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【快挙!】海の宝石「アオウミウシ」を卵〜成体まで育てることに世界で初成功!

  • 2024.8.9

”海の宝石”の一生が明らかになったようです。

筑波大学はこのほど、アオウミウシを実験室内で卵〜成体まで育て上げることに世界で初めて成功したと報告しました。

それによりアオウミウシの成長過程を9つのステージに分類することができたとのこと。

この分類をもとに今後はアオウミウシを観察するだけで、どのライフサイクルにあるかを判定できると期待されています。

研究の詳細は2024年7月21日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。

目次

  • アオウミウシを「卵〜成体」まで育て上げた例はない
  • 飼育成功によりライフサイクルの全貌が明らかに!

アオウミウシを「卵〜成体」まで育て上げた例はない

ウミウシ類は軟体動物の巻貝のうち、海産で貝殻が退化したグループの仲間です。

その中でも、イロウミウシ科に属するウミウシたちは色鮮やかな体色を持つことが特徴で、今のところ世界に16属398種が知られています。

イロウミウシ科の一種である「アオウミウシ」は日本で最も有名なウミウシの一つであり、北海道〜九州にかけた沿岸域に生息しています。

鮮やかな青色のボディに黄色の模様や赤色の触覚が美しく、まさに”海の宝石”と呼べるようなウミウシです。

アオウミウシ
アオウミウシ / Credit: commons.wikimedia

大人は岩礁などを這って生活し、海綿動物を餌にしていますが、卵から生まれたばかりの赤ちゃんは海中を漂いながら、植物プランクトンを食べて成長します。

その後、成長過程で岩礁や海底の上に着底し、見た目を変態させて、浮遊生活から底生生活へと移行していきます。

その一方で、赤ちゃんや子供時代は体が小さすぎるあまり、大人になるまでの成長過程を野生下で観察することはほぼ不可能です。

また反対に、餌となる海面動物の種の特定や採集・維持も簡単でないため、室内で飼育するのも難しく、これまでイロウミウシ科を卵〜成体になるまで飼育環境で育て上げた成功例はありませんでした。

しかし研究チームは今回、アオウミウシの一生のライフサイクルやそれに伴う体の変態を明らかにすべく、室内での飼育実験を試みました。

飼育成功によりライフサイクルの全貌が明らかに!

チームはまず、野外での観察と飼育下での食事行動の記録によって、アオウミウシの成体の餌となる海綿動物を特定しました。

次に、この海綿動物を用いてアオウミウシを飼育したところ、複数の卵が塊状になっている「卵塊」を得ることに成功しています。

産卵から約6日後、1つの卵塊から数千匹以上のアオウミウシの幼生(体長わずか0.1ミリ)がふ化しました。

左:アオウミウシの産卵、右:ふ化した幼生たち
左:アオウミウシの産卵、右:ふ化した幼生たち / Credit: 筑波大学 – アオウミウシを卵から成体まで育てることに世界で初めて成功(2024)

これらの幼生を飼育容器の中で微細藻類を与え続けたところ、約3週間ほどで「眼点」の形成が確認されています。

さらにこの段階で、成体の餌である海綿動物と同じ容器に入れると、幼生は浮遊生活をやめて底生生活に移行し、それまで持っていた小さな殻を脱ぎ捨てるなどの「変態」を始めたのです。

こうして「幼若体(ようじゃくたい)」となったアオウミウシは、大人と同じ海綿動物を食べながらスクスクと成長。

この過程で、おなじみの青や黄色からなる鮮やかな体色模様を完成させ、触覚やエラ、肛門といった主要な器官を形成させました。

9つのステージに分けられる!

チームはこうした外見上の変態にもとづいて、アオウミウシのライフステージを9つに分類できることを突き止めました。

まず変態期として、浮遊〜底生に移行して貝殻を脱ぎ捨てる「M1」と、触覚の形成が始まる「M2」があります。

その後、幼若体は体色や器官の形成に応じて、J1〜J7に分類されました。

J1では触覚を動かせるようになり、海綿動物を食べるときに用いる「骨針(こっしん)」が形成されました。

左上:眼点ができた幼生、右上:骨針の形成(J1)、左下:外套膜腺の形成(J5)、右下:海綿動物を食べる個体(J5)
左上:眼点ができた幼生、右上:骨針の形成(J1)、左下:外套膜腺の形成(J5)、右下:海綿動物を食べる個体(J5) / Credit: 筑波大学 – アオウミウシを卵から成体まで育てることに世界で初めて成功(2024)

J2では外敵から身を守るための化学物質を貯蔵する組織「外套膜腺(MDF)」が体の後ろの方に誕生。

J3では青色と黄色の色素沈着が体に起こり、J4では体の背側後方に肛門突起が形成され、その中心に成体の肛門が形成されました。

J5では「外套膜腺(MDF)」が体の前方にも現れ、J6では触角が真ん中が少し膨らんだ紡錘形になり、J7では黄色の斑点が出現。

こうした9つのライフステージを経て、アオウミウシは完全なる成体となっていたのです。

その6カ月後には交尾と産卵が確認され、再び新たな命のサイクルが始まっています。

以上のように、アオウミウシを卵〜成体にかけて飼育下で育て上げた例は世界では初めてとのことです。

この貴重な成果により、今後はアオウミウシを外見から観察するだけで、9つのライフステージのどの段階にあるかが特定できると期待されています。

アオウミウシでは従来、幼生や幼若体、成体の適切な飼育条件が不明でしたが、今回の知見は各ステージにおける飼育方法の確立にも大いに役立つでしょう。

また同じ知見はアオウミウシが属するイロウミウシ科の他の種にも応用可能と考えられています。

これらは研究用の飼育のみならず、水族館展示などの商業利用にも貢献できるとのことです。

参考文献

アオウミウシを卵から成体まで育てることに世界で初めて成功
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/biology-environment/20240805140000.html

元論文

Staging of post-settlement growth in the nudibranch Hypselodoris festiva
https://doi.org/10.1038/s41598-024-66322-4

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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