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そばにいただけの他人は報われない? 血や法律で繋がらない第三者の本音 『海のはじまり』5話

  • 2024.8.1

目黒蓮演じる月岡夏が、大学時代の恋人・南雲水季(古川琴音)の葬儀の場で、彼女の娘・南雲海(泉谷星奈)に出会う。人はいつどのように父となり、母となるのか。生方美久脚本・村瀬健プロデューサーの『silent』チームが新しく送り出す月9ドラマ『海のはじまり』(フジ系)は、親子や家族の結びつきを通して描かれる愛の物語だ。第5話、影の部分にいる“第三者”にも光をあてる、本作の誠実性に言及したい。

津野の孤独は救われるのか

物語に主人公はつきものだ。主人公がいなければ、鑑賞者は誰に感情移入しながら作品を味わえばいいのかわからず、容易に迷子になってしまうだろう。かといって、主人公だけが目立って終わる物語ほど、味気ないものはない。

夏と海は、「父と子になること」を目指すのではなく、まずは時間をともにすることで関係性をつくっていく方向に舵(かじ)を切った。夏休みの一週間を南雲家で過ごすことになった夏は、百瀬弥生(有村架純)の提案で事前に海との話題を用意したり、髪の毛を結う練習をしたりする。

その影で、どうしても忘れ去られがちな存在……津野晴明(池松壮亮)が浮かび上がってくる。

夏たちが津野の存在を蔑(ないがし)ろにしているわけではないだろう。実際に、海は「図書館に来たんじゃない。津野くんに会いにきた」と言って、わざわざ彼の元を訪れている。海の言動は本心であり、子どもらしい純真さに満ちているが、そのぶん、津野の抱える孤独がにおい立ってくるようだ。

海にはもう、祖母にあたる南雲朱音(大竹しのぶ)をはじめ、夏や弥生など、そばにいてくれる存在がたくさんいる。その事実を指し、津野は「海ちゃんのこと助けてくれる人、たくさんいるから。俺いなくて大丈夫だよ」と海に告げるが、当の海からは「ママが元気なときは津野くんだけだったのに?」と返されてしまう。

かつて水季も働いていた図書館のカウンターで、終業後、津野は同僚の女性と海について話す。「ママの病気がわかったり、死んでから現れるなんて、みんな調子いいよねー」と、津野は言う。もちろん、海にそのことは伝えずに、心のなかにとどめて。しかし、これが津野の本音なのだ。彼が生前の水季たちを支えてきた時間は、なかったことにされている。まるで、水季が亡くなってからが物語の本番とでも言いたげに、気づいたら登場人物が増え、もしかしたら”主人公”になれたはずの自分は蚊帳の外に置かれたのだと。

津野が言うとおり「血でも法律でも繋がってない」「そばにいただけの他人」の立場は弱いのだろう。そんな津野のようなキャラクターにもそっと光をあてる、本作の誠実性に思いを馳せるとともに、どうか彼が救われてほしい、と願わずにはいられない。

「美容院」が表す “親になる責任”

5話の冒頭、水季が海の髪の毛を結うシーンがある。海が「ママは? 髪、可愛くしなくていいの? 時間ないから?」と水季に問う。それに対し、水季は「美容院、高くって」と返し、海は「時間とお金がないから?」と重ねる。

そして後半、弥生が美容院に行くシーンがある。担当の美容師から新しいトリートメントを勧められ、気軽に「お願いします」と受け入れる弥生。彼女のすぐ近くには、子どもと前の夫が会う合間を縫って美容院に来たという母親の姿が。

時間にもお金にも余裕があるからか、深く考えず新しいトリートメントを試せる弥生と、シングルマザーであることを連想させ、早く子どもを迎えに行きたい、子育てにお金がかかると話し、カットのみにとどめる母親。もちろん後者は、かつて水季が味わった立場を表しているのだろう。

このとき、弥生は何を考えていたのか。母親になることで失われる時間とお金に思いを馳せていたのか、新しいトリートメントを試せる自分の“母親になる覚悟”の欠如に思い至ったのか、もしくは、あらためて、自分に“親になる責任感”があるか問うていたのか。

いわゆる「子なし女性」と「子あり女性」の分断を、美容院というメタファーを使って効果的に暗示してみせたシーンだ、という見方は、少し意地が悪すぎるだろうか。

息子に対する母と父の「反応の違い」

ようやく夏が、月岡ゆき子(西田尚美)をはじめとする自分の家族へ、海の存在を報告する“大きすぎる宿題”に取り掛かった。夏休みの宿題が、見て見ぬふりをすればするほど膨(ふく)らんでいく、と錯覚してしまうように、あまりにもタイミングが遅すぎるように感じる。

ここで言及したいのは、海のことを知らせた夏に対する、母・ゆき子の反応と、父・和哉(林泰文)、そして弟・大和(木戸大聖)の反応の違いだ。

海が、弥生との子どもではなく、すでに亡くなった大学時代の恋人・水季との子どもであることを告げた夏を、母は叱った。真っ直ぐに、女性としての立場から、いかに夏が無責任なことをしたのかを語って聞かせた。

妊娠し、産むことは、女性にしかできないこと。たとえ中絶を選択にするにしても、身体的・精神的負担がかかるのは女性側だ。男性側も、精神的負担を被るかもしれないが、どこかで「いずれ時間という薬が解決する」などと考えている部分もあるのではないか。しかし、女性にとってはそうではない。弥生がいつまでも、中絶した過去を抱え、苦しんでいるように。

ゆき子は、夏の男性としての無責任さと、親に報告しなかった怠慢を許さなかった。そのうえで最後には、母として、夏のことを許し、受け入れた。それに対して、和哉や大和は、最初から夏の立場を尊重し、何か事情があったんだろうと優しさを見せたが、男性ゆえの無責任さが透けて見えてしまう対応だった。

今後、夏が父となり、弥生が母となる選択をするのだとしたら、彼らは丁寧に、そして慎重に、果たすべき責任と示すべき誠実さがそこかしこに散らばっていることを、自覚しなければならないのかもしれない。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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