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【太宰府】嗣人さんと語る「天神さまの花いちもんめ」菅原道真公現代の姿

  • 2024.8.7

「菅原道真は自分自身のために怒る人じゃなかったんじゃないかな。日本三大怨霊と呼ばれるには、きっと怒る理由があったんだと思う。」

そう語ってくれたのは、小説家の嗣人(つぐひと)さん

嗣人さんは福岡県在住の兼業小説家。シリーズ「夜行堂奇譚」は、コミカライズもされている。

嗣人さん(作者イメージ)
嗣人さん

こんにちは。リビングふくおか・北九州Web地域特派員のひえぴょんです。 太宰府に移住して4年。歩いて天満宮にお参りにいける環境はとっても住み心地が良く気に入っています。 太宰府天満宮を訪れるだけではもったいない!歴史に思いを馳せ、自然に癒され、そして地元の人々の暮らしに触れる。移住者だからこそ知り得た、太宰府の魅力をご紹介していきます。

この度、嗣人さんにお話を聞く機会をいただけました。最新作「天神さまの花いちもんめ」(産業編集センター)の制作背景と、「天神さまが現在も太宰府で過ごすワケ」をたっぷりお伝えします。

書影「天神さまのはないちもんめ」
天神さまの花いちもんめ(産業編集センター)

この夏の新作「天神さまの花いちもんめ」(産業編集センター)は、ファンタジー小説の枠を超え、大宰府・福岡の歴史や文化、暮らす人のリアルを融和させた世界観が描かれています。

天神さま(菅原道真公)が私と、同じ町内に住んでいる設定とわかり序盤からどハマリ。個性豊かな八百万の神々が繰り広げる身近な「あるある」に、ププ〜っと笑いが止まりませんでした。

道真公は30代?オリジナルのキャラクター設定

ーーー 笑ってしまうシーンがたくさんありますね。どんな風に考えられたか気になります。

「笑わせようと思って、面白いシーンができたんじゃないんですよ。登場するキャラクターたちが勝手に動き、自由に遊んでいたら面白くなっちゃった…という具合です。」

ーーー 面白い作品は勝手にキャラクターが動いて作られると聞いたことがあります。魅力的なキャラクターをつくるポイントはなんですか?

「僕は歴史をすでに持っている人や神様をモチーフにするなら、歴史的背景をキャラクターの過去にしっかり落とし込むんです。」

嗣人さんは温泉県の大学の文学部史学科を卒業。在学中は民俗学研究室に所属されていたそうです。太宰府に住んでいた時は、町を散策して見つけた石碑から文字を解読していたのだそう。(一見、そのままだと見えない石碑の文字でも、嗣人さんの手にかかれば見えるようになるのだとか…もはや博士ですね。)

御笠川とプラム・カルコア太宰府(中央公民館・市民図書館)
作中で天神さまのお気に入りスポット|御笠川とプラム・カルコア太宰府

ーーー 作中の道真公は低姿勢でおだやかな人という印象です。

「そうですね。見た目は30〜40代で、精神は亡くなった時…50代後半くらいを想定しました。見た目よりもずっと落ち着いている設定ですね。 僕の知り合いに天才だ!と思う人がいるんですが、とっても低姿勢で尊大な態度をとることはない方なんです。僕は道真公も聡明な人なので、そうだったんじゃないかなぁと思っています。」

ーーー 私も賢い人は謙虚な姿勢の方が多い印象を持っています。 作中で神々がお正月の祈祷を聞いて一生懸命文字起こしするシーンがあり、みなさん手書きでせっせと働かれていてびっくりしました。スマホやパソコンは使えない設定なんですか?

「昔の方なので、ITはあまり得意ではないんです(笑)」

ーーー なるほど(笑)メインキャラクターのえびす様はどんな設定でしょうか?

「えびす様は道真公よりもずっと昔に生まれた神様で、古事記に登場しています。日本の年功序列文化を反映させると、ちょっと傍若無人な振る舞いがしっくりきました。道真公と違ったあべこべな性格が、なんだかんだ二人は相性良さそうだなって(笑)」

ーーー タイプが違うおじさん達がわちゃわちゃしている姿、かわいいし面白かったです。日本の年功序列がわかるシーンだと、オリジナルの新しい神様が登場するところもそうですね。作中の新しい神様たちはとっても低姿勢だなぁと思いました。

「そうですね。八百万の世界観では、米粒一粒にも神が宿るという考えがあって、現代にも常に神様が生まれているんじゃないかと、そのほうが自然だと僕は考えているんです。家電の神様は自分で書いていても、本当に居たらどんな神様だろうって思いました。やはり新しい神様は新参者なので低姿勢に描いています。」

ーーー 作中、道真公たちがキャンプに挑戦する話の中で、準備全般に苦戦する姿が描かれていましたね。神様なのに火をおこすのも人と同じようにするんだ…と意外に感じました。

「そうですね。僕の考えでは、神様は全知全能ではないんですよ。えびす様の場合は豊漁の神様だから釣りに行けばよく魚が釣れるくらいのパワー。火起こしはできません。すごいことができる神様じゃなくても、近くで見ていてくれるという存在がいいんだと思うんです。」

私の目の前にあるパソコンにも神様がいて、気付かない間にCommand+S(ファイルを保存)をしてくれてたら、ちょっと嬉しいです。そんな身近な神様とのほっこりエピソードから一転。最終章ではこれまでの和気あいあいとした雰囲気からガラリと変わります。最終章では道真公にこんなセリフがあります。

「この世に神も仏もいるものか!」

現在は学問の神様として全国的に有名な道真公。自身が神様になるまで、普通の人の感覚があったことがわかります。そして最終章では、道真公が神様になるまでの壮絶な出来事が描かれているのです。

道真公にとって辛い思い出が多いであろう太宰府。なぜこの町に留まるのか?

