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「仕事は有能なのに家事能力がほぼゼロ」の女性はリアルなのか…現代の「家事ドラマ」が"ちょっと足りない"ワケ

  • 2024.8.2

家事をテーマにした連続ドラマが近年目立つ。現在はTBSで火曜ドラマ『西園寺さんは家事をしない』が放送中だ。生活史研究家の阿古真理さんは「2016年の『逃げるは恥だが役に立つ』、2021年の『私の家政夫ナギサさん』に続くTBSの家事ドラマ3作目になり、フジテレビで昨年放送された『わたしのお嫁くん』も家事をテーマにしていた」という――。

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画像=ドラマ「西園寺さんは家事をしない」公式サイトより
TBSの「家事ドラマ3部作」なのか…

またしても、家事をテーマにしたゴールデンタイムの連続ドラマが放送されている。火曜日の夜10時台に放送中の『西園寺さんは家事をしない』は、TBSの「家事ドラマ3部作」なのか、あるいは今後も続く「第3弾」なのか。

本作には、2020年に放送された人気ドラマ『私の家政夫ナギサさん』の制作スタッフのうち、プロデューサーの岩崎愛奈と脚本家の山下すばるが参加している。大きな話題を呼んだ2016年放送の『逃げるは恥だが役に立つ』が、1作目。そして、局は違うが昨年放送された『わたしのお嫁くん』(フジテレビ系)も、家事を巡るドラマである。いずれもマンガが原作。いったいなぜ、続々と家事ドラマがゴールデンタイムに放送されるのか? そこから見えてくる現代の女性像、男性像を、改めて考えてみたい。

憧れの「家事ゼロ」生活を始めた女性

ストーリーを紹介しよう。『西園寺さんは家事をしない』は、アプリ制作会社の有能なプロダクトマネージャー、西園寺一妃いつき(松本若菜)が主人公。西園寺は貸し部屋つき一軒家を購入し、ドラム式洗濯機、ロボット掃除機などの便利家電を揃え、家事代行サービスも頼んで、憧れの「家事ゼロ」生活を始めた。しかし、アメリカの巨大IT企業から転職してきたエンジニアの楠見俊直(松村北斗)に貸し部屋を提供し、暮らしが一変する。楠見は4歳の娘、ルカ(倉田瑛茉)と暮らすシングル・ファーザー。面倒見がよい西園寺は、独りで子育てに奮闘する楠見を見ていられなかったのだ。

西園寺には、ワンオペ家事で苦労する母親が家を出た過去がトラウマで、まるで家事ができない。1年前に妻を亡くした楠見は、家事が得意でマメ。両者が暮らしをシェアする「偽家族」となり、西園寺は楠見の手作り料理を堪能する一方、子育てのドタバタにも巻き込まれる。「家事とは?」「家族とは?」といったテーマが、恋愛も絡んで進展していくと思われる。

『わたしのお嫁くん』は、大手家電メーカーの「営業の神様」だが家事が苦手で、1人暮らしの部屋が汚部屋状態の速見穂香(波瑠)が、部下で家事が大好きな山本知博ちひろ(高杉真宙)と同居する物語。

議論や実践を進めた『逃げ恥』

『私の家政夫ナギサさん』も、バリキャリ女性が主役。製薬会社のMR(営業)で汚部屋で暮らす相原メイ(多部未華子)が、家事代行会社で働く妹の配慮で、スーパー家政夫、鴫野ナギサ(大森南朋)に家事を頼むところから物語が始まる。

『逃げ恥』は、就職に失敗した森山みくり(新垣結衣)が、SEの津崎平匡(星野源)宅で事実婚を装った住み込み家政婦になり、やがて2人に本物の恋が芽生え……という作品で、その後2人が結婚したことでも知られる。放送されたのは、子育て世代の共働き女性が増え、家事の省力化やシェアを求めるSNSを中心としたムーブメントが活発になり始めた頃。大いに話題になった同作が、その議論や実践をさらに進めた側面もある。

『逃げ恥』は家事の担い手が女性だったが、仕事として始めたことがポイント。2人が恋愛関係になったことで、有料だった家事を愛ゆえに無料にするのは「搾取」とみくりが主張した場面が山場。2人は、家事シェアのスタイルを模索していく。

掃除機をかけている人
※写真はイメージです
仕事で有能なのに家事は苦手なヒロインたち

『ナギサさん』以降は、昭和型の性別役割分業を男女逆にした点がポイント。3作とも男性は家事能力がとても高く、女性は仕事で有能なのに家事はほぼ何もできない。テーマこそ違うが、『西園寺さん』と同じ枠で今春放送された『Eye Love You(アイ・ラブ・ユー)』(TBS系)も、SDGsなチョコレート会社を立ち上げた社長のヒロイン、本宮侑里(二階堂ふみ)は料理しない設定で、料理が得意なインターン生、ユン・テオ(チェ・ジョンヒョプ)と恋に落ちる。脚本には、『ナギサさん』『西園寺さん』も手掛けた山下すばるが参加している。

男女逆転ドラマで共通するのは、いずれもヒロインが仕事はとても有能なのに家事能力がほぼゼロという点だ。しかも、『わたしのお嫁くん』の速見と『アイ・ラブ・ユー』の本宮は、人の先頭に立つ立場なのに、ついていくのが不安になるほどオドオドしている。家事ができない自分に、コンプレックスを抱いているからなのか?

