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『地面師たち』“ライフおじいさん役”でブレイク 76歳俳優が明かした“壮絶すぎる半生” 《胃を全摘出し逃避生活10年間》

  • 2024.9.10
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Netflixシリーズ「地面師たち」©新庄耕/集英社

今、国内外で話題沸騰中のNetflixシリーズ「地面師たち」(大根仁監督/全7話)。動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」にて世界独占配信されると、日本におけるNetflix週間TOP10で6週連続1位、週間グローバルTOP10入りを果たし、日本の枠を超えて世界中で多くの視聴者がくぎ付けに。新庄耕(こう)氏による同名小説を原作とする同作品は、先の読めないスリリングな展開と、一般には馴染みの薄かった「巨額不動産詐欺」を取り扱った新鮮さもあって、多くの視聴者から熱狂的な支持を集めている。

中でも、作中に登場する“名優”たちの演技は最大の見どころ。知的でありながら狂気をはらみ、それでいて最高に魅力的な悪役・ハリソン山中を演じる豊川悦司さん、そんなハリソンに見い出され、時に翻弄されながら「地面師」という生業に引きずり込まれていく辻本拓海を演じる綾野剛さん。ダブル主演の二人だけでなく、北村一輝さん、小池栄子さん、ピエール瀧さん、染谷将太さん、山本耕史さんといった実力派俳優が個性豊かなキャラクターを演じ、ストーリーに厚みをもたらしている。

役に負けない波乱万丈の人生を送る

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Netflixシリーズ『地面師たち』©新庄耕/集英社

そんな日本を代表する“名優”たちに決して引けを取らない存在感を示したのが、第1話で「なりすまし老人」の佐々木役(島崎健一になりすます。以下佐々木)を演じた五頭岳夫(ごず・たけお)さん。出演シーンこそ限られていましたが、犯人側=悪役側でありながら、どこか憎めないキャラクターとリアルな「老人演技」がSNSを中心に話題に。

TRILLではそんな五頭さん本人にインタビューを行い、76歳の“ブレイク俳優”に、波乱万丈の役者人生を伺いました。

(前後編の前編)

※【ご注意ください】以下『地面師たち』の一部ネタバレを含みます。

「仲代達矢さんにはなれないことは分かっていた」

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インタビューに笑顔で応える五頭さん(撮影 / 柴田愛子)

──五頭さんは俳優として40年間以上、さまざまな作品にご出演されていますが、「演技」を志したキッカケは何でしょう?

僕なんかは世代的に“テレビ創世期”を経験しているんですけど、小さな頃からテレビが大好きで、ドラマや映画もよく見ていました。その影響もあって本格的に役者を志し、高校を卒業したら演劇サークルを作って、本格的に活動をしました。憧れたのは『砂の器』にも出ていた加藤嘉(よし)さんや、同じ新潟出身の三島雅夫さん。いわゆるバイプレイヤーと呼ばれる方々です。それが「自分の生きる道」じゃないかなと思っていました。仲代達矢さんになれないことは分かっていたので(笑)。

 

──演劇活動は最初から上手くいったんですか?

いえ、母親のことも考えて、断念しかけたこともあります。僕は生まれが新潟の農家で、6男6女の末っ子。父親は生まれてすぐに亡くなったので、母親が女手ひとつで育ててくれました。子供のころは土日は田んぼに行って農作業を手伝わなければいけなくて、それが嫌で汽車で通わなければいけない少し遠くの学校に進んだくらいです。母だけでなく、上の兄弟もいろいろと面倒を見てくれました。今は亡くなりましたけど、一番上の姉はずっとお米を送ってくれてね。だから生まれてから一度も、お米を買ったことがないんですよ。

 

──俳優業には、ご家族の反対もあった?

母親は「顔も悪いんだから」と反対していました。だから高校卒業後、一度は学校に通って受動者整備士の資格を取り車のディーラーとして働いていた時期もあります。やっぱり母親の涙は見たくないですからね。ただ、やはり演技の道は諦めきれずに、自分の作ったサークルだったり、劇団にも20年間ほど所属して活動を続けました。当時は本名で活動していましたね。

 

「もう役者はできません」医者からの宣告を受け“海外逃避”

 

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──長きにわたる俳優生活の中で、五頭さんのターニングポイントがあれば教えてください。

あれは40代前半……厄年あたりだったんですけど、胃ガンが見つかって二度手術をしました。一度目は胃を半分切除したんですけど、結局残った胃にもガン細胞があるということで全摘出です。そこから1年もしないうちに、「歯がぐらつくなぁ」と思って歯医者に行ったら、東京の大学病院を紹介されたんです。検査をしたら「あごの骨が溶けている」と言われて、あごに金属を入れる手術をしたんですけど、それが「パリン!」と割れちゃうんですよ。結局、6回ほど手術したんですけど、医者からも「もう役者はできません」と宣告されて、それまで自分が持っていた作品の台本なんかも全部処分して、この道から離れることを決断したんです。

 

──役者業から離れている間はなにをされていたんですか?

最初は、日本にいたらいろんなことを考えてしまうので、アメリカやヨーロッパ……海外に行って気を紛らわせていました。ヨーロッパには40日以上滞在しました。ギリシャ、イタリア、オーストリア、ドイツ、スペイン、フランス……忘れられるわけはないんですけど、一種の「逃避」だったんだと思います。帰国後はリハビリをはじめて、それも10年くらいですかね……。リハビリ中は入退院を繰り返しながら、加入していたガン保険の入院保障や、あとはきょうだいたちからの援助でなんとか食いつないでいました。

 

──その後、役者業に復帰されたのはいつ頃?

まずはリハビリ期間中に、エキストラの仕事をはじめました。それまでは舞台が中心だったので、「映像」の仕事はどんなものなんだろうと。カメラの位置はあそこだなとか、ここにいたら映るとか……勉強ではないですけど、役者魂みたいなものですね。それで、55歳の時に今の事務所に懇願して入れてもらったんです。


五頭岳夫(ごず たけお)
1948年2月7日生まれ。劇団「青年劇場」に20年間在籍し、全国47都道府県を巡演。その後、映画『教誨師』(佐向大監督)で文盲でお人よしの死刑囚を好演。彼の演じる「味のある枯れた老人」には定評があり、数多くの名匠の作品に出演する。方言のレパートリーは津軽・南部・越後・新潟・熊本・京都弁。『地面師たち』ではなりすまし役を演じ話題となる。GMBプロダクション所属。

撮影・柴田愛子