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「デート経験率」はバブル期より高いのに…山田昌弘「若者のキス・セックス経験率が激減した本当の理由」

  • 2024.7.24

なぜ若者のデート経験率はそれほど減っていないのに、結婚に結び付かないのか。社会学者の山田昌弘さんは「デートする相手は特別な関係という“足かせ”がなくなり、デート自体を楽しむ若者が増えたから」という――。

公園にいるカップル
※写真はイメージです
中国の高校生は“男女交際禁止”

私が受け持つ大学院ゼミには、何人もの中国人留学生が出席しています。

彼らに、中国の恋愛事情を訊いてみました。

とにかく、高校までは、勉強第一なので、男女交際禁止。

もし、二人でデートしているところが見つかったら、親が学校に呼び出され、こっぴどく叱られるそう。とにかく、中国ではどの大学に入学できるかが、日本以上に人生にとって重大事。恋愛にうつつを抜かして試験勉強をおろそかにしてはならない。大学に入ったら、恋愛は自由。だけど、卒業する頃には、親から結婚を考えろと言われ、25歳になっても結婚相手が見つからない女性は、親から見合いの話が次から次へと持ち込まれる――。

あくまでもゼミ生の話です。中国は広いし、日本に留学するくらいの学力があり比較的裕福な学生の話だ、というのを割り引いても、中国では恋愛が活発でないことは感じられます(ちなみに、中国では学校でのいじめもないそうで、他人をいじめている暇があったらその時間勉強するとのこと――余談です)。

男女交際が「不純異性交遊」だった時代

これを聞くと、多分、高齢の方々は、昔の日本と似ていると思われるかもしれません。

戦後から高度経済成長期にかけて、中高生の男女交際は「不純異性交遊」と言われ、補導の対象となりました。実際、1960年代では、学生服を着ている男女が二人で道を歩いているだけで、巡回している警察官に見つかると厳重に注意、指導されたといいます。それは、1990年くらいまでは地方でも残り続け、かつて地方出身の私のゼミ生から「そういう話は聞いたことがある」と言われました。

交際の内容が“純粋かどうか”というより、未成年の異性が二人だけでいること自体が不純であり、「少年非行」として、認定されていたわけです。今でも奈良県の条例(2006年施行)では、警察職員が非行少年として補導できる項目に、喫煙や暴走行為と並んで「不純異性交遊」とみなされる項目が入り、マッチングアプリ等を利用して「異性」と会うことを禁じていますが、現実に補導が行われているかどうかは、わかりません。

いまだ残る男女交際禁止の校則

令和になった今でも、男女交際禁止の校則をもつ高校は多くあります。ほとんどの場合は、昔の校則が残っているだけで、実際は運用されていないと思われます。

しかし2022年、興味深い判決があり、報道されました。

東京の私立堀越高等学校には、「特定の男女間の交際は、生徒の本分と照らし合わせ、禁止する」いう校則があり、それを根拠に男子生徒と交際した女子生徒に自主退学を強要したのです(男子生徒がどう処分されたかは報道なし)。2019(令和元)年というから驚きです。

これを違法として生徒側が損害賠償請求をしたのですが、東京地裁は「自主退学を強要したのは違法」として損害賠償は認めたものの、校則自体は「違法ではない」という判決を下しました(2022年11月30日東京地裁判決)。

男女交際を理由に退学を強要する高校がいまだ存在するということで、これは当時有名になった訴訟事件です。何をもって男女交際とするかは、少なくとも校則に書かれていないようです。ちなみに、日本性教育協会の調査による高校生のデート体験率は、2017年時点で、男子高校生54.2%、女子高校生59.1%、男子中学生27.0%、女子中学生29.1%ですから、デートしたら退学になるのなら、日本の半数以上の高校生、4人に1人以上の中学生は退学になってしまいますね。

高校生カップル
※写真はイメージです
結婚に結び付かない恋愛は“遊びの一種”か

ただ、少なくとも、バブル経済期以前の時代なら、「結婚前」の男女交際について、社会的な規制がかかっていたし、現実に深い交際は控えられていたのも事実です。

その背景にあるのは、「結婚に結び付かない恋愛、男女関係は単なる遊びである」という考え方です。言い換えれば、「男女交際は、結婚に結び付いて、初めて正当化される」という意識です。

この考え方自体は、恋愛感情(もちろん、性的関係も)を結婚に閉じ込めようとする近代的恋愛の成立と普及、そして、その崩壊とかかわってくるのですが、それはのちの機会に詳しく考察する予定です。

そして未婚者にとっても、「結婚に結び付かない恋愛は良くないものである」という考え方は、バブル経済期前までは広く共有されたものでした。

それをもっとも象徴するのは、未成年、特に中高生の恋愛に対する考え方です。なぜなら、中学生や高校生の男女交際は、そのまま結婚に結び付くことは稀だからです。結婚に結び付かない恋愛は“遊びの一種”だから一律禁止すべきだというロジックが存在し、今でもその名残があるのです。恋愛に伴うキスやセックスなどもってのほかだったわけです。

“コスパが悪い”結婚に結び付かない恋愛

バブル経済期から、結婚に結び付かない恋愛を楽しんでもかまわない、という意識が広がっていきます。関西大学の谷本奈穂教授は、「遊びとしての恋愛」と名付けました(谷本奈穂『恋愛の社会学 「遊び」とロマンティック・ラブの変容』)。

