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パリオリンピック2024をめぐる“ジェンダー論争”。性差別や偏見が残り続ける社会で、人々はいまだに強い女性を恐れている

  • 2024.8.6
Boxing - Olympic Games Paris 2024: Day 6

『TEEN VOGUE』フィーチャーズ・ディレクターのブリトニー・マクナマラによるこの記事では、2024年のパリオリンピックでの論争を中心に、人々が女性アスリートの強さに疑問を投げかけることによってすべての女性が受ける影響について考察する。

2024年パリオリンピック女子ボクシングの試合で、アンジェラ・カリニ(イタリア)がイマネ・ケリフ(アルジェリア)との試合を棄権したとき、トランスフォビア(トランスジェンダーなどへの嫌悪や偏見)を抱く人々は、「カリニが棄権せざるを得なかったのはケリフがトランスジェンダーだからだ」と主張。しかしケリフはトランスジェンダーではなく、またテストステロン値がスポーツのパフォーマンスと相関関係にあることは科学的に証明されてはいない。

AP通信によると、2023年の世界選手権の際、ケリフは国際ボクシング協会(IBC)による性別適格性検査で、男性ホルモンの一種であるテストステロンの上昇がみられたことを理由に出場資格が剥奪となった。このことから、ケリフは性別移行が違法とされているアルジェリア出身であるにもかかわらず、インターネット上を中心に「彼女はトランスジェンダーだ」と誤情報が流れるようになった。繰り返すがケリフはトランスジェンダーではなく、またアルジェリアの法律を考えると、この誤情報自体がケリフの身を危険に晒す可能性さえある。そして、国際オリンピック委員会(IOC)は、IBCの判断を「恣意的な決定」だとし、検査の仕方から理由まで「正当なものではない」とした上で、東京五輪に引き続きケリフの出場を認めているのだ。

“強い女性”を攻撃する動き、特にアスリートやオリンピック選手を対象にするものは頻繁に見受けられる。ラグビーの米国代表選手で今回のパリオリンピック銅メダリストのイロナ・マーハはTikTokで、自身を男だと呼んだり、肩幅が広くて筋肉があるから男性的といったコメントに涙ながらに言及した。ほかにも、元オリンピック選手のアリ・レイズマンや、パリ五輪金メダリストのシモーネ・バイルズは、2人とも腕が筋肉質なことでいじめられた過去があると語っている。セリーナ・ウィリアムズは、その筋肉質な体格とスポーツでの優位性ゆえに、男性として生まれたのだという陰謀説に長いあいだ直面してきた。オリンピック陸上選手のキャスター・セメンヤは、性別について厳しい監視を受け、競技を続けるためにテストステロン抑制剤を服用し、“自然”なテストステロン値まで下げるよう裁判所命令を受けたこともあるという。セメンヤがホルモン値が高すぎるという理由で処分を受けた一方で、トランスジェンダーの女性である水泳選手リア・トーマスは、全米大学体育協会(NCAA)のホルモン要件を遵守していたにもかかわらず、オリンピックへの出場を禁じられた。

女性アスリートの能力や強さを声高に攻撃する人々の多くは、“スポーツの公平性を重視し、女性選手を保護している”と主張する。しかしその行為は同時に、セメンヤやケリフのようなアスリートを監視し、“誰が女性になれるか”を決めることにもなり得る。そして意識的であれ無意識であれ、その判別条件は女性の能力を抑制するために長いあいだ与えられてきた性役割である、弱さと小ささに基づいてもいるのだ。

偏った“女性らしさ”がスポーツ界に生む差別

Photo_ Tom Weller/GettyImages
Artistic Gymnastics - Olympic Games Paris 2024: Day 10Photo: Tom Weller/GettyImages

女性のスポーツ参加は長く推奨されてこなかった。スポーツジャーナル国立女性史博物館によると、1800〜1900年代初頭には激しい運動が女性の生殖にかかわる臓器機能を脅かす可能性があるとされ、特に月経中の女性は運動をすべきではないと信じられていた。また、女性がスポーツをする場合にも、種目はテニスや乗馬などに限られ、“女性らしさ”を強調するための手の込んだ衣装を必要とした。このような背景から、スポーツへの参加は歴史的に男性の領域と見なされてきたといえるだろう。

