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「こんなアプローチはまったくもって初めての経験です」──2024パリオリンピック開会式の芸術監督、トマ・ジョリーにインタビュー

  • 2024.7.24

7月26日午後7時30分(日本時間27日午前2時30分)、セーヌ川を舞台に行われる2024パリオリンピックの開会式。現地に集う約30万人の観客に加え、さらに15億人もの人々が世界中から鑑賞するとされるこのスペクタクルの芸術監督を務めるのは、シェイクスピアの名作「ロミオとジュリエット」の翻案などで知られる俳優で舞台演出家のトマ・ジョリーだ。

彼を支えるコラボレーターのリストには、ゴンクール賞を受賞した小説家レイラ・スリマニ、「エージェント物語」(2015)で知られる脚本家のファニー・エレロ、歴史家のパトリック・ブシュロン、そしてジョリーの親友であり共同制作者でもある劇作家のダミアン・ガブリアックら錚々たるメンバーが名を連ねる。また、作曲家のヴィクトル・ル・マスネ、振付師のモード・ル・プラデック、スタイリストのダフネ・ブルキ、プロダクションデザイナーデュオのエマニュエル・ファーブル&ブルーノもこの作品の中心的存在だ。

2024パリオリンピックへのカウントダウンが始まった今、ジョリーは開会式を構成するさまざまな要素や、彼が最も楽しみにしている瞬間など、私たちが期待できることをフランス版『VOGUE』に語ってくれた。

──開会式が競技場外で行われるのはオリンピック史上初です。各国の選手たちは、船でセーヌ川を下ると伺いました。これはかなりのチャレンジだったとお察しします。

そうですね。大胆にも私は通常の構成にとらわれることなく、芸術プログラムや選手団入場、プロトコルの要素などの要素を3時間45分のセレモニーに織り交ぜることにしました。アウステルリッツ橋やイエナ橋の間を選手たちが行き交い、壮大なフレスコ画を描くような演出は、登場するすべての史跡からインスピレーションを得ています。素晴らしいインスピレーションです。

──セレモニーを現地時間の午後7時30分に開始する特別な理由はあったのでしょうか?

私は環境への影響にも配慮しています。(日本より高緯度にあるフランスではまだ明るい)この時間にセレモニーを始めれば自然光を活用でき、照明のための電気エネルギーの使用を避けることができます。それから、開会式による川へのインパクトもありません。私たちは魚たちが産卵する場所を事前に調査し、自然環境を乱さないようにしました。加えて、セーヌ川に落ちるようなものもありません。演出のすべてにおいて、舞台となる「環境」を尊重しているのです。

パリのモニュメント、橋、歴史、ファサード、波止場といったものに、ダンス、サーカス、音楽、アクロバット、コメディなど、あらゆる分野を代表する約3,000人ものアーティストたちが命を吹き込みます。私はこのセレモニーを「la grande célébration de notre humanité partagée(私たちが共有する人間性の偉大なる祭典)」と呼んでいます。

リハーサルの様子。Photo_ Getty Images
リハーサルの様子。Photo: Getty Images

──常に試練にさらされ、癒しを必要とする人類へのトリビュートのようなものでしょうか?

その通りです。4年に1度、オリンピックは世界の断片を見つめる機会を与えてくれます。地球上でこれほどまでに注目されるイベントは、オリンピックだけです。それはまた、歓びや遊び心、団結力を持った人類を祝う瞬間であると同時に、世界で起きている紛争やさまざまな災害に対する懸念に立ち向かう機会でもあるのです。オリンピズムは平和の価値観にも基づいており、特に「オリンピック休戦」はその歴史において非常に重要なものです。

──オリンピックの観客は、年齢、出身地、社会階層においても、まばゆいばかりに多様です。

作家のコラボレーターたちとは、「私たち」というアイデアに取り組みたいと思いました。多様な場所で生まれ、多様な方法で育ち、多様な文化を持つ多くの「私たち」が、ひとつの世界を成している。私たちは開会式の夜に、その事実を祝わなければなりません。フランスという国が、自由、平等、友愛という3つの基本的価値観を守らなければならないように。