私はこの作品を読みながら、なぜ道真公は現在も太宰府で過ごしているんだろう…と疑問が浮かんでいました。ご存じの方も多いとは思うが、菅原道真公は京都での権力争いに負け、無実の罪で左遷された場所。この町では豊かとは言えない生活を強いられ、道真公は亡くなるまで辛いことが多かったんじゃないか。生前に詠んだ歌だって寂しいものばかりだし、大宰府に留まるのは辛くないのかなぁなんて思いを巡らせていました。 ところが、道真公の一面を新たに知ることになりました。

ーーー 私、最後の章を読んで号泣しちゃったんですよね。道真公がなぜ太宰府で過ごしているのか描かれていて、それはもう腑に落ちる形で…!話に胸が熱くなって、気になっていたところの回収の鮮やかさにも感動しました。

「ありがとうございます。菅原道真は日本三大怨霊という面も有名ですね。僕は思うんですが、道真公は朝廷に関わったことは事実で、そこでの戦いに負けたからという理由で怨霊になるだろうか?無実の罪での左遷で納得できなかったとはわかるけど、聡明な道真がそれ怨霊になるまで恨むかなぁ?…と。 太宰府で詠まれた歌も残された子孫のために残したものもあるし、彼は自分自身のためだけに怒り狂う人じゃなかったと。」

ーーー なるほど。道真公が太宰府にお子さんを連れてこられていたことを、私はこれまで深く考えたことってなかったんです。この作品を通じて太宰府に思いを馳せるポイントが増えました。

「道真公のお子さんの話は、福岡に住んでいても知らない人が多いようです。流刑が決まった時、彼は50代半ばで体力的にも大変だったはず。それでも子どもを連れていくって想像以上の覚悟が必要だったんじゃないか。そんな道真公のお子さんとの話も、たくさんの人に知ってほしいと思い執筆に至ったんです。」

ーーー 道真公ゆかりの場所と言えば、まずは太宰府天満宮があがりますが、生前に暮らした場所「榎社・えのきしゃ」も、道真公ゆかりのスポットですよね。実は昨日、本日の取材がうまくいきますように〜と、お参りに行ってきました。

榎社の写真
榎社

「そうなんですね!とても良い場所なので、僕も気に入っているスポットなんです。特に、朝の忙しない雰囲気の中で佇む静かな姿がいいんですよね。」

榎社の近くには西鉄の線路があり、通勤時間は慌ただしく活気にあふれています。ところが榎社の中にいるととても静かに感じるから不思議。敷地内には道真公のお子さんの供養塔があり、そこから徒歩5分の場所に、もう一人のお子さん(隈磨公)のお墓もあります。

「榎社も隈磨公のお墓も、もっと知られて欲しいと僕は思っています。」

隈磨公のお墓がある場所
隈磨公のお墓がある場所 近所の子どもたちの遊ぶ姿を見かける

隈磨公は菅原道真公と供に太宰府に来た子どもの一人です。この地で亡くなり、今もこの土地に眠っています。

ーーー 最後に、道真公と嗣人さんの共通点はありますか?

「父親というところですね。僕は子どもが二人いるんですが、父親としての自分と道真公に思いを重ねるところが多いです。自分の人生に子どもを巻き込んでしまって申し訳ない気持ちと、それでも父親としてのあり方を見せることを考えさせられました。」

私も母親です。作中で親が子どもを大切に思うシーンには、とても共感しました。 本日は貴重なご機会ありがとうございました。

※文中で「太宰府」と表現していますが、道真公ご存命の時代は「大宰府」が正式名称でした。

読了後は大切な人の顔が浮かぶ

生き方も家族の形も多様になった現代。もし道真公が見たら、何を思うでしょう。 私はこの作品を通じて、大切な人や環境を守るために一瞬一瞬を大事に生きたいと思いました。すぐそばに八百万の神様が見守ってくれていると想像してみると、ちょっと頑張れそうな気がします。

"天神さまの花いちもんめ"

天神さまもずっと握っていたかった手があったのではないでしょうか。
読後は大切な人に会いたくなる作品。ぜひみなさんにも読んでいただきたいです! 
ちょうど夏休みですし、読書感想文用に選書してみるのもおすすめです。

「天神さまの花いちもんめ」(産業編集センター)
私は天神さまこと、菅原道真。皆さまご存じのとおり、太宰府天満宮に祀られている学問の神さまである。好きな食べ物は卵かけご飯。家電製品の扱いはちょっと苦手。築五十年のオンボロ四畳半アパートで暮らしている。
この国には八百万の神々がいるが、私も含め皆、人間社会に紛れて生きている。コンビニで立ち読みをしていたり、ラーメン屋の行列に並んでいたり、公園のベンチでぐったりと休んでいたり、参拝者の願いに耳を傾けていたり…。
本書は、そんな神さまたちの何気ない日常のお話。

旅と暮らしの出版社 産業編集センターの本より引用

嗣人
熊本県荒尾市出身。温泉県にある大学の文学部史学科を卒業。在学中は民俗学研究室に所属。2010年よりWeb上で夜行堂奇譚を執筆中。妻と娘2人と暮らすサラリーマン。著作に『夜行堂奇譚』シリーズ(1〜5巻)、『四ツ山鬼談』『天神さまの花いちもんめ』がある。

※記事に掲載した内容は公開日時点または取材時の情報です。変更される場合がありますので、お出かけの際は公式サイト等で最新情報の確認をしてください

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