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有酸素運動をすると筋肉が落ちるという俗説の真実に迫る

  • 2024.8.9
有酸素運動で使った筋肉は減らない
有酸素運動で使った筋肉は減らない / Credit: Canva

「有酸素運動をすると筋肉が落ちる」

トレーニング界隈でよく話題になる俗説です。

この俗説を信じると、筋トレをメインにしたい人は有酸素運動をしない方がいいかのような印象を受けます。しかし実際のところどうなのでしょうか?

この俗説の真実に迫った研究結果が、カナダのクイーンズ大学(Queen’s University)らに所属する研究グループから発表されました。

その研究によると、確かにウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は、一部の筋肉量を減らしていたようですが、それがそのまま俗説の支持には繋がらないようです。

本記事では、筋トレ愛好家が有酸素運動に抱いているイメージの真実を含めて、トレーニング界隈の俗説の真実に迫ります。

なお、今回の研究結果は、学術雑誌『Medicine & Science in Sports & Exercise』の2024年5月号に掲載されています。

目次

  • 有酸素運動にまつわる俗説
  • 有酸素運動で使われた筋肉は維持される
  • 筋トレと有酸素運動を同時にしても筋肉は増える

有酸素運動にまつわる俗説

健康のための運動として、筋トレと有酸素運動は代表的なエクササイズですが、当然ながらそれぞれの運動は目的が異なります。

筋トレ:筋肉量を増やす、筋力を高める
有酸素運動:持久力を高める、体脂肪を減らす

大抵の人は、多かれ少なかれ筋力も高めたいし、脂肪も減らしたい、持久力も付けたいと考えるので、この2つのエクササイズを自分の目的に応じてバランスよく取り入れて、どちらも実施しようとします。

ただトレーニング界隈には、有酸素運動には筋肉が落ちるという俗説があります。

仮にこの俗説が真実の場合、筋トレをメインに据えてトレーニングしたい人たちは、有酸素運動をしない方が良いということになります。

そのため、筋トレ愛好家の中には筋トレを頑張っても有酸素運動をすると筋肉が増えなかったり、落ちたりするのでは? と懸念する人もいます

ではなぜこのような俗説があるのでしょうか?

有酸素運動を行うと脂肪が燃焼されると言われますが、これは有酸素運動によってエネルギーの需要が増えるためです。

安静時とは異なり、運動時には体が多くのエネルギーを必要とします。そのため、体は脂肪をたくさん分解してエネルギーを供給するように指示を出します。これが、有酸素運動による脂肪燃焼の仕組みです。

しかしこのとき体は脂肪だけでなく、筋肉の分解(カタボリック現象)も同時に行ってエネルギー源に当てようとします。

そのため有酸素運動をすると筋肉が減るのではないか? という懸念が生じるのです。

筋トレ愛好家の中には有酸素をすると筋トレをしても筋肉が増えなかったり、減ったりすることを心配している者がいる
筋トレ愛好家の中には有酸素をすると筋トレをしても筋肉が増えなかったり、減ったりすることを心配している者がいる / Credit:写真AC

ただ、こうした懸念はあれど、実際に有酸素運動で筋肉量がどの程度失われるのかという具体的なデータは不足しています。

今回発表された研究は、この疑問に答えるべく肥満者を対象として行われた4つの実験データを合わせて分析することで、有酸素運動で筋肉が落ちるという俗説の真実に迫ったものです。

研究では、肥満の人たちがウォーキングもしくはジョギングの有酸素運動に3~6カ月取り組んだ際の筋肉量の変化をMRI(核磁気共鳴画像法)で分析しています。

なお、参加者は、栄養士から有酸素運動をしない場合に体重の増減が起きない食事量になるように指導を受けました。したがって、実験中に体重が減った場合、有酸素運動によって消費カロリーが増えたことが主な理由になります。

果たしてどんな結果になったのでしょうか?

