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なぜ日本のネトフリ作品はここまで「バズる」のか 『極悪女王』『地面師たち』に隠された“仕掛け”

  • 2024.9.29
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Netflixシリーズ『極悪女王』独占配信中

『地面師たち』『極悪女王』といった国内制作のNetflixドラマが次々と配信され、国内外で注目されている。

7月25日に配信された『地面師たち』は、地面師と呼ばれる不動産詐欺を仕掛ける犯罪者たちの物語。劇中で描かれる100億円不動産詐欺は2017年に実際に起きた被害額約55億円の「積水ハウス地面師詐欺事件」をモデルとしている。

一方、9月19日からはじまった『極悪女王』は、80年代に盛り上がった女子プロレス旋風の内幕をダンプ松本(ゆりやんレトリィバァ)、長与千種(唐田えりか)、ライオネス飛鳥(剛力彩芽)といった、実在する女子プロレスラーの視点から描いた実録モノの青春ドラマだ。

どちらも実録モノで過激な描写が多いため、今の民放のテレビドラマでは描くことが難しい題材だろう。今回実現できたのは、Netflixの配信ドラマだったからだと言って間違いない。

テレビドラマでは描くことが難しいテーマと題材に挑んできたNetflixドラマ

今や民放ドラマやNHKと肩を並べる存在と言っても過言ではないNetflixドラマは、出演俳優の豪華さ細部まで作り込まれたリッチな映像といった国内ドラマの何倍もの予算と時間を費やすことで実現された破格のスケール感が毎回話題となっている。

何より注目が集まるのが、テレビドラマでは描くことが難しいテーマと題材だ。

AV(アダルトビデオ)業界の勃興期の狂騒をAV監督の村西とおるを主人公に描いた『全裸監督』、東日本大震災の津波の影響で起きた福島第一原視力発電所の事故によるメルトダウンの恐怖を描いた『THE DAYS』、森友学園問題をモチーフとした『新聞記者』、大相撲業界の闇を描いた『サンクチュアリ -聖域-』、そして今回の『地面師たち』と『極悪女王』、どれも地上派では描くことが難しい題材である。

こういった社会的な事件や題材を扱いながらも、NHKドラマのような真面目な作品ではなく、エロスと暴力と恐怖がブレンドされたエンターテインメント作品として打ち出していることこそが、多くのドラマファンがNetflixドラマに惹きつけられている理由だろう。

1997年に設立され、オンラインでのDVDレンタルサービスとして始まったNetflix社は、その後、事業を拡大。2007年に入ると中核となる事業をDVDレンタルからストリーミング配信サービスへと以降していった。 その際に力を入れたのが『ハウス・オブ・カード 野望の階段』『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 堀の中の彼女たち』『ストレンジャー・シングス 未知の世界』といった自社制作のドラマ配信だ。

そのため、2015年秋に日本でストリーミング配信サービスがスタートした時も、海外の配信ドラマやドキュメンタリーが観られることが最大の売りだった。

又吉直樹の小説をドラマ化した『火花』等のNetflix制作の国内ドラマも作られていたが、当初は手探りで、映画やテレビドラマでやってきたことを配信作品に置き換えたものがほとんどで、Netflixならではの国内ドラマを作ることは難しかった

評判になるものも、前述したアメリカの海外ドラマや『愛の不時着』、『梨利院クラス』、『イカゲーム』といった韓流ドラマがほとんど。日本のコンテンツで話題になるのは、アニメやリアリティショーで、ドラマは一歩出遅れていた。

これはおそらく、地上波のテレビドラマと配信ドラマではテーマ設定や作り方が異なり、Netflix配信ドラマならではのツボを見極めることが当初は難しかったからではないかと思う。

社会の暗部を抉るような過激な題材やエロや暴力の描写、海外ドラマのような綺麗なルックの映像など地上波ドラマとの違いは多数ある。だが何より最大の違いは、毎週1話ずつ放送するか、全話一挙放送するかという放送形態にあるのではないかと思う。

「全話一挙配信」がもたらすジェットコースター感

毎週1話ずつ放送されるテレビドラマの場合、撮影が半分くらい終了してからテレビの放送がはじまり、途中から視聴者の反響を受け止めた上で作り手が変えていくというライブ感がある。

その結果、当初は想定していなかった人気が出たため出番の増える俳優がいたり、逆に序盤で入れた恋愛要素が不評だと引っ込めてサスペンス中心で行くといったリアルタイムでの修正が可能となる。 何より連続ドラマの楽しさは来週への引きであり、意外なところで「次週に続く」となったドラマの次の展開を予想して楽しむ一週間も含めてドラマの楽しさだったりする。

ある種、1クール(3ヶ月)、2クール(半年)のマラソンとも言え、その期間さえ面白ければ、結末が酷くてもそれなりに楽しめてしまうのがテレビドラマだ。

対して配信ドラマは1話を観た視聴者を作品世界に引き込み、最終話まで一気につれていくようなジェットコースター感が必要となる。

そのため、ドラマの作りもストーリー優先となり、たとえば全8話の話なら、1〜7話で主人公がどんどん酷い境遇に追い詰まれていき、最後の8話で形成逆転となるような展開が好まれる。

このあたりも地上波のドラマ大きく違うところで、今のテレビドラマは物語や登場人物に不快な要素があると視聴者が耐えきれず、辛い展開が続くのなら観ないと損切りされてしまう。

だから仮に辛い展開が続くのであれば、どこかで希望が感じられるような予防線を張らないと、視聴者はストレスを感じて、簡単に観るのを辞めてしまう。対して、一挙配信のNetflixドラマの場合、すぐに続きを観られるため、視聴者にストレスがかからない。むしろ続きはどうなるのか? という興味を惹くことができるため、登場ををどんどん過酷な状況へと追い込んでいく。

『全裸監督』や『サンクチュアリ -聖域-』といった近年の話題作はそういった一挙配信ならではのストーリーテリングの快楽を完全に血肉化しており、だからこそ多くの視聴者を惹きつけることに成功している。同時に主人公も万人に愛されるいい奴でなく、視聴者が不快になるような何を考えているかわからない嫌な奴を主人公にできるし、むしろ嫌な奴の方が関心を引くことができる。

そういった国産Netflixドラマが試行錯誤して積み上げてきた作劇構造の集大成と言えるのが『地面師たち』と『極悪女王』だ。

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Netflixシリーズ『地面師たち』独占配信中

『地面師たち』の企画・監督・脚本を担当しているのは、深夜ドラマ『モテキ』(テレビ東京系)や映画『バクマン。』の監督として知られる大根仁。原作は新庄耕の同名小説(集英社)だが、大根は細部にドラマならではのアレンジを加えており、全7話を一気に見せる巧みな脚色となっている。

一方、『極悪女王』は監督に『凶悪』などの映画で知られる白石和彌。企画・脚本・プロデュースを元放送作家で『離婚しない男-サレ夫と悪嫁の騙し愛-』(テレビ朝日系)などのドラマ脚本で知られる鈴木おさむが担当している。本作も全5話を一気に見せる巧みな脚本となっているが、なんといっても最大の見どころは、劇中で再現されるプロレスの試合。女優陣がリングで血まみれになって暴れ回る姿は圧巻の一言で、鬼気迫る迫力がある。

どちらも現時点における国産Netflixドラマの到達点と言って間違えないだろう。
気になる方は試しに一話だけでも観てほしい。きっと最終話まで一気に見てしまうはずだ。



ライター:成馬零一

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。