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経済人が考える日本の課題 財界セミナーの議論【前編】

  • 2024.8.1

「報道部畑中デスクの独り言」(第377回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、財界セミナーについて。

経済同友会夏季セミナーが開会 参加者は約60名
経済同友会夏季セミナーが開会 参加者は約60名

8月になりました。経済界では7月に企業トップが一堂に会して夏季セミナーや政策懇談会が行われ、現在おかれた日本の課題について議論します。

経済三団体のうち、「財界総本山」と言われる経団連は、夏季セミナーで新しいデジタル技術、脱炭素電源としての原発活用などを盛り込んだ総括提言をまとめました。また、日本商工会議所は中小企業が会員、夏季政策懇談会では価格転嫁など「肌感覚」の議論が交わされました。

一方、経済同友会は企業経営者が主な会員ですが、個人として参加する団体です。そのため、経済同友会のセミナーは自由闊達な議論で定評があります。今回はその経済同友会のセミナーのもようをまとめました。

議論のテーマは社会保障、政治改革、人口減少社会、共助資本主義、ダイバーシティ、投資拡大、生成AI、地政学的リスクなど、多岐にわたりました。この中で印象に残った3つのテーマを取り上げます。

■政治改革、政治を企業の世界に置き換えると……

まずは政治改革。国会は今年に入って「政治とカネ」の問題に明け暮れました。政治資金規正法は改正されましたが、改革は道半ば。そんな中、セミナーでは政治の世界を、民間企業の世界と置き換えるとどうなるかという議論があり、これがなかなか新鮮でした。

「カネの扱いは情報開示基準、企業から見ると政党は全くなってない。政党は実は執行部そのもの、トップそのもの。政治にはトップを規定する法律がない」

岡三証券グループの新芝宏之社長は企業と政党で類似性のある点をまとめた上で、現状の課題を指摘しました。その類似性、具体的には……

・党首選や幹部の登用≒企業の役員選任
・マニフェスト≒企業の中期経営計画
・政党候補者、教育システム≒企業の人事制度、政党の監査制度
・政治資金規正≒企業の情報開示基準

政治の世界と民間企業の世界、これらが置き換えられるというわけです。

企業のコンプライアンス、ガバナンスの意識は政治の世界に活かされるべき……一方で、利潤を追求する企業と、政治の世界では相いれないものもあり、企業トップが苦慮する場面もありました。

「企業におけるガバナンスは取締役会、指名方針委員会が(担う)。政党はどこでつくるのか、自分たちで決めるので自分たちに不都合なことは決めない。ほかのステークホルダーから、やんややんや言うしかない。政治家は選挙に落ちたら意味がない、長期的な取り組みについてのインセンティブをつくらないといけない」(マネーフォワード・辻庸介社長)

「国というものに置き換えてみると、政党が執行部で、国民、市民は社員ではないか。企業では、社員と企業経営者の対話の中でお互いが切磋琢磨されていく。これを同じように国のレベルに上げていくとすると、国民、市民の政治リテラシーを上げるしかない。普段から市民との会話の中でそういった雰囲気をつくっていくのが大事なのではないか」(ANAホールディングス・平子裕志特別顧問)

参加者がパネリストとなり、課題を議論
参加者がパネリストとなり、課題を議論

セミナーでは記者によるクエスチョンタイムという時間が設けられました。これは記者会見というよりも、議論に記者も参加する形となりました。この中で、新浪剛史代表幹事は「政党法」の必要性を訴えました。

「(政党自身による)ガバナンスはなかなか難しい。自分でやるのは無理だと思う。政党法にさっそくいくべき。政党法を定めるタイミングだ、ぜひ進めていくべき」

政党法は政党に法人格を持たせ、資格要件を明確にして、国家が政党と認めるための法律です。政党が法人格を持てば、企業並みのガバナンスが期待されるというわけです。かつては法制化も検討されましたが,憲法の「集会結社の自由」との関連で反対論が強く、制定が見送られてきたという経緯があります。

1994年には政党交付金を受け取れる政党の要件などを定めた政党助成法が成立しました。今後、これを一歩進めて「政党法」につながっていくのか注目です。

グループディスカッションを見守る新浪代表幹事
グループディスカッションを見守る新浪代表幹事

私は新浪氏に企業献金が企業活動の中でどのように位置づけられるのかを質しました。

(畑中)企業献金は政党のガバナンスと対比して考える上で、利益誘導でないと言い切れるのか?

(新浪)重要なのはトランスペアレンシー(情報の透明性)。誰が(カネを)出してどの政党にということがわかるようになっていることが重要。企業にとって献金がどう使われたのかもすごく重要。そうしないと説明責任が果たせない。今後は後者のところがすごく重要だ、何にどう使ったかというところがすごく重要なことだと思う

企業献金は透明性を確保した上で、一定の制約の下で必要…新浪氏の主張ですが、企業献金は利益誘導ではないのか?この疑問については明確な回答はなく、もやもやが残ったのが正直なところです。

経済同友会の夏季セミナーは2日間にわたり、濃密な議論が交わされました。後編は「投資拡大」「生成AI」について取り上げます。

ちなみに開催された場所は長野県の軽井沢、7月ですでにかなりの暑さで、もはや避暑地とは言えないほどの天気でした。これもいまの時代を象徴しているかもしれません。

後編に続く――

(了)

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