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【独占インタビュー】ジャン=ポール・ゴルチエ x クレージュのニコラスが対談で語る“クチュールの今と未来”

  • 2024.8.4

洗練されたデザインで追求する真のラグジュアリー

Photo_ Christina Fragkou
Photo: Christina Fragkou

2021年より、毎回ゲストデザイナーを招いて発表されるジャンポール・ゴルチエJEAN PAUL GAULTIER)のオートクチュールコレクション。 24-25年秋冬シーズンは、クレージュCOURRÈGES)のアーティスティック・ディレクターであるニコラス・デ・フェリーチェを指揮官に迎えた。 カラフルで装飾的なジャンポール・ゴルチエと、ミニマルなデザインで知られるニコラス。 一見、相反する組み合わせに思われたが、その化学反応は、1+1が3にも4にもなるようなシナジーをもたらした。 ニコラスが好む、控えめな色彩とジオメトリックなシェイプ、体に絡むようなドレープは健在。 クレージュでは使われないシルクギャバジンやタフタといった素材や、細かなギャザーが、センシュアルな雰囲気を高めていく。 目を奪われたフックとアイの留め具は、刺繍代わりの装飾としても、パーツをつなぎ合わせる機能としても、存分にそのポテンシャルを発揮。 なんと4万個のフックとアイが使用されたドレスもあった。 ジャンポール・ゴルチエらしさとニコラスらしさか交差するコレクションはどのように生まれたのだろう。コレクション発表の数日前に、ニコラスとジャン=ポールの二人のを交えた鼎談が実現した。

Photos_ Jean Marques
Photos: Jean Marques

ティファニー・ゴドイ(以下、T ) コレクション発表前の貴重な時間を割いていただき、ありがとうございます。まだやることはたくさんあるのではと想像します。

ニコラス・デ・フェリーチェ(以下、N ) いえいえ、とんでもないです。 正直なところ、まだやることは山積みです。 オートクチュールに携わるのは初めてなので、オートクチュールショーの準備の様子が記録されたインタビューやビデオを見て、プロセスを想像して準備しました(笑)。 ショーの開始直前に服を仕上げるなど、プレタポルテにはない作業が新鮮です。 流れに身を任せて乗り切ろうと思います。

Photo_ Christina Fragkou
Photo: Christina Fragkou

T まずはジャン=ポールにお聞きしたいのですが、ニコラスにオートクチュールショーのやり方について、何かアドバイスはされましたか?

ジャン=ポール・ゴルチエ(以下、J ) アドバイスは何もしなかったし、僕の助言が無くても彼はやり遂げられると確信がありました。 ニコラスがクレージュで行っている仕事が好きで、私のブランドもお願いしたいと思っていました。 それに、私は事前にあまり多くを知りたくはありません。 私自身、サプライズされたいのです。

T ショーが待ち遠しいですね! オートクチュールと聞くと、華やかな装飾を思い浮かべることが多いと思いますが、ミニマルな洗練を追求するニコラスの仕事とは対極にありますよね。 今回、ニコラスをゲストデザイナーに指名し、何を見たかったのでしょうか。

Photo_ Christina Fragkou
Photo: Christina Fragkou

J かつてオートクチュールは富豪向けのものでしたが、70年代にティエリー・ミュグレー川久保玲三宅一生らが、革新的なプレタポルテのコレクションを発表し、オートクチュールの概念を変えました。 私にとって、プレタポルテとオートクチュールの間に境界はありません。 いずれにせよ、自分の創造性を発揮して美しい服を作ることに尽きるのです。 もちろん、より大きなオーディエンスを考えるなどの違いはありますが、それは創造性とは別物だと思います。 以前はオートクチュールのみに許された手間のかかる技法が、技術の進歩によってプレタポルテで可能なことも増えました。 ニコラスのクレージュでも、クチュールに通じるものがあると思います。 そもそもクレージュは、オートクチュールの革新的なアトリエとしてスタートしたわけですし。 今回ニコラスにお願いした理由は、クレージュでの彼の仕事はとても好きなことに加え、ショーでのコレクションの見せ方へのこだわりに強く惹かれたことも挙げられます。