有酸素運動で使われた筋肉は維持される

合計175人の男女が週4~5回(1回30分程度)の頻度で3~6カ月間にわたり、ウォーキングやランニングに励んだ結果、全身の筋肉量が平均0.5kg減っていました。

ただし、減った部位に特徴があり、ウォーキングやジョギングであまり使われない上半身の筋肉量が減った(12.7kg→12.2kg)のに対し、使われた脚の筋肉量は全く減りませんでした(13.5kg→13.5kg)。

この結果は、有酸素運動で直接使われた筋肉は維持できることを意味しており、有酸素運動をすると筋肉が分解されてしまうため、筋肉が減るという俗説を一部否定しています。

研究グループは、有酸素運動で直接使われた部位の筋肉量が維持される理由について、有酸素運動が筋肉の毛細血管化を促進したことで、インスリンやアミノ酸が筋肉に行き届きやすくなり、筋タンパク質分解が抑制されたためだろうと述べています。

また、この研究では、全身の体脂肪量の測定結果も報告されており、その数値を見ると、平均4kgも減少していました。

この数値は、全身の筋肉量の減少(0.5kg)に比べると大きなもので、引き締まった健康的な体型に近づいたと見ることができます。

筋肉量が増えなくても、体脂肪が減れば引き締まった体(筋肉質)に近づく
筋肉量が増えなくても、体脂肪が減れば引き締まった体(筋肉質)に近づく / Credit: 写真AC

ただ、今回の研究は肥満者を対象にしています。

有酸素運動で懸念されているのは、体がエネルギー不足になったとき脂肪の代わりに筋肉が分解されエネルギー源に当てられてしまうという点です。

そのため、肥満者は分解する脂肪が多いので問題ないかもしれませんが、脂肪をしっかり落とした人の場合は、有酸素運動で筋肉が分解される恐れが高まったりはしないのでしょうか?

筋トレ愛好家の場合、有酸素運動をして筋肉が落ちる心配はないのでしょうか?

筋トレと有酸素運動を同時にしても筋肉は増える

有酸素運動をすると筋トレを頑張っても筋肉が増えなかったり、落ちたりすることを懸念している人に対して一定の答えを与える研究としては、2022年にドイツ・ケルン体育大学のシューマン教授らの研究グループが発表したメタ分析があります。

結果を見ると、389人(筋トレのみを行った188人と、筋トレと有酸素運動を行った201人)のデータを分析したところ、有酸素運動をしても筋トレによる筋肥大効果(筋肉が大きくなる効果)が失われないことが明らかになっています。

また、興味深いことに、この結果は、トレーニングの頻度やトレーニング歴(初心者、経験者)、トレーニングのタイミング(同じ日に実施するのか、別の日に実施するのか)別にみても変わりませんでした。

つまり、筋トレ愛好家であっても、有酸素運動をすると筋肉が増えなかったり、落ちたりすることを心配する必要はないのです。

筋トレ愛好家は筋肉が落ちる心配をせずに有酸素運動を楽しめる
筋トレ愛好家は筋肉が落ちる心配をせずに有酸素運動を楽しめる / Credit: Canva

また別の実験結果では、参加者が体重を維持できる十分なカロリーを摂取しつつ有酸素運動を行った結果、有酸素運動で筋肉のサイズが増えたという報告もあります。

そのため有酸素運動だけでも筋肉が落ち続けてしまうという恐れはないようです。

もちろん、極端なカロリー制限と大量の有酸素運動を組み合わせ、運動で消費したエネルギーを補給しないという極端なケースを取った場合は、有酸素運動によって筋肉が減る可能性はあるでしょう。

しかし、そういった特殊な例を除けば、有酸素運動で筋肉が落ちるとか、有酸素運動をすると筋トレをしても筋肉が増えないことを恐れる必要はないのです。

最初に述べたとおり、有酸素運動は持久力を高めることができる上、健康効果も期待できるエクササイズです。

実際、世界保健機関(WHO)も週2回の筋トレとは別に、週150~300分の有酸素運動(強度が高い場合には、週75~150分でも可)を最低限取り入れることを推奨しています。

ウォーキング、ジョギング、サイクリング、スイミングなど、有酸素運動を取り入れることで、誰もが筋肉が落ちる恐れを抱く必要なく、体力の向上や理想の体を目指すことができるのです。

参考文献

A New Study Says Aerobic Exercise Can Help You Maintain Muscle
https://www.msn.com/en-us/health/other/a-new-study-says-aerobic-exercise-can-help-you-maintain-muscle/ar-BB1n09gE

WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour
https://www.who.int/publications/i/item/9789240015128

元論文

Does Aerobic Exercise Increase Skeletal Muscle Mass in Female and Male Adults?
https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000003375

Compatibility of Concurrent Aerobic and Strength Training for Skeletal Muscle Size and Function: An Updated Systematic Review and Meta-Analysis
https://doi.org/10.1007/s40279-021-01587-7

ライター

髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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