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たった9文字のなかに秘められた“2つの意味”と“2人の人物” 作品の奥深さを象徴する“見事なタイトル”『チ。』

  • 2024.11.28
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(C)魚豊/小学館/チ。 -地球の運動について-製作委員会

魚豊による漫画を原作とした現在放送中のTVアニメ『チ。 ―地球の運動について―』。第8話のタイトルは「イカロスにならねば」だったが、このタイトルには“2つの意味”が込められていると読み解ける。戒めや教訓として使われることが多いイカロスの翼。しかし、本作では2人の重要なキャラクターの姿と重なるのだ。

イカロスのような“無謀さ”を目指すピャスト伯

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(C)魚豊/小学館/チ。 -地球の運動について-製作委員会

イカロスとは、ギリシャ神話に登場するダイダロスの息子。迷宮に閉じ込められてしまったイカロスは、蝋で固めた翼で飛んで逃げようとする。だが、ダイダロスの忠告を無視したイカロスは、太陽に近づきすぎた結果翼の蝋が溶け、墜落し命を落としてしまった。

第8話では、研究会にて天文研究所の所長・ピャスト伯がイカロスの話を持ち出した。完全な天動説を完成させようとしているピャスト伯は、無謀さが必要だと語る。蝋でだめなら鋼の翼で太陽という真理に向かい続ける無謀さがないと、完全な天動説の証明はできない。そして、彼は「イカロスにならねば」と言うのだ。

ピャスト伯は、いとこ違いの教授に対しても学術発展のためには無謀さが必要だと語っていた。彼にとって無謀さはとても重要であり、モットーとなっているのだろう。

「過剰な欲望や無謀な挑戦は自らを破滅させる可能性がある」という教訓で使われるイカロスの翼。また、人間が生み出した技術への過信を戒める言葉としても使われる。太陽を真理に置き換え、イカロスのように無謀になっても天動説を完成させようとするピャスト伯は、残り少ない命を前にそれほど追い込まれているというふうにも受け取れるのだ。

ヨレンタはもう1人のイカロス?

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(C)魚豊/小学館/チ。 -地球の運動について-製作委員会

第8話のタイトルは、ピャスト伯のセリフを指しているとわかる。しかし、もう1人イカロスになろうとしている人物がいた。天文研究助手・ヨレンタだ。

ヨレンタは「女性だから」という理由でずっと差別されていた。天文研究所の先輩・コルベに「女性の論文なんて誰が読むの?」と論文の名義を書き変えられ、涙があふれるシーンも。女性蔑視の世の中で、ヨレンタにとって女性であることは一種の“制約”といえるだろう。

そんななか、ヨレンタはバデーニとオクジーの仲間になり、地動説の研究に協力すると決意。これまで差別によって苦悩が多かった彼女だが、自らを、そして世界を変える大きな一歩を踏み出したのだ。

ヨレンタの真理に立ち向かう姿は、周囲の人々の目にはあまりにも無謀に映るだろう。立場の弱い女性が、世の中の常識とされている天動説をひっくりかえすことの難しさ。その無謀さは、まさにイカロスと重なるのだ。

また、ピャスト伯とヨレンタが会話した後、彼女の頭上の夜空にひとつ星が輝いているシーンがある。その前には、ピャスト伯の持つろうそくがじんわりと溶ける描写も。ろうそくが溶ける描写は蝋でつくられたイカロスの翼を彷彿とさせて不穏だが、ヨレンタの頭上で輝く星は希望を感じさせる。

無謀な挑戦をするピャスト伯とヨレンタ。2人はどちらもイカロスの姿と重なる。異端者となったヨレンタは、もしかするとイカロスのように最悪の結果になってしまうかもしれない。だが、ヨレンタの頭上で星が輝くシーンが希望を感じさせるように、明るい未来を願いたくなる。

「イカロスにならねば」という第8話のタイトルに込められた2つの意味は、本作の奥深さを見事に象徴している。作品を形作る一つひとつの深みが、『チ。』の面白さに繋がっているのだ。

チ。 ―地球の運動について―
ABEMAでは『チ。 ―地球の運動について―』毎週土曜日夜24時10分より無料独占・見放題最速配信
放送後1週間、最新話を無料で視聴できる。
[番組URL]https://abema.tv/video/title/568-32
【(C)魚豊/小学館/チ。 -地球の運動について-製作委員会】


ライター:まわる まがり
主にアニメについての記事を書くライター。コラムやレビュー、映画の作品評を手がける。X(旧Twitter):@kaku_magari


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