ゴールデンタイムの連ドラは基本的に、F1と呼ばれる20~34歳女性をターゲットにしている。つまり、現代女性が憧れる恋人・夫像は、家事全般の能力が高く率先して担い、イケメンで仕事もできる人、とイメージしている。一方、主人公は、視聴者が自分を投影すると想定される。その女性像は、仕事で重宝される人間になりたいが家事はしたくない、あるいは家事能力には自信がない。

「家事より勉強」と育てられた世代

一連のドラマには、プロデュースはもちろん、脚本家や原作者にも女性が参加し、それなりに女性の気持ちが投影されているとみてよいだろう。もちろんスタッフの性別だけで作品を判断はできないが、圧倒的な男性社会で男性都合の物語が作られてきたテレビの世界で、女性が関わることは重要である。

これは私の肌感覚だが、平成以降に社会へ出た女性は、母親からの期待を背負って勉学にいそしんで育ち、仕事のやる気は高いが家事に消極的な傾向が目立つ。女性の自立意識の高まりと男性の所得の伸び悩みも重なって、現在アラフォーのミレニアル世代以降は、出産後も仕事を続ける人が増えた。しかし、保護者に「家事より勉強」と育てられ、子ども時代に家事を身につける機会が少なかった人も多く、ドラマのヒロインほどかどうかはともかく、大人になって生活を回すうえで困難に直面した可能性は高い。

勉強する中学生
※写真はイメージです
男性の家事時間は短く、女性の負担が重い現実

一方、ミレニアル世代以降の男性は家庭科共修世代でもあり、「家事=女性の役割」という先入観が弱い傾向がある。これも肌感覚だが、家事や育児に積極的な人は多いが、社会のシステムや上の世代の感覚が男性を長時間労働に追い込みがちなため、あまり家事に時間を割けない人も多いらしく、男性の家事時間は相変わらず短い。

理想と現実のギャップが大きく女性の負担が重い実状が、家事の省力化を求めるムーブメントの原動力になってはいる。そうした女性の願望を投影したのが、一連の家事ドラマというわけだ。とはいえ、家事能力がほぼゼロの女性像を見ると歯がゆくなる。

テレビドラマは、同時代の憧れや共有されているイメージを投影する。例えば均等法第一世代が20代だった1990年前後の連ドラでは、ヒロインは仕事こそしているが、元気だけが取り柄でドジな「保護したくなる」キャラクターが目立った。家事はできる前提。もう少し前の1980年代の少女マンガでは、10代のヒロインも料理の腕で男性の心をつかんだ。そういった良妻賢母像を求められたくない、女性だからと家事能力の高さとマメさを求められるのは違うし不快だ、という気持ちもわかる。

権力を持つと「家事」を人任せにしたくなるのか

しかし、ここまで徹底的に家事ができない設定ばかり続くと、むしろ現実の女性たちに失礼ではないか、と心配になる。20世紀の「仕事には向かないが家事は得意」というヒロイン像を、「家事はできないが仕事は得意」に逆転させただけではないか。『私のお嫁くん』の山本を除けば、相手役たちはいずれも仕事能力も高い。相手役の男性がオールマイティーという設定も、結局はドジな女性を完璧なヒーローが守る、というお決まりの構図になっているのではないか。

また、家事ができる異性に惹かれる主人公も、家事能力で女性を測った従来型の男性をなぞっているように見える。結局人は権力を持てば、お金にならない家事を人任せにしたくなるのか?

『西園寺さん』は、まだ前半戦。もしかすると、今後主人公は家事の面白さや大切さに気付いていくかもしれないが、いずれにせよ「女性だからって、家事ができるイメージを押し付けないで」の次の段階へドラマが進むことが、本当の意味での男女共同参画社会への意識改革につながるのではないだろうか。

阿古 真理(あこ・まり)
生活史研究家
1968年生まれ。兵庫県出身。くらし文化研究所主宰。食のトレンドと生活史、ジェンダー、写真などのジャンルで執筆。著書に『母と娘はなぜ対立するのか』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『「和食」って何?』(以上、筑摩書房)、『小林カツ代と栗原はるみ』『料理は女の義務ですか』(以上、新潮社)、『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』(NHK出版)、『平成・令和食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)などがある。

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