若いころ筋肉のせいでいじめにあったと語ったシモーネ・バイルズは、今では世界最高の体操選手の一人だ。バイルズと米国女子体操チームは広く人気を誇り、オリンピックで最も注目される試合の一つとなっている。体操は優雅さを重んじるスポーツであり、驚異的な強さを必要とするものの選手らはその技をいとも簡単にこなしているように見せ、宙を舞い、手足を華麗に動かして綺麗に着地する。そのため体操は歴史的に“女性らしい”スポーツと多くの人に考えられてきた。

1900年代に入り、女性がスポーツに参加する機会は増えた一方、多くの女性選手が外見や立ち振る舞いを批判され、容姿を厳しく取り締まられるなど偏見と差別は残り続けた。米国における公的高等教育機関の教育プログラムや、活動などでの性差別禁止について定めた「Title IX(タイトルナイン)」 が、1972年に成立したことで状況は変わり始めた。しかし現在もスポーツ界における女性に対する偏見は存在し、特に黒人アスリートたちは“女性らしさとは何か”という人種差別的な固定観念にも直面している。

NBCニュースによると、スポーツ関係者が“性別が疑わしい”女性アスリートに対して無作為に検査を実施し始めたのは1940年代のこと。その後1960〜90年代にかけて、IOCなどの組織は染色体検査を実施し始めた。これは、東欧諸国が国際大会に男性アスリートを密かに送り込み、女性と競わせているのではないかという冷戦時代の疑いのなかで始まったものだったという。現在ではそれこそ禁止となったものの、今でも「身体的な優位性が疑われる女性アスリートを検査する権限」を保持しており、その方法としてテストステロン値の検査が採用されている。

男性選手がこのような検査を受けることはほとんどなく、社会一般からもスポーツや身体活動で成功することを期待されている。私たちの社会に深く根付いた性差別によって、女性アスリートのパフォーマンスや外見に厳しい目が向けられている一面は否めない。女性がトップレベルのパフォーマンスを発揮すると、“男性的”と見なされることがよくあるが、これは男性は身体的に優位であり、女性はそれと比較し弱くおとなしく、全体的に能力が劣っているという長年の偏見によるものといえるだろう。

もちろん1800年代からときは経ち、今年のパリオリンピックは史上初めて参加競技者数が男女同数を達成したと発表。さらにギャラップ社による世論調査では、観客は男性競技と同じくらい女性競技にも注目していることがわかった。過去1年間における女子バスケットボールへの関心の急激な高まりをみても、これらすべては長らく待たれていた進歩といえる。

一方でトランスジェンダー女性(彼女たちは女性である)や、体の性の多様な発達(DSD)をもつ選手は、競技の公平性を理由に特定の種目での試合出場を依然として禁じられている。また女性選手が少しでも“上手すぎる”と、IOCなどが出場を認めているにもかかわらず、世間はすぐにその性別や出場の是非を疑問視し始める。

男性よりも弱く、小さく、そして劣っているはずだという偏った“女性らしさ”は、時代遅れで性差別的だと考える。それに適合しない“強い女性”を攻撃すること、また「女性はスポーツで劣っている」という固定概念は、すべての女性そしてフェミニストにとって救いになり得ない。私たちは女性には力があるという前提から、“女性らしさ”を再定義するべきだ。

Text: Britteney Mcnamara Adaptation: Nanami Kobayashi

From: TEEN VOGUE

TOKYO, JAPAN - AUGUST 02_ Laurel Hubbard of Team New Zealand competes during the Weightlifting - Women's 87kg+ Group A on day ten of the Tokyo 2020 Olympic Games at Tokyo International Forum on August 02, 2021 in Tokyo, Japan. (Photo by Chris Graythen/Getty Images)
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