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就業規則に『退職代行禁止』と書きたい経営者の心とは?退職代行に関するXの話題を現役社労士が解説

  • 2024.8.2
現役社労士のもひもひ(@mo_himo)さんが、XやTogetterで話題になった労務に関するバズネタを社労士視点で解説する連載コラムです。
出典:Togetterオリジナル

最近利用者が増えているという「退職代行サービス」。一度聞いたら忘れないような、ユニークなサービス名が印象に残っている人も多いだろう。X(Twitter)でも、退職代行サービスに関する話題がたびたび注目を集めている。

退職代行サービスは、退職にあたってトラブルが発生しそうな時の最終手段として頼りになりそうだが、その実態や法的課題についてはあまり理解されていない部分もあり、利用にあたっての是非が議論を呼ぶこともしばしば。

今回は退職代行サービスにまつわるX(Twitter)での話題を例に、現役社労士(社会保険労務士)の視点で利用にあたっての注意点などを解説したい。

もひもひ:労働問題や社会保険(年金など)に知見を持つ、開業社会保険労務士(社労士)。難しい専門知識を噛み砕いて説明します。
出典:Togetterオリジナル

教員は公務員だから退職代行は使えない?

教員は労基法適用外は退職代行を断る根拠になるのか? 出典:Togetterオリジナル

まず紹介したいのは、公立学校の教諭が退職代行業者に電話したところ、「公務員には労基法(労働基準法)が適用されないから、退職代行を受けることはできない」と言われてしまったという話。

投稿を見た他のXユーザーからは、「教員も大変やな」「逃げ場ないやん」といった同情の声から、「公務員に労基法が適用されないというのはおかしい説明だ」「弁護士の運営するサービスなら使えるのでは?」といったツッコミまでまでさまざまな反応が寄せられた。

たしかに、「公務員に労基法(労働基準法)は適用されない」というのは原則として正しい。また「退職代行業者が顧客に対してサービスの利用をどう制限するか」については、各社の自由ではある。

一方で、「公務員が労基法の適用除外」については、公務員は労基法の代わりに「国家公務員法」「地方公務員法」という法律が適用されるからであって、これらの法律の中ではもちろん退職に関する規定もある。なので退職代以降業者が「公務員に労基法は適用されない」ことを理由に教員の利用を断る根拠はよく分からない。

この問題を考えるうえでは、退職代行サービスの法的な位置づけについて考える必要がある。最も主要な論点は、

退職代行サービスは「非弁行為」(弁護士資格がない者が、弁護士でないとしてはいけない業務を行うこと)に当たるので違法ではないか
出典:Togetterオリジナル

という指摘である。

こちらの指摘に対して、退職代行業者は

・我々はあくまで事務連絡を代行するだけで、退職届を出すのは本人である
・代行サービスの遂行にあたって弁護士の監修を受けているので問題ない
出典:Togetterオリジナル

などと主張することが多い。

これに対し弁護士側は

・仮に退職届を出すのが本人であっても、非弁行為にあたる可能性は高い
・単なる退職意志の伝達を越えて、未払い残業代の請求や退職日の交渉のような話になれば完全にアウト(なので最初から弁護士である我々にご相談ください)
出典:Togetterオリジナル

といった主張をしている。

ようは「退職代行サービスは、現状で法令や判例等でアウトかセーフかの明確な線引きがまだなされていない状況」というわけだ。それゆえ「教員は利用できない」としている退職代行業者側には「リスクヘッジのため、学校など公的機関を相手取るサービスの提供を避けたい」という気持ちが働いているのかもしれない。

就業規則に「退職代行禁止」って書いていい?という経営者

経営者の気持ちも分からなくはないが… 出典:Togetterオリジナル

次に取り上げたい話題は、弁護士のXユーザーが投稿した「就業規則や求人に『退職代行使用禁止』と書いていいか?」と経営者から相談を受けることが増えているという話。

投稿者は、こういった質問に対して「うちの会社はブラック企業です、と自白しているようなものだから止めた方が良い」とアドバイスしているとのこと。他のXユーザーからは「なぜそこまでして禁止させたいのか」という疑問の声や、「むしろ(退職代行禁止と書くことで)ヤバい会社だと先に明らかにしてくれた方が助かる」なんて声も出ている。

この問題で考えたいのは、就業規則の法的な位置づけ

「就業規則に書いてある以上、何があっても絶対に従わなければならない」「従わなかったら従業員は責任に問われる」ということはなく、労働契約法では「就業規則が法令又に反する場合には適用除外」とも定められている。

就業規則をめぐってトラブルが発生し、裁判に発展することがあった場合は「就業規則の有効性」は都度争点になるわけだ。

例えば「役職者は退職する際、6ヶ月前までに退職届の提出と会社の許可が必要」という就業規則がある会社に対し、それに従わなかった退職者との裁判で「就業規則は無効」とされた裁判例がある。一方で「退職後に競業へ就職した場合は退職金を減額します(もしくは、返金しなさい)」といった就業規則が有効とされた判例もある。

つまり、会社は就業規則の内容を自由に定めることができる(労働者から意見聴取する義務はあれど、それに従う義務はない)が、その有効性ついては、「いざ揉めてみないと分からない」ということになる。

とはいえ、契約期間の定めのない従業員の退職を「認めない」というのは想定しがたい事態なので、退職代行禁止のように「こういう退職の仕方でないと認めません」という趣旨の文言を就業規則に盛り込んだところで、有効性が認められるとは考えにくい。

経営者が就業規則に「退職代行業者経由での退職お断り」と書きたいと考える理由はどこにあるのだろうか。

人手不足が叫ばれる昨今にあって、「会社を辞められては困る。なんとか引き止めたい」と考える経営者の心理も理解はできる。また、退職されるにしても「働き方や給与などに不安があったのなら、一度ヒアリングして何か改善できることはないか検討したい」という経営者もいるだろう。

そんな気持ちを持つ経営者にとっては、顔も名前も知らない退職代行業者からの電話1本で退職され「はい、分かりました。」と受け入れざるを得ない展開を避けたいのかもしれない。

もしくは、採用や育成でコストを払った後で突然の退職を切り出され「ムカつくから最後に説教しないと気が済まないが、退職代行を通じて顔も合わせずに去られた」という苦い経験があり、何か仕組みで解決できないかと願っているのかも…?

いずれにせよ経営者側としては、従業員が「わざわざ退職代行業者にお金を払ってでも、会社と縁を切りたい」と願うくらいには強く退職したい動機があったという事実を、重く受け止める必要があろう。

利用者もリスクを考えたほうが良さそう

退職代行サービスの実態と課題について解説してきたが、その有効性や適法性についてはまだグレーゾーンが多い。利用者にとって便利なサービスである一方、第三者が介入することへのデメリットが生じるかもしれないリスクも理解する必要がある。

そもそも退職代行サービスが普及する背景には、従業員と企業との関係がフラットでないことがある。従業員と企業が対等な関係を築き、従業員が転職するにあたって、そもそも退職代行サービスを利用する必要がない環境を作ることが重要であることは言うまでもあるまい。

退職代行サービスの台頭によって、企業はこれまで以上に、従業員との円滑な関係を維持するための制度や取り組みが求められる時代になってきたのかもしれない。

文:もひもひ 編集:Togetterオリジナル編集部

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