左から時計回り:開会式の音楽を担当したヴィクトル・ル・マスネ、芸術監督のトマ・ジョリー、ブランディング&セレモニー・ディレクターのティエリー・ルブール、パリ2024大会組織委員会会長トニー・エスタンゲ会長。Photo_ Getty Images
左から時計回り:開会式の音楽を担当したヴィクトル・ル・マスネ、芸術監督のトマ・ジョリー、ブランディング&セレモニー・ディレクターのティエリー・ルブール、パリ2024大会組織委員会会長トニー・エスタンゲ会長。Photo: Getty Images

──開会式の演出において、最大の難関は何でしたか?

ワークショップから生まれたセットや衣装、それから、アーティストたちが集い、創作し、協力し合う姿をこうして目にできるというのは、本当に喜ばしいことです。そして今の私たちの挑戦は、この何十万ものピースからなる巨大なパズルを、開会式当日までに残された非常にわずかな時間で組み立てること。準備は万全なのですが、機密性を保つためにも(実際のロケーションで)完全なるリハーサルを行うことはできません。(出演者も観客も)全員が同時にこのスペクタクルを体験することがゴールです。ドレスリハーサルに慣れている私にとって、こんなアプローチはまったくもって初めての経験です……。

──綱渡りのような状況にあるのでしょうか?

まさに。だからこそ、スリリングなんです。コンセプトにおいても、プロセスにおいても……。このセレモニーは、手本となるものがないパイオニア的なもので、私たちを絶対的な創造の領域に立たせてくれます。退屈になるなんてあり得ません。約6キロにわたるパレードコースに集った観客たちは、誰一人として同じ時間に同じものを目にすることはなく、それぞれが異なるセレモニーを体験することになるのです。そのために、私は1年以上にわたってストーリーボードを描いてきました。スペクタクルをデザインするだけでなく、遠い南米の国にいても、セーヌ川のほとりに座っていても、それパフォーマンスがどのように受け取られるかを考える必要があったのです。

──最も楽しみにしている瞬間を教えてください。

選手たちを乗せた最初の船がオーステルリッツ橋の下をくぐる瞬間は、とても感動的なものになるでしょう。選手たちこそ、この式典の主役です。そして、オリンピックの始まりを意味する聖火が、聖火台に灯されるときが待ちきれません。予算、天候、さまざまな制約に直面しながらこの演出を手がけ、牽引してきた1年半を経て、ようやくすべてを共有できることをうれしく思います。

──観客たちには何を感じてもらいたいですか?

まずひとつは、サプライズです。もう何カ月も前から、このセレモニーについて多くの噂が流れていました。それでも私はサプライズがもたらす感動を絶対に取っておきたかったですし、今のところ(作戦は)うまくいったと感じています。

それから、愛。自分への愛、そして他者への愛。私たちの多様性と共存は祝福されるべきものです。特に最近のフランスの選挙期間中は、オリンピックが大切にする「歓待」や「思いやり」といった考えに反するスピーチが発せられるような困難な時期でした。愛の存在を思い出すことは、癒しになるでしょう。フランスという国は、歌、詩、文学、演劇、映画を通して、この「愛」を表現する方法を知っています。そしてなんといっても、パリは愛の都ですから。

Text: Sophie Rosemont Adaptation: Motoko Fujita

From VOGUE.FR

Sue Bird and Megan Rapinoe at the 2020 Tokyo Olympics.
UNSPECIFIED - _ Wrestlers. Fragment of bas-relief frieze c.500 BC. The Panathenaia, a state religious festival dedicated to Athena, was held every 4 years and included Drama, Music and Athletics. Atheltic element formed Panathenaic Games, precursor of Olympic Games. Archaeological Museum of Thessaloniki (Photo by Universal History Archive/Getty Images)
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