つまり、恋愛が結婚の手段から、そのもの自体を楽しむという目的に変わったのです。そして21世紀に入ると、その傾向が逆転し、結婚に結び付かない恋愛、男女交際は、時間やお金の無駄ではないか、つまりは“コスパ、タイパが悪い”ということで、恋愛は結婚の手段であるという意識が再度復活してきたのではないでしょうか。

今の若者が、結婚前の恋愛やセックスが「いけないこと」だからしないのではなく、単にコスパやタイパが悪いということで避けるようになった――これが私の見立てです。

私の説を先取りして示すと、図表1のようになります。これをもとに、日本の若者の恋愛状況の変化を説明してみましょう。

【図表1】日本の結婚前の恋愛に関する「意識の変化」
高校生のデート、キス、性交経験

先に引用した日本性教育協会の「青少年の性行動全国調査」の結果を考察していきます。この調査は、中高生、大学生を対象に、1974年からほぼ6年おきに行われているもので、当初から社会学者や教育学者が参加している定評のある大規模調査です(中学生の対象調査は1987年から)。

最新は、2023年に調査されてますが、残念ながら本稿執筆時点で公表されていないので、2017年までのデータで検討していきます(今秋公表予定)。

性行動に関する基本的なデータとして、中高大学生のデート経験、キス経験、性交経験のデータがあります。中高大ごとに傾向は多少違いますが、今回は高校生のデータを、少し加工した形(図表2)でお見せします(〈日本性教育協会/研究事業について/第8回青少年の性行動調査〉参照)。

調査データは、経験率(1回でもそれを経験した率)です。

まず、高校生のデート経験率は、今から50年前の1974年は、男性53.6%、女性57.5%でした。以降、バブル経済期にかけてはやや減少しますが、それでも、男性4割、女性5割はデートを経験していた。それから持ち直し、男女とも5割から6割くらいの高校生がデートを経験していたのです。

しかし、キス経験と性交経験は、デートとは違った動きを示します。2005年調査まで、経験率は一貫して増え続け、2011年からむしろ低下します。

1974年には、キス経験率男子26.0%、女子21.8%、性交経験率10.2%、女子5.5%だったものが、2005年には、キス経験率男子48.4%、女子52.2%、性交経験率男子26.6%、女子30.3%となります。特に、女子の経験率が男子を上回るのが注目に値します(今の35歳前後の人たちです)。

恋愛に伴うあこがれの低下

当時は女子高生の3割はセックス経験済み、卒業時点ではもっと多かったはずです(当時の女子高生の親――今65歳くらいの人は「そんなに高いのか」と思うかもしれませんが、当該年代の私のゼミ生が、「高校時代に初体験したけど、両親は私のことまだ処女だと信じている」と語ったこともあります)。

それが、2011年から低下し、2017年には、キス経験率男子31.9%、女子40.7%、性交経験率男子13.6%、女子19.3%となります。それでも1974年よりは、特に女子の数値は相当高くなりましたが。

【図表2】高校生の性行動経験率

近年のキスや性交経験率の低下は、前回紹介した出生動向基本調査の傾向、2005年をピークとして「恋人がいる人が減少傾向にある」と一致します。

これらの恋愛の不活発化の解釈をめぐって、研究者から評論家までさまざまな説が唱えられています。私は「恋愛、特にそれに伴う、キスやセックスへのあこがれが低下した」「恋愛にコスパ、タイパを求める人が増えた」と解釈していますが、それについては次回以降に触れます。

デート経験に“足かせ”が消えた

今回強調したいのは、「デート」の位置づけの変化です。

デートの経験率はそれほど減っていないのです(中学生ではむしろ増えています)。となると、「デートと、キスやセックスとの結び付きが変化してきた」と考えざるを得ません。

高校生が海辺でデート
※写真はイメージです

私の仮説は、バブル前までは、「デート」する相手は特別の関係と意識されていた。しかし、結婚に結び付かないということで、キスやセックスは控えられていた(現在の60歳以上)。前回述べたように、「友人として交際している異性がいる」が多数いた時代です。

しかし、バブル経済期から、男女交際、つまりは恋愛を楽しんでもかまわないという意識が広がり始め、デートにおけるキスやセックスのハードルが下がっていった。その結果、「デートは経験しているけど、キスやセックスを経験していない」という人が減っていった。図表2からわかるように、1999年、2005年には、デートは経験しているがキスは経験していない人が、男女とも1割程度まで低下します。

しかし2010年頃から、恋愛を楽しんでもかまわないが、恋愛の「楽しみとしての価値」が下がる。恋愛は楽しみというより“面倒”と思う人が増える。しかも「デートする相手は特別な関係」という“足かせ”もなくなる。だから、デート自体を気軽に楽しむことはかまわない。よって、デート経験はそれほど減らない、というロジックが成り立つのではないでしょうか。

次回は、戦後から恋愛結婚が普及するまでの状況を見ていきましょう。

山田 昌弘(やまだ・まさひろ)
中央大学文学部教授
1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主著に『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『「家族」難民』『底辺への競争』(朝日新聞出版)、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社)、『結婚不要社会』『新型格差社会』『パラサイト難婚社会』(すべて朝日新書)など。

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