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月9『海のはじまり』ロスの今、あえて『silent』を観たほうが良い理由

  • 2024.10.1

生方美久脚本、村瀬健プロデュースのタッグは『silent』(2022)からはじまり、『いちばんすきな花』(2023)そして『海のはじまり』(2024)と放送されるたびに話題を呼んでいる。最終回を終えたばかりの『海のはじまり』が大反響だったのも、『silent』の良質さが信頼につながっているからだろう。双方の作品で注目したいのは、やはり主演の目黒蓮による表現の幅と、同じ人物の二面性をナチュラルに表出させる底力だ。『silent』『海のはじまり』を比較しつつ、その魅力に触れたい。

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(C)SANKEI

伝えることの大切さ

2022年に放送された『silent』は目黒蓮と川口春奈のW主演。目黒蓮演じる佐倉想と、川口春奈演じる青葉紬は、高校生のときに知り合うや否や想いを通い合わせるが、なぜか卒業後すぐに想から紬へ別れの意思が告げられる。その理由は、当初「ほかに好きな人ができた」としか伝えられず、紬は納得できないままに、くすぶっていた。

『silent』と『海のはじまり』で共通しているのは、抱えている想いを大切にすること、それを相手に伝えることの重要性に触れている点だ。

『silent』では、想が「言葉」と題した作文を生徒たちの前で読み上げるシーンがある。「言葉は何のためにあるのか。なぜ生まれ、存在し続けるのか」と、言葉の存在意義や、それを相手に届けることでつながれる可能性について触れる想の人間性は、どこか『海の始まり』で目黒蓮が演じた月岡夏にも通じるところがある。夏も、あまり言葉が上手ではなく、自分の本音を告げられずに苦労する場面がたびたびあった。

想が紬から離れていった理由は、卒業後、自身の難聴を自覚し、その症状が少しずつ進みつつあることに恐怖を覚えたからだった。このままでは、紬の声も聞こえなくなる。彼女の笑い声も聞けなくなるし、電話もできなくなる。一緒に音楽を聴くことだって……。

一緒にいたいのに、一緒にい続けることを考えると、つらくなる。自分だけではなく、紬のことも傷つけ、苦しませることになる未来を案じ、想は紬から離れることを選んだのだ。

俳優・目黒蓮の表現の機微

『silent』『海のはじまり』の興味深い対比点として、目黒蓮が演じる人物像を挙げたい。

『silent』の想は、紬に理由を告げず、自ら離れていくキャラクターだ。第1話の最後、紬と再会した想は彼女に対して「なぜ別れたのか」を事細かに説明するが、それはすべて手話によるもので、紬にはすぐには伝わっていない。

対して『海のはじまり』の夏は、大学時代の元恋人である南雲水季(古川琴音)から理由を告げられず、一方的に別れを告げられる立場にある。去る側と、去られる側。その対比は、俳優・目黒蓮の演技の幅や表現の機微を、否応なしに重厚にした。

『海のはじまり』を観たあとに『silent』を観ると、同じ人間が演じているにも関わらず、一目で人物像が違うことがわかるのだ。夏は夏、想は想の人格が憑依していることが伝わり、ナチュラルな表情で体現されている。それが同じ人物同士であったとしても、高校時代(または大学時代)と社会人になってからでは、醸し出される雰囲気からして異なっている。

プロデューサーの村瀬氏は、映画『月の満ち欠け』はもちろん、『silent』でともにした目黒蓮と『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』の有村架純とで、良い物語がつくれると直感し『海のはじまり』の構想に至った、と語っている。

同じ俳優に対し、物語やキャラクターを通してどれだけの魅力を引き出せるかを考えるのは醍醐味とも言えるだろうが、目黒蓮に対する作り手としてのインスピレーションが止まらない様子は、そのまま俳優・目黒蓮の魅力を表している。

『silent』放送当時、登場人物たちがしきりに訪れていた下北沢周辺は、ドラマの聖地としてたくさんの人が訪れる場となっていた。『海のはじまり』ロスに陥っているいま、あえて『silent』に触れ、あらためて撮影地を訪れてみるのも、彼らと想いを重ねる良い体験になるかもしれない。



フジテレビ系『silent』

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_