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8年ぶりに感染拡大か、9月急増中の『ナゾの肺炎』 現役医師が明かす“咳症状の正体”にゾッ…

  • 2024.9.14
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

現在大流行中の「マイコプラズマ肺炎」。2024年8月現在における日本での感染者数について、国立感染症研究所が発表したデータによると、2024年第32週(8月5日~8月11日)の時点で、マイコプラズマ肺炎の報告数が過去5年間の同時期の平均をかなり上回っていたのだそう。

この感染増加の傾向は第27週(7月1~7日)から続いており,2016年以来8年ぶりの高い水準となっているのだとか。しかも、9月になって夏休みが終わり、全国的に学校が再開したことで、今後さらなる感染者の増加が予測されているそうです。ただ、そもそもマイコプラズマ肺炎がどのような病気なのか、まだまだ知らない方も多いかもしれません。

そこで今回は、今流行りのマイコプラズマ肺炎の症状や感染経路、治療法や予防法について詳しく解説させていただきます!

1.そもそもマイコプラズマ肺炎ってなに?

マイコプラズマ肺炎とは、「肺炎マイコプラズマ」というとても小さな細菌が原因で起こる肺の感染症です。

この細菌は一般的な細菌とは異なり、細胞壁という細胞をつくる壁を持っていません。そのため、一般的な抗生物質(ペニシリンやセフェムなど)が効かないという特徴があります。

それはなぜか。実は、一般的な抗生物質は,細胞壁を壊すことで細菌を撃退する仕組みになっています。そのため、対象である細胞壁を持たない肺炎マイコプラズマには、効果が発揮されないそうです。

また、マイコプラズマ肺炎は、「異型肺炎」とも呼ばれているのだそう。通常よく見られる、一般的なばい菌による肺炎とは少し異なり、下記のような特徴を持っています。

①特に子供から若い世代に多い(高齢者に少ない)
基礎疾患がない方に起こる
かなり頑固な咳が特徴的
④胸部の聴診をしても音が目立たない
痰が少ない
⑥血液検査で白血球(ばい菌と戦う細胞)の数が増えない(一般的な肺炎では増えることが多い)

通常、秋から冬にかけて感染者が増える傾向があったそうです。また、かつてはオリンピックイヤーに多いと言われていましたが、その特徴は薄れつつあると言われていたのだとか。

しかし、2024年パリオリンピックが終わった今、日本で流行し始めたそうです。

2.どんな症状が出るの?

マイコプラズマ肺炎の症状は、最初は風邪とよく似ているそうです。発熱、頭痛、全身のだるさなどの初期症状が現れるため、風邪ともコロナとも、インフルエンザとも見分けがつきづらいのだとか。

しかし、その後咳が出始めるだそう。この咳は痰がらみをともなわない乾いた咳で、最初は軽いことが多いですが,時間が経つにつれて徐々に激しくなるのだとか。特に夜間や早朝に咳がひどくなりやすく、マイコプラズマが体内で大暴れし終わり、熱が下がった後も3~4週間、時にはそれ以上にわたって続くこともあるそうです。

そのため、ただの風邪だと思って放置してしまうと症状が長引きつらい思いをしてしまう可能性があります。また、時には耳の痛みや喉の痛みなどの上気道症状をともなったり,吐き気や下痢などといった消化器の症状をともなう方もいるそうです。

さらにマイコプラズマ肺炎は、まれに重症化して深刻な合併症を引き起こすこともあるそうです。例として、

無菌性髄膜炎(脳や脊髄を覆う膜の炎症)
心筋炎(心臓の筋肉の炎症)
関節炎(関節の炎症)

などが挙げられるのだそう。これらの合併症が起きた場合、もともと若くて元気な方でも、入院が必要になることもあるそうです。

3.感染経路、予防法は?

(1)感染経路

マイコプラズマ肺炎は,主に飛沫感染と接触感染によって広がるそうです。

飛沫感染:感染者が咳やくしゃみをすることで放出される細かい水滴(飛沫)を他の人が吸い込むことで起こる
接触感染:感染者が触ったものを他の人が触ることで、その手を通じて病原体が体内に入ることによって起こる

ただし、マイコプラズマ肺炎は、コロナやインフルエンザのように次から次に広がっていくと言うほどの感染力はないそうです。感染が成り立つためには濃厚接触が必要と考えられており、地域での感染拡大の速度は一般的に緩やかなのだとか。

感染が広がるのは,友人や家族間などでの濃厚接触によるものが重要とされているそうです。特に学校や家庭など、いわゆる密な閉鎖的な空間での感染が多く見られるのだとか。集団生活をしている子どもたちは、お互いに密接に接触することが多いため,感染が広がりやすい状態といえるそうです。

また、マイコプラズマ肺炎は、感染してから症状が現れるまでの潜伏期間が2~3週間と長いのも特徴の1つ。そのため、自分が感染していることに気づかない間に,知らず知らず他の人にうつしてしまうこともあるそうです。

(2)予防法

マイコプラズマ肺炎には有効なワクチンがないため,感染を予防するためには,日常的な手洗いやマスクの着用,消毒といった基本的な感染対策が重要なのだそう。特に感染が広がっている時期や地域では,いつも以上に基本的な対策を意識することが重要です。

咳やくしゃみをするときは、できるだけ人のいない方向を向いたり、ティッシュや肘の内側で口と鼻を覆うようにすることで周囲への感染を防ぐことができます。コロナ禍で学んだ感染予防対策に、しっかり取り組んでいきましょう。

4.どうやって診断するの?治療法は?

