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【脳食いアメーバ】致死率ほぼ100%の「フォーラーネグレリア」の恐怖とは?

  • 2024.8.4
Credit: canva

2013年8月のある暑い夏の日のこと。

米テキサス州サンアントニオで、8歳の少年が数日間にわたる発熱、頭痛、嘔吐、光過敏症を訴えた末、病院に救急搬送されました。

母親は少年をいくつかの病院に連れていったものの、まったく回復の兆しを見せず、悪化の一途を辿っていたという。

少年はすでに意識がなく、光や音、その他の刺激にも反応しなくなっていました。

医師たちは少年に人工呼吸器をつけ、病気の原因を突き止めるべく、懸命の努力を続けました。

そして彼らが少年の脳脊髄液の中に見つけたのは、”脳食いアメーバ”として知られる最悪の殺し屋「フォーラーネグレリア」でした。

このアメーバに感染すると、ほぼ100%の確率で死に至るという。

果たして、フォーラーネグレリアはどのような経路でヒトに感染するのでしょうか?

目次

  • 脳を溶かす「殺人アメーバ」の恐ろしさとは?
  • 殺人アメーバに対抗する「新たな治療薬」を求めて

脳を溶かす「殺人アメーバ」の恐ろしさとは?

フォーラーネグレリア(学名:Naegleria fowleri)は、約25〜30℃の温かい淡水環境に生息するアメーバです。

ヒトに対して病原性を示すことで知られ、フォーラーネグレリアが存在する水に接触すると、鼻から侵入して脳に到達し、感染に至ります。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、フォーラーネグレリアの感染者は14歳未満の子供たちが特に多いという。

これはおそらく、子供たちが大人よりも川遊びや湖へのジャンプをする機会が多く、鼻に水が入りやすいためと考えられています。

サンアントニオの少年も当時、リオグランデ川で母親と水遊びをしていたことがわかっています。

鼻から侵入して、脳に感染する
鼻から侵入して、脳に感染する / Credit: canva

フォーラーネグレリアに感染すると「原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)」を発症します。

これは中枢神経系が冒されることで、嗅覚や味覚に変化が起こり、次第に発熱や頭痛、嘔吐、光過敏症といった一連の症状を引き起こす危険な病気です。

PAMの病状の進行はきわめて早く、感染者のほとんどは症状が出始めてから平均5日後には昏睡状態に陥ります。

その後、フォーラーネグレリアは脳組織の大部分を破壊し、ほぼ100%の確率で感染者を死に追いやるのです。

脳組織の破壊の一部はフォーラーネグレリア自身によって行われるため、”脳食いアメーバ”と表現されますが、大部分は侵入者であるアメーバに対する体の攻撃的な免疫反応によって引き起こされます。

フォーラーネグレリアの生活環(1〜3の順に変化)、下は実際の拡大図
フォーラーネグレリアの生活環(1〜3の順に変化)、下は実際の拡大図 / Credit: en.wikipedia

CDCの調べによると、アメリカ国内では1962年〜2022年の間にフォーラーネグレリアの感染例が157件確認されており、そのうち生き残ったのはわずかに4人だけだったという。

世界の他の地域でもこの数字は似たようなもので、フォーラーネグレリアに感染して生存できるケースは非常に稀です。

日本国内では1996年11月に一度、佐賀県在住の25歳女性がフォーラーネグレリアに感染し、死亡した事例が報告されています。

女性は症状の発症から7日目に意識が混濁し、9日目に亡くなりました。

感染経路は不明で、過去1カ月の行動履歴をさかのぼってみても、野外や温水プールでの水浴、温泉入浴、海外渡航歴もなかったという。

また死亡後の病理解剖では、脳は「半球の形状を保てない程軟化していた」といいます。

脳が原型を留めないほど軟化してしまう
脳が原型を留めないほど軟化してしまう / Credit: canva

さて、サンアントニオの少年の診察を担当したデニス・コンラッド(Dennis Conrad)医師は、PAMの感染者を診るのが今回で3件目でした。(前回の2例はいずれも死亡している)

少年はコンラッド医師の元に到着するまでに、すでにPAMの発症から5日目を迎えていました。

最初に話したように、その時点で少年は意識もなく、かなり危ない状態をさまよっていたといいます。

コンラッド医師らは何とかして少年の命を救うため、当時注目され始めていた「ミルテホシン(miltefosine)」という治療薬を使うことにしました。

殺人アメーバに対抗する「新たな治療薬」を求めて

ミルテホシンは元々、熱帯の寄生虫によって引き起こされる病気(リーシュマニア症)の治療に使われてきた抗菌薬です。

しかし研究で、ミルテホシンがフォーラーネグレリアに有効であることが示されたため、PAMの治療薬として使われるようになりました。

そしてミルテホシンを投与した結果、少年は最悪の危機を脱することに成功したのです。

ただ何とか一命は取り留めたものの、少年はまったくの無傷ではいられませんでした。

退院後、自力で呼吸ができるまでに回復していますが、それ以外のことはほとんど何もできなくなったといいます。

数カ月のリハビリの後に一部の運動能力が回復しましたが、家族のサポートがなければ日常生活が難しい状態が続いています。

飛び込みで鼻に水が入ると感染の危険性も
飛び込みで鼻に水が入ると感染の危険性も / Credit: canva

それでもミルテホシンにPAM患者の命を救う効果があることを確認できたのは大きな成果でした。

少年がPAMに感染したのと同じ年、米アーカンソー州で13歳の少女がフォーラーネグレリアに感染したのですが、彼女もミルテホシンの投与で回復しています。

しかも少女の場合は半年間のリハビリの後、身体機能の大部分が回復しました。

加えて、2016年にも米フロリダ州の16歳の少年がPAMに感染し、ミルテホシンの投与で一命を取り留めています。

致死率ほぼ100%のPAMで、これだけの命を救っているミルテホシンにはやはり大きな効果があると言えるでしょう。

フォーラーネグレリアのイメージ図
フォーラーネグレリアのイメージ図 / Credit: canva

しかし一方で、医師たちは「ミルテホシンには腎臓および肝臓の機能に有害な副作用を及ぼす可能性が高く、安全面に懸念すべき点がある」と話します。

そこで医師たちは、PAMに有効な新たな治療薬を探しています。

現在、有望株の一つとして注目されているのは「ニトロキソリン」という抗生物質であり、実験ではフォーラーネグレリアの細胞死を誘発しながら、ヒト細胞には有害な毒性を示さないことが確かめられています。

ただ現段階では実際のPAM患者に有効であるかどうかはわかっておらず、他の化学物質も含めた新薬の登場が待たれています。

フォーラーネグレリアの感染は特に暑い夏の時期ほどリスクが高くなるといわれています。

日本国内では感染例がほとんどないとはいえ、ぬるい水場に近づくのには注意しましょう。

参考文献

‘Brain-eating’ amoebas kill nearly 100% of victims. Could new treatments change that?
https://www.livescience.com/health/viruses-infections-disease/brain-eating-amoebas-kill-nearly-100-of-victims-could-new-treatments-change-that

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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