1. トップ
  2. 恋愛
  3. 選択は他人にゆだねず、自分の幸せのために。運命的に受け渡される命の意味 『海のはじまり』6話

選択は他人にゆだねず、自分の幸せのために。運命的に受け渡される命の意味 『海のはじまり』6話

  • 2024.8.8

目黒蓮演じる月岡夏が、大学時代の恋人・南雲水季(古川琴音)の葬儀の場で、彼女の娘・南雲海(泉谷星奈)に出会う。人はいつどのように父となり、母となるのか。生方美久脚本・村瀬健プロデューサーの『silent』チームが新しく送り出す月9ドラマ『海のはじまり』(フジ系)は、親子や家族の結びつきを通して描かれる愛の物語だ。第6話、水季と百瀬弥生(有村架純)の知られざる繋がりが明らかになる。

ノートにつづられた弥生の言葉

妊娠した水季が、夏から人工中絶同意書へのサインをもらい、産婦人科まで行っておきながら、ギリギリのところで「やっぱり出産する」と決めた理由。気まぐれで、自由で、他者から影響を受けないマイペースな彼女のイメージが、緩やかに塗り替えられたシーンが、6話にあった。

水季が訪れた産婦人科には、意見や感想を自由に書くことのできるノートが置いてあった。水季は自然と、そのノートに吸い寄せられるようにページをめくる。

そこには、無事に子どもが産まれた感謝の声とともに、数日前、弥生がつづった文章があった。

妊娠9週で中絶をしたこと。強い罪悪感に襲われていること。その罪悪感を、パートナーや母親のせいにしてしまい、そんな自分にまた落ち込むこと……。自身は「他人にすべてをゆだねていた」と振り返る。そして、最後はこう締めくくられていた。

「他人に優しくなりすぎず、物分かりの良い人間を演じず、ちょっとズルをしてでも、自分で決めて下さい。どちらを選択しても、それはあなたの幸せのためです。あなたの幸せを願います」

水季は、この言葉を受けて出産を決めた。ほかにも、彼女の背中を押す理由はあっただろう。父に対して「相手に似るなら産みたい」と気持ちを明かしていたこと。水季自身の母子手帳を産婦人科に持参していたこと。心の奥底では産みたいと思っていて、でも、産まない選択をしようとしている現実を、受け入れきれずにいたのではないか。

ノートに書かれた弥生のメッセージに気づかず、中絶していたら、水季はどうなっていただろう。産まなかった理由や責任を、他者に押し付けていたかもしれないし、産まなかったことについて、自分の中で折り合いをつけられないままだったかもしれない。

「あんまりないんだけどな、人に影響されること」と言いながら、水季は涙を拭った。これまで、出産を決めたことを夏に知らせず、一人で海を産み育てた彼女に対し、視聴者からは疑問の声も多かったように感じる。海を出産した後、家族の助けを借りず、必死に育児や仕事に向き合ってきた水季にとって、その生き様は、彼女なりの「独りよがりになって出産を決めたことに対する、責任の取り方」だったのではないだろうか。

弥生が自覚しはじめている「自由」と「責任」

弥生の言葉が、水季の出産を後押しした。そうして産まれた娘の海が、夏や弥生と出会っている。運命的な命の輪廻(りんね)、と書けば少々ドラマティックすぎるかもしれない。

弥生は、独身で子どもがいない自分の「自由」を自覚しはじめている。自分の好きなタイミングで、好きなだけ美容院での時間を過ごせること。熟考なく新しいトリートメントを試せる金銭的余裕があること。誰にも朝の身支度を邪魔されず、凝った髪型で出社できること。後輩の誕生日に、ディナーのワインをごちそうできること。

彼女が海の母親になるためには、これまで享受してきた自由を手放さなければならない。そして、これまで自分にかけてきた時間とお金を、子どもや家族にかけることになる。自由を手放し、責任を引き受ける……。そのシンプルな構造に対し、弥生はまだ「母になることの憧れ」以外の向き合い方をはっきり示していない。

弥生は夏に対し、過去に中絶したことに触れながら「産まなかったのが間違いとは思ってないの」「子どもがいたら今の生活はないし、それは否定したくないんだよね」と言っている。彼女の選択は、確かに間違いではない。

しかし、弥生は、産婦人科のノートに書き残していたように、産まない選択をしたことへの思いは今も拭いきれていないのではないか。自分が選んだのではなく、パートナーや母親に「選ばされた」と思えてならない、そのやるせなさは、たとえ、弥生が海の母親になったとしても昇華することがないかもしれない。

夏は休暇を利用して海と会っているが、その間、弥生は意識的に距離を置いているようにも見える。もしかしたら、彼女のなかで、母になることへの迷いが芽生えているからではないだろうか。

夏が乗り越えるべき“課題”

弥生が、母になることへのハードルを越えようとしているのなら、父になろうとしている夏にも課題がある。それは、「父とはどういう存在で、どんな役割を持つ存在なのか?」といった、根本的なテーマにも関連してくる。

夏は、海に対してイライラしない。水季が亡くなった事実を共有し、二人で涙を流したことはあったが、基本的に夏と海はポジティブな感情を共有している。たとえば、海がパジャマのボタンをかけ違えてしまっても、間違いを受容し、彼女一人でできるまで待っている。

水季の母・南雲朱音(大竹しのぶ)は、夏のその様子を見て「イライラしないのね」と言い、自分で決めることが苦手で、人に合わせてしまうという夏の性質を指して、子育てに向いている、と評した。

しかし、夏が本当に海と向き合い、父親になろうとするなら、ときには叱り、諭すフェーズも通過しなければならないだろう。海はすでに7歳であり、まだ完璧とは言えないが、自分のことはある程度、自分でできる年齢である。自分で何もできなかった乳児のころを、夏や弥生は知らない。育児をショートカットしているような状態で、言葉や形だけ「親です」と名乗っても、実体がないのでは意味がない。

夏や弥生が、父や母となるためには、クリアしなければならない関門がいくつもある。それを示すのが朱音であり、水季の元同僚である津野晴明(池松壮亮)の存在なのだろう。

津野の話からすると、水季は「時間とお金ができたら子どもに使うっていう生活」をしており、検診を受けたことがなく、病気の発見が遅れてしまったという。夏や弥生に、同じような覚悟が持てるのか。子どもに振り回されるかもしれない人生を、スタートできるのか。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

元記事で読む
の記事をもっとみる