(1)診断

マイコプラズマ肺炎の診断は、実はそれほど簡単ではないそうです。

まず症状を聞き取り、その後「胸部X線検査」や必要に応じて「CT検査」を行って肺の状態を確認します。マイコプラズマ肺炎の患者さんの肺には「すりガラス陰影」「気管支肺炎像」と呼ばれる特徴的な像が見られることがあるものの、これらは他の病気でも見られるため、直接確定できるわけではないようです。

マイコプラズマ感染症の診断には、

マイコプラズマ自体を見つける方法
②体の中にできたマイコプラズマに対する抗体を調べる方法

があるそうです。

マイコプラズマを見つける方法には、「培養法」「抗原検査法」「PCR法」などがあります。この中で、培養法は時間がかかるため、実際の診療の現場ではあまり使われないそうです。現在は、一般的にPCR法やLAMP法などが使われているのだとか。

抗体を調べる方法では「PA法」や「CF法」「ELISA法」などがあり、日本では感染後1週間程度で増える抗体に着目したPA法が急性感染をとらえやすいとされよく使用されますが、こちらも結果が出るまで時間がかかるため、実際にはあまり活躍しないそうです。

そのため、マイコプラズマを直接見つける「LAMP法」が有効とされているものの、マイコプラズマは下気道(のどの奥より下の気管や気管支)で多く増殖するばい菌で、鼻から綿棒をいれてとどく範囲の上気道には、そもそもあまり存在していない可能性もあるそうです。そのため、上気道からの検体では捉えることが難しく、仮に検査が陰性であっても、本当に陰性な場合と、検査では捉えきれなかった場合とが起こり得るそうです。

結論として、マイコプラズマの診断は一つの方法だけではなく、臨床症状や地域の流行の仕方、ご家族や生活範囲での患者さんの有無、画像所見や検査所見などを組み合わせて、トータルで判断することが必要になるのだとか。

(2)治療法

マイコプラズマ肺炎の治療には、主に「マクロライド系」と呼ばれる抗菌薬が使われているそうです。しかし最近ではこの薬が効かない「耐性菌」が増えてきており、その場合は「ニューキノロン系」や「テトラサイクリン系」の抗菌薬が使用されているのだとか。

特に子どもには、テトラサイクリン系の薬は副作用のリスクがあるため、使うときには慎重に、メリットとデメリットを判断する必要があるそうです。咳がひどい場合には咳止め薬を、熱が高い場合には解熱薬を一緒に用いて、症状を緩和しつつ、抗菌薬でマイコプラズマをやっつける作戦がとられています。

治療を受けている間、体はマイコプラズマと必死に戦っています。余分な体力を使わないように体をしっかりと休め、高熱に対しては水分を十分に摂ることが大切です。

症状が治まってきたら入浴できますが、長時間の入浴は疲労や脱水につながるため、最低限の清潔を保つことを優先した方がいいのだそう。ゆっくりお風呂を楽しむのは好ましくないようです。

また、症状がよくなったあとも、咳が出ている間はマスクを着用しましょう。周囲の人に感染を広げないように注意することも、とても大切なマナーです。

5.生活上の注意点は?

マイコプラズマ肺炎にかかると、学校や部活動を休まなければならないことが多いようです。

マイコプラズマ肺炎は、学校保健安全法の第三種の感染症に分類されており、出席停止の期間は「病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで」とされています。つまり、明確な出席停止期間がありません強い咳が続いている間は、他の人に感染を広げるリスクがあるため、無理に登校せず落ち着くまで休養を取りましょう

まずは予防を心がけよう!

現在大流行を見せており、今後もさらなる感染者数の増加が予想されているマイコプラズマ肺炎。時には若くて元気な方でも重症化する可能性がある恐ろしい病です。普段からしっかり予防を心がけ、少しでも早く流行が収まることを願いましょう。


監修:草ヶ谷医院・院長 草ヶ谷英樹

がん、アレルギー、感染症、自己免疫疾患、環境関連疾患など、多彩な病気を扱う呼吸器内科にひかれ勉強を始めました。大学院で気道免疫の研究をすすめ学位を取得する中で、免疫反応やアレルギー疾患に興味をもち、現在は呼吸器内科・アレルギー科を専門に診療しています。