N 確かに、オートクチュールといえば装飾を目指すことも多いでしょう。 正直なところ、ベルギーの田舎から出てきた私にとって、この装飾的な側面はあまり馴染みなのないものでした。 最近のクレージュでは羽根を使うことが増えていますが、それらは羽弁を取り除き羽軸だけを使用しているので、傍からは羽根には見えず、非装飾的です。今回のコレクション制作の当初、ジャンポール・ゴルチエのアーカイブをリサーチした後に、30ルックのラインナップを考えてみました。 しかし、それは私らしくも、今日のジャンポール・ゴルチエらしくもないと感じてしまったのです。 ジャン=ポールが生み出してきた多様なアイデアを、あちこちから盗んできたような散漫なものでした。 そこで、私は自分らしくやらなくてはいけないと分かり、オートクチュールとはいえ、デコレーションのためのデコレーションは避けました。 今回のコレクションでは刺繍を取り入れていますが、ジャンポール・ゴルチエの要素を残しつつ、私らしくデザインしたのがわかるかと思います。

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Photo: Christina Fragkou

J オートクチュールとは、装飾だけを指すわけではありません。 たとえば、シャネルは装飾ではなく、新しく発明されたスカートスーツが、シャネルをよりシャネルたらしめたのです。 ピュアで、シンプルで、より良いものこそが何よりも大事です。

N ジャンポール・ゴルチエのアーカイブに飛び込めば、モノクロームで、シルエットを際立たせるようなシンプルなラインやパターンがたくさんあることがわかります。 私は、価値を生み出すために装飾を加えるのを好みません。 ラグジュアリーとは、エネルギー、知性、ビジョンが注ぎ込まれたものだと信じています。 完璧なジェスチャー、そして完璧なファブリックがあれば、装飾がなくともオートクチュールを作り上げることができると思いました。

J それは、料理にたとえられるかもしれませんね。 シンプルな魚料理では、魚が新鮮でおいしくなければなりませんが、必ずしも豪華なソースが必要なわけではありません。 フランス人はそれを隠すためにソースを使うことがありますが(笑)。

Photo_ Gorunway.com
Photo: Gorunway.com

ゴルチエが人々に与えた影響

T ニコラスに質問です。 80年代生まれのあなたは、ジャン =ポール・ゴルチエの軌跡を見て育ったのではないでしょうか。 そんなデザイナーから今回の誘いがあったとき、最初に何を思い浮かべ、どのようにコレクション制作に着手しましたか。

90年『Blond Ambition Tour』 にて、ゴルチエの象徴的なコルセットを纏ったマドンナ。Photo_ Getty Images
Madonna90年『Blond Ambition Tour』 にて、ゴルチエの象徴的なコルセットを纏ったマドンナ。Photo: Getty Images

N ジャン=ポールには、子供の頃からの思い出がたくさんあります。 私が生まれたベルギーの小さな村でさえ、ジャン =ポールはよく知られていまた。香水はあまりにも有名で、その物議を醸したコマーシャルには衝撃を受けたし、出演していたテレビ番組『ユーロトラッシュ』はSF映画のようで天才的でした。 ポップソング「How To Do That」のリリースや、マドンナがライブで着用したコーンブラも本当に記憶に残っています。 今回まず、ジャン=ポール・ゴルチエを象徴するイメージについて考えたところ、このブランドがいかにクィアやさまざまな身体を持った人々を祝福し、救ってきたかを思い浮かべました。 自分を隠し、ありのままの自分でいられなかった人々が、パリでジャン=ポール・ゴルチエと出会い、自分を隠していたすべてのレイヤーを脱ぎ捨て、ありのままの自分でいられる方法を見つけようとする、そんなイメージが浮かんだのです。 今回の私のショーも、そこにはまた新しい人物を加えられるものであればと思います。

T コレクション発表前出多くは語られないと思いますが、今回のコレクションの主なリファレンスについて教えていただけますか?

