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なぜ、月9『海のはじまり』や『西園寺さん』には“悪役”が登場しないのか 昨今のドラマに“優しい世界観”を求める人々

  • 2024.8.19
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(C)SANKEI

このところ、何かと厳しいことが多い現実世界……。エンタメくらいは、ただただ楽しみたい! と、思っている人も少なくないはず。特に、テレビやスマホ等で気軽に見られるドラマは、「悪人なんか出てこない、優しい世界の話が見たい」と思っている人が、筆者の周りでも最近は割と多い気がします。

反対に、「いやいや、現実じゃないからこそ、悪人とまではいかなくても、クセの強い人が登場する、複雑に絡み合う人間模様の物語や、周りを妬んだり、足を引っ張り合ったりする人たちが出てくるような、ドロドロのドラマが見たい!」という人も、もちろんいるに違いありません。

いい人しか出てこないドラマ

フジテレビ系の月9ドラマは、1作前の『366日』にも、現在放送中の『海のはじまり』にも、悪い人は表立って出ない設定になっています。両作とも、お互いを想い合い、支え合う人たちのドラマで、つらいことがあっても前を向いて行こうという気持ちにさせてくれます。

放送中の『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)も、主人公の職場の上司も同僚もいい人ばかりで、家族についても、過去にいろいろありつつも、決定的な悪人は探しても見つかりません。

登場するのはクセが強すぎるキャラクターばかり

一方、クセの強いキャラクターしか出ないように見えるのは、『新宿野戦病院』(フジテレビ系)、『伝説の頭 翔』(テレビ朝日系)、そして『スカイキャッスル』(テレビ朝日系)です。

『新宿野戦病院』は、医師の中にもお金儲け重視の人がいたり、無免許でも人を救おうとする人がいたりします。悪人ではなく、むしろ微笑ましいくらいのキャラクターが多い中、毒親などについても取り上げ、きれいごとでは済まされない現実をコミカルなタッチで描出しています。

『スカイキャッスル』は、大ヒットした韓国ドラマの日本版リメイクです。本家のドロドロ感を再現するため、足の引っ張り合いやマウント合戦をする、嫉妬心むき出しの人たちが主要キャラクターとなっています。人の不幸や争いごとを、チラッとのぞき見するような感覚のドラマという色合いが強いでしょう。

『伝説の頭 翔』にいたっては、ジャンルが「ヤンキードラマ」なので、登場人物はもちろん不良ばかり。悪人として一括りにするわけではないですが、ぶつかり合って、蹴落とし、のし上がる世界観の中で、青春ドラマが繰り広げられています。

主人公が異色すぎるドラマ

さらに、『ブラックペアン シーズン2』(TBS系)は、世界的な天才外科医なのに、手術を引き受けるには財産の半分を掛け金として要求するなど、人も金をも弄ぶ“悪魔”のようなキャラクターが主人公です。優しい世界とはかけ離れた、非常にスリリングなドラマといえます。

また、『どうか私より不幸でいて下さい』(日本テレビ系)は、タイトルからして「人の不幸は蜜の味」を連想させますが、妹が姉を不幸のどん底に引きずり込む、超泥沼展開の狂気的なドラマとなっています。

現実から離れるには刺激が必要!?

こうして、現在放送中のドラマをチェックしてみると、「悪人が出てこない、優しい世界のドラマ」とは程遠い作品が多い模様。筆者は最近、少し心が疲れ気味なのか、1作前の『366日』から始まり、『海のはじまり』や『西園寺さんは家事をしない』などにハマっています。悪人が登場しなくても特に不満はないですが、やはり刺激を必要としている人は多いのかもしれません。

親たちの壮絶な受験バトルを描く『スカイキャッスル』や、ドラマだからこそ描ける異色の医師が主人公の『ブラックペアン シーズン2』などは、現実離れした内容に没頭できます。このような作品は、厳しい現実世界からむしろ遠ざかる気分にしてくれので、普段にはない面白さを味わえるのではないでしょうか。

韓国では「マクチャンドラマ」が大人気

配信で見られる数々の韓国ドラマは、かなりぶっ飛んだ展開の、超ドロドロ感が魅力の愛憎劇や復讐劇を描く「マクチャンドラマ」というジャンルがあります。非現実的と言ってもいいくらいあり得ない内容は、モヤモヤした気分の時や、イライラして疲れている時には、最高のカンフル剤になるかもしれません。

おすすめは、3シーズン続いた大ヒット作『ペントハウス』です。セレブしか暮らせない、100階建ての超高層マンションを舞台に、泥沼不倫や殺人事件、過剰な学歴社会、機能不全家族といった内容が、次から次へと綴られていきます。まるでジェットコースターのようなストーリー展開に、息つく暇もないですが、現実を忘れるにはもってこいのマクチャンドラマです。

『二番目の夫』も、トンデモ展開だらけのマクチャンドラマ。大切な人を次々と奪われ、殺人の罪を着せられ、生き地獄に突き落とされた主人公が復讐の鬼と化すストーリーです。女性同士の髪の引っ張り合い、取っ組み合いのケンカ、男女問わずビンタの連続など、日本のドラマでは味わえない激しさ満載の作品となっています。

必要なのは気分を上げてくれるドラマ

リアルな日常を忘れて、ただただエンタメを楽しみたい時。その手段の一つとなるのが、気軽に見られるドラマです。悪人は登場せず、良い人だらけの心が洗われるようなドラマを見たいのか、はたまた強い刺激を求めて、悪人やクセの強いキャラクターばかり出てくるドラマを好むのか。どちらを選ぶかは、きっと今の心の状態によるのでしょう。どのドラマを見るにしても、気分が上がる作品を選ぶのが一番です。



ライター:清水久美子(Kumiko Shimizu)

海外ドラマ・映画・音楽について取材・執筆。日本のドラマ・韓国ドラマも守備範囲。朝ドラは長年見続けています。声優をリスペクトしており、吹替やアニメ作品もできる限りチェック。特撮出身俳優のその後を見守り、松坂桃李さんはデビュー時に取材して以来、応援し続けています。

X(旧Twitter):@KumikoShimizuWP