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ブータンで見て感じた“サステナビリティ国家”のリアル~ハピネスを実現する価値観

  • 2024.7.26

カーボンニュートラルを世界ではじめて実現した国、ブータン。オールオーガニック、プラスチック・フリー、自然保護のための憲法厳守はどこまで本当なのか?

Nicolas Floquet

1. ブータンを訪れる観光客はサステナブル・パートナー

ブータンの滞在には、1日につきひとり100ドルが必要だ。ホテル代や飲食費、ツアーガイド代などは含まれていない。これは、ブータンが外国人観光客に課している税金「Sustainable Development Fee(SDF = 持続可能な開発費用)」。2027年8月31日まで1泊200ドルから100ドルに引き下げられているから、期間限定でお得とはいえ、10日間の滞在で夫婦で約45万円! ブータンの観光政策は「High Value, Low Volume(高付加価値・低ボリューム)」だが、観光客にとってはインパクトが大きい。行くからにはしっかりこの目で確かめてこようと、それなりの覚悟をしてブータンの旅を企画した。

首都ティンプーの西に位置するパロ空港に降り立つ前から迫ってくる美しい風景。国土の70%が森林に覆われているとはこういうことか。自然のカーボンシンクとして森が機能し、大気中のCO2を捕捉&貯蔵している。ブータンが世界初のカーボンネガティブな国として環境保護への強いコミットメントを示す背景には雄大な自然のバックアップが必要不可欠だ。ブータンの訪問者は単なる観光客ではない。SDFを支払いブータンの持続可能な発展に貢献するパートナーというわけだ。

写真:幸福や健康の祈祷旗「ルンタ」がはためく。

Nicolas Floquet

2. 鳥のさえずりに癒されて

この旅でもっとも印象的だったのが、バードライフ。たくさんの種類の鳥のさえずりはいつも耳に入ってきて、心から癒された。この目で確かめたかったことのひとつが、鳥類や野生動物の生息状況は本当に“楽園”なのか? この国では命を大事にしていることが実感できた。GNHの追求や仏教的精神に基づく慈悲深い国と聞いてはいたが、「命を守る」価値観がそこここに現れていた。人々もおだやかで治安もよく、健康的に暮らし、環境を守っている。華美ではないが、幸せ。人生の成功とはどういう意味か。サクセスのKPIは? 多くの国では富が人々の主な関心事であり、「成功」の尺度であるが……。人生にはもっと深い意味があるのかもしれないと考えさせられた。

鳥のさえずりが絶えず聞こえるのも、近くに鳥がいるから。人々は当たり前に動物の命を守っている。動物たちは安心して人間の近くにいるのだ。

Nicolas Floquet

3. 食べるために殺すことはしない

ブータンの憲法では条項をひとつ丸ごと環境保護について定めている。生物多様性の保全や自然環境の保護に貢献することは国民の基本的義務。国土の少なくとも60%が森林で覆われることも義務付けられ、厳格な保護措置が取られている。憲法だからか、仏教の影響なのか、鳥も動物も自然もたくさん。自然だらけだ。

標高150メートルから7,500メートル以上にわたる国土は多様な生態系を育んでいる。70種以上の鳥類、5,400種の植物、そしてほぼ200種の哺乳類が生息する生物多様性のホットスポット。絶滅危惧種であるベンガルトラ、ユキヒョウ、クロヅル、ゾウなどの野生生物が、国土の51.32%を占める国立公園、野生生物保護区、自然保護区、生物回廊の広大なネットワーク内を自由に行き来している。

Nicolas Floquet

市場に出かけてみた。小さな国だが、標高差により多種多様な野菜や果物が並べられていた。世界でいちばん唐辛子を食べる国といわれるとおり、唐辛子の種類も豊富だ。唐辛子は野菜として食べられているらしい。驚いたのは、加工肉や干し肉は見かけたが生肉を売っていないことだ。肉屋は市場とは別な場所に存在するがインドから食肉を輸入しているという。野生動物を殺してはいけない。鳥の狩猟も、魚釣りも禁止されている。

Nicolas Floquet

生業のためにヤクの遊牧をしている人に出会った。2~3カ月おきに40頭のヤクを連れて場所を変えて生活しているという。ヤクの毛を刈り、乳を加工。死んだらその肉を食べ、革を加工するのだという。飼っているヤクを守ることが自分も守ること。木を切って暖を取る。森を守るというコンセプトは、生きるための「自分ごと」なのだ。

写真:かごいっぱいの唐辛子は家族4人が3~4日 で食べる量。唐辛子をチーズで煮込む「エマダツイ」が定番料理。

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