるのに自分のせいで思い切れずにいる、といった内容の手紙をもらって、新潟までやって来た花江。久しぶりに“実物”の花江が登場したことで、ぱっと場が華やぐようだった。なるようになるわと言わんばかりのあっけらかんとした頼もしさが、花江にはある。改めていいキャラクターだ。

花江の来訪に喜び、稲が酔い潰れてしまったあとに、優未がお守りの中に優三からの手紙が入っていることを寅子に伝える。戦地へ行く優三に持たせた、寅子手作りのあのお守り。

手紙には、「心から恋して愛する人を見つけてください」「その人のもとに飛んで行ってほしい」と、優しい文字で書かれていた。寅子と優未を残してしまうことを案じての言葉。どこまでも寅子想いの優三らしい言葉だった。

連続テレビ小説『虎に翼』第19週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

この言葉を受けて、友情結婚すると聞いて、最初は苦言を呈した高瀬(望月歩)と小野(堺小春)の結婚にも、「好きにするといい」と寅子。きっと、優三と形ばかりの結婚をしたことで優三に対し負い目を感じた過去や、子どもを持ち仕事から逃げ出した出来事なんかが過っての苦言だったのだろう。割り切ってはじめたものでも、思うようにはいかないよ、と。

でも、結局寅子も次第に優三を愛し、ずっと優三の大きな愛に守られてきた。いろいろあったけど、収まるところに収まった。手紙を読んだことで改めて実感し、自分の発言を撤回したいと思ったのだろう。

そして、大雨で帰れなくなった本庁勤務の日。航一と2人きりになった寅子は、自分は優三を愛していて、これからも愛し続けたいことを唐突に告白する。あまりにも急でちょっと面食らうけれど、航一は特に驚いた風もなく、このままでいましょう、とまるっと引き受ける。意志が通じ合っている2人。

ところが、雨が止んだ帰り道、ひょんなことから手を取り合うことになった2人は、「永遠ではない、不真面目でだらしのない愛」を誓う。きっちりしていることが板についていただけに、雨で濡れた床で滑って転ぶという日常から逸脱した行為が「永遠ではない=不真面目な愛」という言葉を引き出したかのよう。

ぎこちないキスを交わし、腕を組んで歩いていく。裁判所の狭く暗い廊下が、一瞬だけバージンロードになったみたいだった。

(文・あまのさき)

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