N たくさんありますが、全てが目に見えて明らかとは思いません。 例えば、ファーストルックのためには、アーカイブで見つけた、床に置くとフラットになるジオメトリックなパターンを参照しました。 具体的なコレクション名をあげるとしたら、01年春夏オートクチュールコレクション"Cutters"と89年秋冬コレクション”Women Among Women"には大きくインスパイアされました。

ファーストルックの着想源となったジャンポール・ゴルチエ 04-05 年 AWプレタポルテコレクションより。Photo_ Getty Images
Jean Paul Gaultier Fashion show fall-winter 2004/2005 ready to wear fashion show in Paris in Paris, France On March 03, 2004-ファーストルックの着想源となったジャンポール・ゴルチエ 04-05 年 AWプレタポルテコレクションより。Photo: Getty Images

T ジャン=ポールも絶賛されていましたが、クレージュのショー空間にも、隅々まで美学が届いていますね。 今回はどのようなアプローチを試みたのでしょうか。

N 今回は、クレージュでいつも一緒に仕事をしている友人たちに、会場づくりを手伝ってもらいました。 ショー会場となるジャンポール・ゴルチエの本社スペースは、歴史やアイデアにあふれる素晴らしい場所で、それを生かしたいと思いました。 ミニマリスト的なアプローチを望んだわけではありませんが、私らしく大きな正方形のスペースを中央に設けながら、セットデザインや椅子の置き方でストーリーをつくろうとしたのです。 ショーの音楽もとても大切なものですよね。 私はいつも大局的な視点で物事を考えるようにしています。 360度、あらゆる観点から表現を突き詰めるのです。

手を動かして創造する

Photo_ Christina Fragkou
Photo: Christina Fragkou

T ジャン=ポールに質問です。 あなたは以前、自分にとっても、生み出されるクリエイションにとっても、自由が重要だとおっしゃっていました。 なぜそう思うのでしょうか?

J 私はファッションの学校に通いませんでした。 そこで習うはずのドローイングがうまく描けないなど、マイナス面もありましたが、そのおかげで型にはまることなく、自分を表現することができるようになったとも思います。 ピエール・カルダンのアシスタントを卒業し、自分のブランドを立ち上げたとき、実際にやってみることで多くのことを学びました。アシスタントとはまったく異なる仕事です。 とにかくコレクションを作らなければならなかったので、手探りで進め、たくさんの失敗を経験し、最初のころは大惨事でした。しかし、やりながら学ぶことが、自由を得るための一番の方法だったと思います。

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Photo: Christina Fragkou

T このプロジェクトを始めてから、プロセスやデザインなど、お二人にどんな共通点が見つかりましたか?

N 私はジャン=ポールを追ったテレビ番組をたくさん見てきましたが、彼は毎日スタジオに来て作業をしていました。実際にボディの上で布を試して、トライアンドエラーを繰り返しながら、時間をかけて形にしていくのです。 私も同じで、毎日クレージュのアトリエに通っています。 ドローイングを描いて、あとはデザインチームに任せるといったタイプのディレクターではありません。 シンプルなシャツひとつとっても、自分が求めるショルダーにするために、パタンナーと共に何度もやり直します。 私たちの共通点は、実際に手を動かして仕事をする必要があるということです。 アイデアを説明するために素早くスケッチを描いたとしても、それは伝達ツールでしかないのです。 実際にものを作ることで学び、とにかくやってみるという精神が必要です。

J ピエール・カルダンでアシスタントをしていたときは、スケッチばかりを任されていました。 自分のブランドを始めると、生地を決めるといった重要な作業があり、スケッチに明け暮れるのではなく、もう少し現実を見る必要がありました。 試行錯誤し、より良いものを作っていく過程は、彫刻と似ているかもしれません。 サプライズが生まれるときもあれば、思うようにいかないときもある。 仕事だからというわけではなく、そのプロセスを楽しむことができました。

N 素敵なドローイングだとしても、トワレではそうでもないこともありますよね。 実際に手を動かしながら、現実を見極めることが大事です。

Photo_ Gorunway.com
Photo: Gorunway.com

まさに、ラストルックをランウェイに送り出す最後の最後まで、手を動かし続けたのだろう。 ショー終了後のバックステージで、やり切った安堵の表情を見せたニコラス。 「ジャン=ポールはストーリーテラー」と称し、「彼のコレクションはまるで映画のようで、それに倣おう」としたという。 ミニマルなショー演出、そのさりげない仕草やディテールには、凝縮されたロマンティシズムが覗く。 明確な信念とリスペクトとともに、ニコラスとジャン=ポール・ゴルチエの、どちらの物語も語ることに成功した。

Text : Ko Ueoka Editor : Saori Yoshida

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