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国民的アイドルが「量産型女子」を熱演…「テレ東深夜」枠が愛されるワケ

  • 2024.8.22

グルメドラマから伝播したテレ東深夜の"雛形"

日本では多くのテレビドラマが放送されているが、この10年で大きな存在感を示すようになったのがテレビ東京の深夜ドラマである。

民放のプライムタイムに放送されている連続ドラマのようなスケール感はないが、低予算で少数精鋭であることを逆手にとって、コンパクトで自由度の高い作品が多数作られている。

作品のバリエーションも豊かだ。『モテキ』や『なぞの転校生』のような作り込まれた文芸的なドラマもあれば、『勇者ヨシヒコ』シリーズのような楽しいコメディもある。その一方で『山田孝之の東京都北区赤羽』のような俳優が本人役を演じるドキュメンタリーテイストのドラマもあれば、『ちぇりまほ』(30歳で童貞だと魔法使いになれるらしい)のような男性同士の恋愛を扱ったBL(ボーイズラブ)ドラマもある。

中でも一番の人気ジャンルと言えるのが、料理を題材にしたグルメドラマだ。

2012年に放送が始まり現在、シーズン10まで作られている『孤独のグルメ』が代表作だが、主人公の中年男性が仕事の帰りに立ち寄った飲食店で料理を食べながらモノローグ(心の声)で料理のおいしさについて実況していくという本作のシンプルな作劇構造は、のちのグルメドラマに大きな影響を与えている。

魅力的な主演俳優1人とおいしい料理があれば作品として成立する『孤独のグルメ』は、最小単位のドラマだと言え、この雛形を作ったことでグルメドラマは大きく発展した。

そしてこの雛形は、近年はグルメドラマ以外の作品にも転用されている。

サウナ通いを楽しむ中年男性の姿を描いた『サ道』、日常の中にある変わった風景を見つけて楽しむ二人組の女性を主人公にした『日常の絶景』、ゲームの『ポケットモンスター』を楽しむ女性を主人公にした『ポケットに冒険詰め込んで』。これらの作品は趣味に没頭する個人の姿を魅力的に描いた“趣味ドラマ”で、題材次第でいくらでも展開できるため、巨大ジャンルとなりつつある。

与田祐希主演『量産型リコ』シリーズが愛される理由

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(C)SANKEI

そんな趣味ドラマの最先端と言えるのが、現在「木ドラ24」枠(木曜深夜24時30分〜)で放送されている『量産型リコ -最後のプラモ女子の人生組み立て記-』(以下『量産型リコ』)だ。

本作は派遣の仕事をしている25歳のリコこと小向璃子(与田祐希)が、亡くなった祖父の遺品を整理している時に見つけた作りかけのプラモデルをきっかけにプラモ作りに目覚めていく物語。

劇中には様々なプラモデルが登場するのだが、リコが馴染みのプラモデル屋・矢島模型店でプラモデルの箱を開けて、パーツを一つ一つ丁寧に切り離して組み立てていく様子を撮影した美麗な映像が本作の見どころとなっている。

プラモのパーツをペンチでパチンパチンと切り離していく様子をリズミカルなショットの積み重ねで見せていく様子がとても心地よく、見ていて病みつきになる。同時にリコを演じる乃木坂46の与田祐希がプラモ作りに没入している表情や手捌きも美しく撮っており、アイドルのPVとしても絶品だ。

一言でいうと、アイドルがプラモを作る姿を堪能するドラマだが、プラモとリコたち家族の物語がリンクしているため、物語としても奥深い作品となっている。

実は『量産型リコ』は、今作で第3シリーズとなる人気シリーズだ。毎回、与田が演じるリコという女性がプラモ作りにハマるという展開で、一部出演者もレギュラー化しているが、リコの設定と舞台は毎回違うものとなっている。

2022年に放送された『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』の舞台はイベント企画会社で、リコは会社員だった。2023年に放送された『量産型リコ -もう1人のプラモ女子の人生組み立て記-』の舞台はスタートアップ企業支援プロジェクトで、リコは大学の仲間と立ち上げたスタートアップ企業の社長だった。

この二作は会社が舞台で、今時の20代の働く女性の悩みを描いたお仕事モノのドラマとしても面白かった。

対して、現在放送されているシーズン3は家族の物語だ。リコは派遣社員だが、現在は実家に帰省中で、物語も家族とのやりとりが中心のホームドラマとなっている。

三作に共通するのはリコが「量産型」女子だと言うことだ。量産型女子とは、おしゃれで流行に敏感だが、全てが平均的で突出した個性がない女性を指す言葉で、どちらかというと揶揄や自虐として使われることが多い。

リコもまた、仕事はそれなりにできるが自分の意見が特にないため、周囲からはやる気がないと思われ「量産型」と嫌味を言われることが多い。その意味であまり主人公らしい人物とは言えない。

第1シリーズの第1話でリコが初めて作るプラモデルは、ロボットアニメ『機動戦士ガンダム』に登場するモビルスーツ(ロボット)の量産型ザクだった。このザクを作ったことをきっかけにリコは。プラモ作りにのめり込んでいくのだが、主人公が乗るガンダムではなく、量産型のザクにリコが愛着を持ったことはとても重要で、本作のスタンスを示している。

また、リコを演じる与田祐希は、大人数のアイドルグループ・乃木坂46に所属するアイドルだ。AKB 48の大ブレイク以降、大人数のアイドルグループが増えているが、今のアイドルは人数が多いため、可愛くて歌とダンスがうまいだけだと埋もれてしまう。そのため、付加価値となる個性や才能が求められ、能力を超えたところで熾烈な競争を強いられる。彼女たちアイドルの姿はそのまま、真面目で優秀だが突出した個性がないことに悩んでいる「量産型」の若者たちの姿と合わせ鏡になっていると言えるだろう。

量産型だったリコは、プラモ作りという趣味を持つことで少しずつ変わっていく。しかしだからといって脱・量産型を目指す物語になっていないのが、本作のユニークなところで、最終的に量産型という言葉を前向きなものとして捉え直そうとするリコの姿が過去作では描かれてきた。

今回の第3シリーズは亡き祖父が楽しんでいたプラモ作りに触れることでリコが自分の知らなかった祖父の意外な素顔を知っていく家族の物語となっているが、おそらく最終的には、量産型=平凡で普通の私を肯定する物語となるのではないかと思う。

外から見れば同じ「量産型」に見えるが、深く掘り下げていくと微妙に違う個別の顔が見えてくるということを『量産型リコ』は描いてきた。

これは人間にもプラモデルにも、深夜ドラマにも言えることだろう。

アイドルがプラモを作る趣味ドラマを入り口に、量産型としての自分をいかに受け入れ、肯定するかというテーマと『量産型リコ』は向き合い続けてきた。だからこそ、本作は愛されるドラマシリーズに育ったのだ。


ライター:成馬零一

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。